第三十九話「新たな危機」
アカデミアが赤城リョーマのクーデターによって制圧されて以降アカデミアへの出入りは大きく制限された。定期的に食料や日用品などを運んでくる定期便の者達は不思議そうにしていたがあまり深くは関わらなかった。そんな感じで少しづつアカデミアの不自然な状態が知れ渡るようになる時には出入りの制限はなくなりいつも通りの日常が戻り始めていた。
しかし、クーデター後のアカデミア生は何処か人形のような動きを見せる事が多くなっておりゾンビの様に徘徊している事もあった。
「パラサイトモンスターによる洗脳は今のところ一定の成果を上げていますが完成には至っていないと言えるでしょう」
「そうか」
赤城リョーマはドクトルからの報告に一言だけ返す。アカデミア生の大半を洗脳させた影響か思考能力が大幅に低下してしまっていた。しかし、ドクトルはその辺の事も既に対策済みだった。
「とは言えこれはパラサイトモンスターが未だ定着しきれていないせいでしょう。実際、初期に定着した物には寄生前とほぼ変わらぬ行動が出来るまでになっています。とは言え今は定着までの時間を短くするように調整しています」
「その辺は任せる。アカデミアが何も変わっていないと思われる程度には完成させろ」
「了解しました」
そう言うとドクトルは自身の研究室に戻っていく。赤城リョーマはため息をつきつつ後ろを振り返る。そこには十字架に拘束されたユーリの姿があった。後ろを振り向いた事で視線が合うがユーリは睨みつけるだけで何も発しない。それもそのはずで彼の口には機械による猿ぐつわがされておりシャベルどころか顔を動かす事さえ出来ないようにしていた。
「無様だなユーリ。だが安心しろ。お前は羞恥すら感じる事が出来ない程の苦痛を味わう事になる」
そう言うと手に持ったリモコンを操作する。するとユーリの後ろの壁が開き、エクシーズ次元でカード化された者達が入れられた装置が出現した。
「本来はプロフェッサーが第五次元を作り上げるための装置だったが今では無用の長物だ」
「……」
「ん? 何をしようとしているのか気になるか? 単純な話だ。ユーリ、君にはこれからこのカード化された人間のエネルギーを流し込む」
「……!?」
「ここにあるだけで十万は軽く超えるカードだ。君の中にこれらを流し込めばただでは済まないだろう
しかし! ユーリ、君なら別だ。君に流れ、あふれ出たエネルギーは体から漏れるが同時に! 榊遊矢を含むズァークの分身たちに流れ込む! 今はか細い、回路を無理やりこじ開けるのだ。死ぬほどの激痛が全身を襲うだろう。だが、お前は死なない、死ねない!」
「……! ……!」
ユーリは何かを叫ぼうとしているが猿ぐつわによって声に出せていなかった。そんな事をしている内にリョーマは装置を起動させる。緑の光を発しながら十字架とつながる管にエネルギーが流し込まれ……
「っ!? ……!!!! ……!!! ……!!!!!!」
「精々精神が崩壊しないように気を付ける事だ」
そう言うとリョーマは部屋を出ていく。そこには声にならない悲鳴を上げ、十字架の拘束から逃れようと力を籠めるユーリだけが残された。
「ぐっ! ああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「遊矢!?」
シンクロ次元でキングであるジャック・アトラスを倒しフレンドシップカップ優勝を果たした榊遊矢たちランサーズはロジェが追い詰められた結果発動したワームホールに飲み込まれエクシーズ次元へとたどり着いた。
そこでレジスタンスの生き残りと接触しつつ侵略軍のトップ、エド・フェニックスとデュエルを行い通じ合う事が出来た。そして侵攻していたアカデミアが降伏し、エクシーズ次元の復興を約束し、行動に移されている時に、突然遊矢が胸を抑えて苦しみだしたのである。
「遊矢! どうした!? 大丈夫か!?」
「ぐっ、ご、権現坂……! ああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「くっ!」
心配して近寄って来た権現坂に遊矢は声をかけるも叫び声を上げると彼の周りに突風が吹き荒れる。その突風はすさまじく巨体の権現坂の体を持ち上げ、吹き飛ばすほどだった。そして、遊矢がいるのは丘の上にある生き残った人たちの避難所だ。当然そんなところで突風が吹き荒れれば建物もただでは済まず、大きく破壊されていった。
「これは一体何が起きて……!?」
「兎に角皆を避難させるぞ! 黒咲! お前は避難の方を頼む!」
「分かった!」
「くっ! それにしても……!」
権現坂は顔を腕で守りながら遊矢を見る。赤く光る眼を光らせ黒いオーラを出す素の姿だけを見ればMCSで見せた暴走と似ているだろう。しかし、今回はその時とは比べ物にならない程、遊矢が苦しんでいた。何より、デュエルも行っていないにも関わないうえに突然の事だったのだ。権現坂達も何が起きているのか全く分からなかった。
「おーおー、凄い風だな」
「ッ! 誰だ!」
そこへ、のんきとも取れる声が聞こえ権現坂は声を上げた。そこにいる者達の視線が声のした方を見れば黒いコートを着た少女の姿があった。しかし、その少女の表情は外見にはふさわしくない程歪み、権現坂達を見下すような視線をしていた。
「子供……?」
「あ“あ”っ!? 誰が子供だ! 俺は立派な大人だ!」
少女は子供と言われた事に腹が立ったのか不良の如くキレた。地団太を踏む様子はまごう事なき子供の姿と言えるが本人にとっては無意識の行動のようだった。
心を落ち着けたらしい少女は傲慢な態度で言った。
「よく聞け! 俺はNo.20! 赤城リョーマ隊長が率いる精鋭部隊所属にして最強のデュエリストだ!」
「リリーサーズ!?」
権現坂達はリリーサーズの言葉に反応して警戒する。少女、No.20は狂気的な笑みを浮かべると未だに苦しむ榊遊矢の方に目を向けた。
「しっかし、本当にこいつにも影響が出てるんだな。隊長の言った通りじゃねぇか」
「っ! お前、遊矢がこのような事になっている原因を知っておるのか!?」
「勿論だ。とは言えお前らに話す必要はないけどな」
そう言うとNo.20はデュエルディスクを起動した。
「要件は2つ。1つは榊遊矢の現状の確認だ。これは見るだけでどんな状況にあるのか丸分かりだな。続いて……」
No.20は警戒するエド・フェニックスの方を見た。
「エド・フェニックス。エクシーズ次元侵攻の総司令官にも関わらず裏切ったクソ野郎。ああ、それは侵攻軍全員に言える事か」
一般人を避難させたらしく元アカデミアの兵士たちがNo.20を囲むようにやって来る。それを見てもNo.20の態度は変わる事は無く、むしろ楽し気に笑っている。
「へぇ、結構な数だな」
「No.20! もうアカデミアに与する事は止めろ! アカデミアは間違っている! これ以上争う必要は……!」
「あ、そうか。お前らは知らないのか」
エド・フェニックスの言葉にNo.20は何かに納得したように呟く。その言葉にエド・フェニックスは嫌な予感がした。
少し前からアカデミアとの通信、転送が出来なくなった。事実上エクシーズ次元で孤立した状態にあった侵攻軍だが元々食料や医薬品などの必要な物資はそろっておりそこまでひっ迫した状況ではなかった。しかし、通信途絶という前代未聞の事にエド・フェニックスはある予想を立てていた。
「(アカデミアで何かあったのだろうがまさか……)」
そして、エド・フェニックスの予感は的中した。
「アカデミアは既に隊長の支配下にある! プロフェッサー赤馬零王は失脚した」
「なっ!?」
「今後アカデミアは我が隊長の野望の為に動く事になる。そして……」
No.20がそう言うと同時に左右に光が現れデュエルディスクを構えたアカデミア生が現れる。その全てが敵意を向けていた。
「侵攻軍のお前らを呼び戻そうとした矢先にこれだ。隊長はお前らの排除を決めた」
「っ! 何だと!?」
「エクシーズ次元の人間のカード化はもう必要ない。よって、お前らが集めたカードを対価に助かるという方法もないぜ」
そう言うとNo.20は大きな声で指示を出した。
「さぁ! 我が隊長の手ごまとなったアカデミア生たちよ! 裏切り者どもを粛清するのだ!」
「「「「「はっ!」」」」」
No.20の言葉にアカデミア生たちは返事をすると一気に襲い掛かった。侵攻軍たちも抵抗するが直ぐに普通のデュエルとは違う事に気付く。
「っ! 何だこれ! 凄くいてぇ……!」
「が、あ……!」
「う、腕が! 俺の腕があぁぁぁぁっ!!」
侵攻軍の面々はダメージを受けるとそれが自分の体に実際に襲いかかって来る現象に悲鳴を上げ始める。中には腕や足を折り、体に穴が開き血を吐く者まで現れ始める。そんな様子をNo.20は楽しそうに眺めている。
「ハハハハハハハッ!!! アカデミアで標準装備となったリリーサーズ特注のデュエルだ! ダメージは実際に喰らい場合によっては骨折、内臓破裂そして死すら可能となった! 文字通りデスゲームと化したのだ!」
痛みすら感じていないかのようにダメージを無視して攻撃をして来るアカデミア生相手に少しづつ侵攻軍は劣勢になっていた。中にはデュエルの勝敗を付ける前に死んでしまう者まで現れており恐怖がその場を支配していた。
「くっ! 落ち着け! 負傷者は下がれ!」
そんな中でもエド・フェニックスは相手を瞬殺しながら指示を出している。クーデター前に侵攻軍に合流し、今では榊遊矢が行うエンタメデュエルに魅了されたタイラー姉妹も実力者らしくタッグデュエルで相手を叩き潰している。
「へぇ、実力者はやっぱり強いな。そう言う奴には1人で挑むな! 10人、20人と数で叩き潰せ!」
「させるかぁっ!」
「っ!」
No.20はエド・フェニックスとタイラー姉妹などの実力者相手に数で叩き潰す作戦を展開する。この場にいる侵攻軍の倍以上はいるアカデミア生達の数を生かした戦法だがそれをさせないと権現坂がNo.20の前に立つ。他のランサーズは遊矢を背にアカデミア生とデュエルを行っており無双と言える状態で戦っていた。
「ちっ! デカブツ! 邪魔だどけ!」
「どけて欲しいのなら俺とデュエルをしろ! これ以上、誰も傷つける事は許さん!」
「……へぇ! 俺に勝てると思っているのか? 良いぜ! やってやるよ!」
そう言うと両者は距離を取りデュエルディスクを構える。そして、権現坂のデュエルディスクがデュエルを確認してフィールド魔法“クロス・オーバー”が発動し、空中に足場が形成される。初めてアクションデュエルを行うNo.20は興味深そうに空を見上げている。
「これがアクションデュエルか! 隊長に聞いていたが面白うじゃん! 行くぜ!」
「「デュエル!」」
No.20 VS GONGENZAKA