「……」
「……」
遊勝塾での一件から数日後、リョーマは再び遊勝塾を訪れていた。遊矢がきちんと成長を遂げているのか見るためだ。しかし、そこで思わぬ人物と会う事になった。
「え、えっと……。こっちが最近入塾した紫雲院素良でこっちがこの前話した赤城リョーマさんだ」
「……」
「……」
重たい空気を換えようと遊矢が互いの自己紹介をするがそれは失敗に終わり素良と呼ばれた少年とリョーマは互いの顔を見ていた。リョーマはこの素良という少年を知っていた。そして、相手の素良も同じであり最初に見た時は「何でここに!?」という表情をしていたのだから。
「……榊遊矢。俺はこいつとは顔見知りだ」
「え!? そうなのか!?」
「え? ……う、うん」
赤城リョーマの一言に遊矢が驚いたように素良に尋ねるが当の本人はいきなりの事で詰まったような返事をする事しか出来なかった。それを察してからリョーマは遊矢に言う。
「少し、二人っきりで話がしたい。外に出ても?」
「え? ああ、勿論構わないけど」
「……僕も構わないよ」
リョーマの提案に遊矢も素良も快諾し素良とリョーマは外へと歩いていく。そんな二人の後姿を見ながら塾生たちは意外そうな顔をしていた。
「あの二人って知り合いだったんだ……」
「素良もそうだけどリョーマさんも強かった。同じ塾に通っていたのかな?」
「って事はリョーマさんも融合を使えるのかな? 前に素良がいたところでは誰もが使っていたって言ってたし」
「それって遊矢お兄ちゃんとのデュエルでは手を抜いていたって事!?」
「いや、多分違う。あの時のリョーマさんの手札に融合はなかったんだと思う。そして、それを引く前に俺は負けてしまったんだ。だけど! 今度はそうはいかない! ペンデュラムも完璧にマスターしたしテクニックも学んでいる! 今度はリョーマさんに勝手見せる!」
「遊矢……」
そんな話が塾生たちの間で交わされている頃、遊勝塾の前に来た素良とリョーマは先ほどよりも険しい表情で話し始める。
「……なんで君がここにいるの? エクシーズ次元に侵攻中じゃなかったの?」
「単純な話だ。シンクロ、スタンダード両次元の侵攻準備を任された。今はその為の調査中だ」
「へぇ。前にエクシーズ次元の人間にボロ負けしたって聞いていたから戦力外通告でもされたのかと思ったよ」
「だからどうした? 俺は完璧でも無敵でもない。負ける時だってあるしあのデュエルは俺の腐りつつあった心を直すいい機会になった」
「でも負けた事には変わりないでしょ?」
「そうだ。負けた事は事実だ」
「……」
素良は挑発に乗ってこないリョーマを面白くなさそうに見る。それはリョーマにも分かったのだろう。鼻を鳴らして言った。
「俺はたかが一回負けた程度で地に落ちるような存在ではない。その程度で揺らぐような奴なら今頃カードとなっているだろう」
「……ふぅん」
素良はやはりおもしろくなさそうに返事をするがリョーマはどうでもいいとばかりに話を続ける。
「素良、お前と俺はかつて同じ塾に通っていたが塾長が年齢を理由に塾をたたみ俺達はばらばらとなった。それを自分たちの過去にするんだ」
「えー、何それ。なんでそっちが勝手に決めてるのさ」
「上官命令だ。侵攻が始まるまではシンクロ、スタンダード両次元におけるトップは俺だ。お前は命令に従う義務がある」
「ちぇっ! だけど僕は自分の事はほとんど話さないからね?」
「それでいい。俺もお前が話したがらないから言わないと言えるからな」
自分を出汁にするリョーマに不満げな顔をするが直ぐに戦士の顔つきとなる。
「で? やっぱり君もペンデュラムが気になって?」
「ああ。あれは脅威にも、戦力強化にもなる。とは言え使い方次第といえるがな」
「……ねぇ、つまり君も遊勝塾に入るって事?」
「それは榊遊矢次第だ。前回のデュエルはあまりにもつまらなさ過ぎた。この数日で何が変わっているかは分からないが多少はマシになっているだろう」
「ああ、そう言えば遊矢をボッコボコにしたんだよね? 遊矢結構落ち込んでいたよ」
「そんな様子はなかったって事は立ち直ったか」
「んー、半々ってとこかな。君とのデュエルに勝利すれば完全復活するんじゃない? 無理だろうけど」
素良はリョーマのデュエルの腕前を考慮してそう判断する。リョーマのデッキは先行ワンキルが出来るポテンシャルを持っており実際に幾度かそれを実行している。自分の部隊で裏切り者が出た際には先行ワンキルを行って粛清をしたという噂も出回っている。
―僕だって勝てるかどうか分からないしね
そんな事を思いつつ素良は中に戻ろうとした時だった。鉄下駄の音を響かせながら一人の大男が遊勝塾の前に現れた。その姿を見た素良は笑顔で言った。
「権ちゃん!」
「おお! 素良ではないか! こんな所でどうした? ん? そちらの男は……」
現れたのは権現坂昇という人物で遊勝塾の塾生ではなく権現坂道場という塾の跡取りだった。それでも遊矢と仲が良いためこうして出入りを繰り返していた。そんな彼は素良と一緒にいた男の方に視線を向けた。
「赤城リョーマだ」
「赤城リョーマ? ……おお! ではお主が遊矢を倒したという男か!」
権現坂は名前を聞いて分かったようで彼の前に立つ。威圧感を感じる風袋をしているがその表情は穏やかだった。
「聞いたぞ。ペンデュラム召喚を行った事で調子に乗っていた遊矢の鼻っ柱を折ったそうだな」
「いや、そう言う訳では……」
「確かにお主の言葉はきつかったかもしれないが言っている事は間違ってはいなかった。プロを目指す以上エンタメも大事だがその腕前も重要視される。それを遊矢は気づく事が出来た。礼を言う」
「……」
権現坂の言葉にリョーマはため息をつきそれ以上は何も言わなかった。そんな事をしていると更に三人の男がやって来る。リョーマはこの塾はそんなに人気なのかを思っていると権現坂が対応した。
「ぬ? おぬしら何者だ」
「俺達はここの榊遊矢に用があるんだよ。関係ない奴は引っ込んでろ!」
「そうだ! 昨日の闇討ちの件で責任を取りやがれ!」
「よくも沢渡さんを!」
「……遊矢が」
「闇討ち?」
素良は遊矢がそんな事をしたのかといぶかしみ、リョーマは一瞬エクシーズ次元のそっくりな黒き竜を扱うレジスタンスを思い出した。しかし、そんな彼らを驚かす勢いで権現坂が行った。
「闇討ちだと!? 遊矢はそんな卑怯な真似せんわぁっ!」
「っ!」
「ご、権ちゃん声大きい……」
近くで大声をあげられたことでリョーマの顔は歪み、素良は軽く目を回している。そして、その声に気付いたらしく塾の中から全員が出てくる。そして、権現坂による説明が行われたがやってきた三人組によって榊遊矢への罵声が浴びせられる。
「……榊遊矢、貴様は本当にそんな事をしたのか?」
「し、してない! そんな事するわけないじゃないか!」
「嘘をつくな! 俺達は確かに見たんだ!」
「そして! 証人は俺達だけじゃないぞ!」
「そこの柊柚子! お前もみていただろう!」
「っ!」
名指しで呼ばれた柚子は少し怯んでいるが否定しない所を見るに本当の事のようだ。柚子のその態度を見て塾生たちも不安そうな顔をしている。
「沢渡さんに何かあれば、警察に捕まるよな?」
「何しろ沢渡さんは今怪我で入院しているんだからな」
「今も沢渡さんはベッドの上で苦しんでいるだぞ!」
「……」
リョーマは取り巻きの如き三人の態度に呆れ怪我で入院しているという事自体が嘘のように思えてきた。実際は入院しているが怪我などしていないというのが真実だが。
そんな風に塾の前で騒動を起こしていると一台の車が現れそこから一人の女性が降りてきた。
「詳しい説明はわたくしが行いましょう」
「貴方は! LDSの……!」
「はい。理事長をしております、赤馬日美香と申します」
理事長の登場によってその場は一旦落ち着きを取り戻し理事長と共に中で話を聞く事になった。リョーマは部外者だが権現坂も入っていくことからついていくことになった。
「彼らの言っていた事は全て事実です。我がLDSの塾生、沢渡シンゴが襲われたのも、その犯人がが遊勝塾に所属する榊遊矢君だと彼が証言している事も」
「……」
赤馬理事長の言葉に対応している遊勝塾の塾長、柊修造は真剣な表情で話を聞いた後に榊遊矢へと顔を向けた。
「どうなんだ遊矢? お前本当に……」
「やってないよ! そんな事、するわけないじゃないか!」
遊矢の必死な様子から少なくとも襲った犯人ではない事が分かる。そして、それを聞いた権現坂が言う。
「この男権現坂。友である遊矢の言葉を信じる。お前たちもそうであろう?」
「当たり前だ!」
権現坂の問いかけに子供の塾生の一人が答えそれ以外の者も皆おなじ意見のようだった。そして、次は柚子へと問いかける。
「柚子は?」
「え? それは……」
実際に見たひとりである柚子は不安そうな顔で遊矢を見る。
「遊矢! あれは本当に遊矢じゃないのね?」
柚子の問いかけに遊矢ははっきりと彼女の目を見て答える。
「柚子が何を見たのか知らないけど俺は沢渡を襲ったりなんかしていない」
「……分かった。私も遊矢を信じる」
不安そうな顔をしていた柚子は笑顔でそう言った。そこまでの流れを見てリョーマが柚子に問いかける。
「ところで、その沢渡というのは誰だ?」
「ええと、同じ中学に通っている人でLDSのセンターコートで遊矢のペンデュラムカードを奪って無理やりデュエルをしたのよ」
「あの時は俺たちを巻き込んでやって凄く危ない目に遭ったんだ!」
「……成程」
リョーマは沢渡という人物がどういう者なのか辺りを付けるとそれ以上は何も言わなかった。その様子を見ていた赤馬理事長は言う。
「あらあら、随分と結束が硬いのね。これじゃ遊矢君を引き渡せと言っても無理そうね。でも、こちらも引き下がるわけにはいかないです。業界No.1を誇るLDSの塾生がデュエルに負けたという噂が世間に広がればうちとして大打撃ですから」
「だから、それはうちの遊矢では……」
「そんな事はもはや関係ない!」
「っ!」
「問題は、LDSの看板に泥を塗られた事! この汚名をそそぐには塾生同士、戦ってかつしかありません!」
赤馬理事長の言葉にみんなが驚いているとリョーマがぽつりと言った。
「……くだらない」
その言葉は元々静かだった部屋の中を更に静かにさせた。そして、その言葉を聞いた赤馬理事長はリョーマを睨むように見る。
「……なんですって?」
「だから、くだらないと言ったのだ。たかが塾生一人の敗北で揺らぐような塾ならこの先やっていくことなど不可能だ」
「……子供に一体何が分かるというのです? 経営というのはそんな簡単な話ではないのですよ!?」
「中身に自身がないから外側を豪華に飾り付ける。だがその外側も泥を塗られた程度でかすむ程度の物だったようだな」
リョーマが鼻で笑うと赤馬理事長の顔は更に憤怒の表情となる。そして、
「……良いでしょう。貴方は塾生ではないようですが貴方にもデュエルを申し込むとしましょう。そして、私達が勝てば謝罪をしてもらいます」
「別にそのくらいなら構わない」
こうしてLDSと遊勝塾+リョーマでのデュエルが決定した。しかし、リョーマの参戦は完全に予想外だったためLDSのデュエリストは三人しかいなかった。
「別に三人同時で構わない」
「え!?」
リョーマのその言葉によりLDSと遊勝塾のデュエルの後にLDSとリョーマのデュエルが行われる事となった。
「ねぇねぇ、あんなこと言っちゃったけど勝てるの?」
「無論だ」
「ふぅん。それなら良いけど」
素良はそれ以上特に言う事は無く始まろうとしている一回戦目を眺めるのだった。