舞網チャンピオンシップ。それは舞網市で行われる一大デュエル大会であった。この大会は小学生が参加する【ジュニア】、中学生以降が参加する【ジュニアユース】、セミプロが参加する【ユース】に分かれている。ユース昇格試験を受け、ユースで勝ち続け、プロテストに受かって初めてプロへとなれる。この大会はそんな登竜門として知られていた。参加者は舞網市のみならず日本中、世界中から出場してくる。
そんな大会に遊勝塾の塾生全員は出場する事が出来た。その為全員で塾長の柊修造が運転する車に乗り会場へと向かっていたが赤城リョーマは拠点にいた。理由としては隣にセレナがいるからだ。
服を買い、アカデミアの制服を着ないようになったセレナだがさすがに大観衆の前に連れて行くわけにはいかなかった。故にこうして実況中継で我慢する事になったのだ。
「何故見に行くことが出来ないのだ?」
「最悪な事に俺の顔は知られてしまっている。下手に騒ぎを起こさず侵攻のその日まで静かに調査を行うべきだろう。エクシーズ次元の侵攻では多くの人間が隠し通路や狭い路地裏を巧みに使い逃げきっている。土地勘や情報がないのは大きく不利だ」
「……それは既に調べ終わっているのだろう? では私が出来るような事は無いではないか!」
「だからリリーサーズの面々はエクシーズに向かっているかシンクロ次元で調査をしているくらいだ。しかし、最近シンクロ次元の警察組織のトップが脱走者だと判明したからな。シンクロ次元の調査もほぼ停止している」
「……」
セレナはここでもアカデミアとやっている事は変わらないと不満顔だった。唯一の違いは監視役が居らず、好きな服を着れて制限はあれど外出出来るくらいだった。しかし、こちらに来てから一度もデュエルを行えていない。正確には拠点以外でだが。拠点ではアクションデュエルを用いたデュエルを幾度か行っておりその動き方もほぼマスターしている状態にあった。
故にセレナの中では飽きが出始めていたが無理を言ってまで我を通し、多大な迷惑をかけたリョーマに感謝している事も事実でセレナはアカデミアにいた頃には信じられない程落ち着いていた。言い方を変えれば借りてきた猫状態とも言えた。
「ん、選手入場が始まったようだぞ」
最初に入って来たのはLDSだった。実力者が多く所属するスクールだ。そして、赤馬零児が社長を務めるレオコーポレーション傘下でもある。しかし、そこに交じっている一人に気付きリョーマは思わず声を上げた。
「あいつ……!」
「リョーマ?」
突然声を上げたリョーマに不審そうな顔をするセレナ。その声にリョーマはハッとして呼吸を整えて言った。
「あの青黒いコートを着ている奴はエクシーズ次元のレジスタンスだ。一度、戦い俺は負けている相手だ」
「っ!? 彼がそうなのか!?」
セレナは驚きのあまり叫んだ。彼、黒咲隼はアカデミア内でとても有名だった。何しろ少数精鋭部隊の隊長を返しのターンで叩き潰しているのだから。更に強敵として細かいプロフィールと共にアカデミア全体で共有されていた。セレナにも監視役のバレットを通して伝えられたが軟禁状態にあった彼女にとってその行動は煽り以外の何もでもなかった。
しかし、そんな人物が同じ次元にいる。それも走れば相対できそうな距離に。思わずセレナは立ち上がり部屋を飛び出しそうになったがそんな彼女の腕をリョーマは掴み、止めた。
「セレナ。約束を忘れたのか?」
「それは……」
「勝手な行動はするな。我らの目的はあくまでスタンダード次元の調査。レジスタンスを倒す事でも騒ぎを起こす事でもない」
「……」
厳しい視線と共に注意を受けセレナは座りなおす。その表情はかなり不承不承と言った感じだったが素直に従った。そんなセレナを見てリョーマはじゃじゃ馬猫女という言葉が思いつくが口に出す事は無くテレビに映る黒咲隼を睨むように見る。
とは言えやがて次の出場者に映ってしまいテレビに映る事は無かった。その後はいろいろな塾が紹介されていき、最後に登場した遊勝塾だった。僅か六名という少数の塾だがペンデュラム召喚を生み出した榊遊矢がいるという事で注目度はたかかった。
そして、その結果なのか選手宣誓を行う事になった。
「榊遊矢?」
「前に話したペンデュラム召喚を生み出した者だ。実力は高いがアクション魔法に依存する少し危ないデュエルをする」
「安定性がないという事か?」
「展開力と機動力、持久力はあるが火力が心もとない」
ペンデュラム召喚を使う以上展開力、持久力はあると言えたが彼のエースモンスターである“オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン”の攻撃力は2500。決して高い数値とは言えなかった。とは言えそこはモンスター効果などで対処している為今のところは問題ないと言えた。
そんな話をしている内に遊矢の選手宣誓は終わりそれぞれのデュエルが始まる。デュエルディスクと連動したシステムらしく詳しい様子は分からなかった。
「……どうやら“融合”どころかエクストラモンスターを使う者がほとんどいないのは本当らしいな」
「ああ、LDS以外ではいないと言っていい」
セレナはデュエルの様子を見てそう言った。その言葉にリョーマは賛同する。今写っているデュエルのほぼ全員がアドバンス召喚による召喚方法ばかりであった。そうしていくつうちに午後となり柚子の番となったが彼女の顔を見たセレナは目を見開らいて驚いている。
「っ! リョーマ! 私と同じ顔の……!」
「柊柚子だ。榊遊矢が所属する塾の塾長の娘だ」
今更見慣れた顔なので何度もたたきながら見るように促してくるセレナに簡潔に言ってデュエルの様子を眺める。対戦相手はLDSが来た時に対戦した光津真澄でありリベンジマッチと言える対戦となった。
「……ほう、いきなり専用の融合か」
先行を取ったのは真澄だった。彼女は手札の三枚のモンスターを“ジェムナイト・フュージョン”で融合させ融合モンスターを出した。しかも自身の能力もあり攻撃力は3000を超えている。3000という数値は一つの区切りと言えた。この数値を超えるモンスターは相手に畏怖を与えこちらに安心感を与える。そんな大型モンスターを先行でいきなり出したことにセレナは感心する。しかし、その代償は手札の4枚の喪失でありカードを伏せた事により手札は0枚となった。
「あの伏せカード次第だが対戦相手、柚子と言ったか? そいつの独断場になりそうだな」
「どちらにしろ柊柚子の動き次第だ」
そして、柚子は自分のターンになるといきなり“融合”を発動した。LDS以外では使って来ないと思われていたそれに会場は大きく盛り上がる。彼女が出したモンスターはその効果により真澄の墓地のカードを全て除外して見せた。
「これでジェムナイト特有の連続融合は出来なくなったか」
「確か“ジェムナイト・フュージョン”は墓地のジェムナイトモンスター一体を除外して手札に戻って来る効果があった。だが手札は0枚次に引いたカードがモンスターでも融合は……」
「墓地からの蘇生が出来ないとも限らない。どちらにしろ、融合褐色女は手札の消費の割に呆気なくモンスターが消える事になる」
「……」
名前を覚える気がないのかあだ名とも言えない呼び方をするリョーマにセレナは呆れつつデュエルの行方を見守る。そして、真澄は融合モンスターを破壊され手札、フィールド共に0という形となった。
しかし、それで終わる真澄ではなく返しのターンで“ブリリアント・フュージョン”を発動した。リョーマが使う“
「とは言え“ブリリアント・フュージョン”には攻守が0になるデメリットがある。これでは場に出しても意味がないのではないか?」
「そんなわけないだろ。“ブリリアント・フュージョン”は手札から魔法カード一枚を墓地に送る事で攻撃力をもとに戻す効果がある。そしてこのフィールドはアクションデュエルだ。その辺にアクション
「! 成程、アクション魔法も視野に入れての活用か……。確かにこれは戦術の幅が大きく広がるな」
「とは言えそれをやすやすとさせるとは思えないがな」
リョーマの言った通り、光津真澄は自身のエースモンスター“ジェムナイト・レディ・ブリリアント・ダイヤ”を出すとアクション魔法を探してフィールド内を走り始めた。しかし、柚子は即座に伏せていたカードでバーンダメージを与えるもその時の衝撃を利用してアクション魔法の獲得に成功した。
「これで攻撃力は元の数値の3400に戻る。柚子の融合モンスターは2400」
「これが決まれば再び逆転だな」
セレナとリョーマは淡々とデュエルを眺めていく。そして、柚子の融合モンスターは破壊されその衝撃でフィールドから落下しそうになるも間一髪のところで手すりにつかまり落果を免れた。とは言えこれで柚子のライフは3000となり4分の1が削られた事になる。
そして柚子のターンとなるが彼女はセットモンスターと伏せカードを出すだけで終了した。続く真澄のターンで真澄は決着をつけるべく更なる融合モンスターを“ジェムナイト・レディ・ブリリアント・ダイヤ”の効果で召喚した。
「ほう、融合モンスターで進路を塞ぎその隙にアクション魔法を取る。質量があるからこそできる動きだな」
「ああ、そしてこれにより再び攻撃力は元に戻った。今出した融合モンスターでセットモンスターを破壊。“ジェムナイト・レディ・ブリリアント・ダイヤ”で止め。が理想的だがそう簡単にはいかないだろう」
リョーマの言った流れの通りにデュエルは進むが“ジェムナイト・レディ・ブリリアント・ダイヤ”の攻撃時に柚子は罠カードを出して真澄が融合召喚に使った“クリスタル・ローズ”を自身の場に出した。
そしてその罠カードの効果で戦闘破壊は出来なくなったがダメージは通り柚子のライフは残り100となった。
「100……。ギリギリ耐えたがこれでお終いだな。しかし、柚子も運に救われたな。融合モンスターを出していなければ敗北していたんじゃないか?」
「そんなわけないだろう。柚子は真澄と一度デュエルをしている。その後も交流はあったようだしパターンはある程度読めているのだろう。そして、柚子の勝利が決まったようだ。見てみろ」
リョーマに促されてテレビを見れば“クリスタル・ローズ”と今引いたカードで融合召喚を行っていた。融合カードなしで融合召喚出来るモンスターを引いた事で柚子は新たな融合モンスターを出していた。そして、そのモンスターの効果により“ジェムナイト・レディ・ブリリアント・ダイヤ”とは違うもう一体のモンスターは破壊され大きなダメージを真澄は受けた。
「1000と100。だがこれでは……」
「それに、褐色女もやるようだな」
真澄は最初のターンに伏せていたカードを発動し破壊されたモンスターの攻撃力分のダメージを与える罠カードを発動した。これが決まれば真澄の勝利だが柚子はそれを無効に出来る上に連続攻撃が可能な罠カードを発動するも真澄は再びアクション魔法を使って柚子のだした罠カードを無効にしようと飛び出した。しかし、柚子は高所から一気に落下しそのアクション魔法を奪い取った。二回も真澄に取られたが大胆な動きで今度は柚子が取ったのである。その結果、真澄の罠カードは破壊され再び連続攻撃を柚子は行った。
その結果、真澄のライフは0となり柚子の勝利が確定したのだった。それを見たリョーマはセレナに話しかけた。
「アクションデュエルはどうだった?」
「……普通のデュエルなら光津真澄に勝ち目はなかった。このデュエルだからこその接戦と言えたな」
セレナは興味をなくしたのかそれ以上は何も言わなかった。実際、これまでの流れから真澄が勝てていた可能性は低い。ひとえにアクション魔法が存在するこのフィールドだからこそ可能とした接戦と言えた。それでも自分と同じ顔の少女が勝ったのは嬉しいのかその顔は少し優しげだった。
―柊柚子は無事に勝利を掴んだ。次は貴様の番だ、榊遊矢
それを見たリョーマはかすかに口角を上げると再びテレビに向き直り心のなかで呟くのだった。