……そう言って新年を迎えたかったなぁ(白目)
遅くなりすぎて申し訳ないです。さらに短くなってしまってすみません。
こんな駄作ですが、よろしければ約四、五か月ぶりの続きです。どうぞ。
「だ、だ、大丈夫ですか!?」
死んだように横たわる少年に、アーシアは大きな声で呼びかける。
投げかけられた言葉に反応を示すこともなく、少年は眠っているように静かだった。
胸元や腹部、右肩の部位から出血しているようで、着ている服が赤黒いシミで染まっていく。
これは只事ではないと感じたアーシアは、若干の躊躇いを感じながらも少年の上着を脱がせて中の様子を見る。
「ご、ごめんなさい……ちょっと、失礼します……――ッ!?」
露出された少年の上半身を見て、アーシアは絶句する。
胸元、腹部、腕部、頸部。見えるところのあらゆる箇所に、まるで鋭い爪に引き裂かれたような裂傷が目立ち、至るところで血が溢れていた。
特にひどいのは、右肩と腹部。右肩の部位は、まるでそこだけ爆発が起きたかのように内部から弾け、肉が黒く焦げ付いている。一方の腹部は、鋭い棘が二つ、左右から突き刺さったように深い二つの穴が開いていた。
素人目から見ても、少年が重症を負っているということは明らかだ。
「うっ……」
焦げ付く肉の悪臭と、溢れ出る血の鉄臭さに吐き気を覚えながらも、アーシアは己を奮い立たせて少年を看る。
幸いというべきか、一番ひどい右肩の傷は焼かれているため肉が抉れているが出血は止まっている。失血死を防ぐためにも、まずは身体中についた裂傷と腹部の刺し傷を『治す』べきだと考え、アーシアは自分の掌を少年の傷にあてた。
「今助けます、少しだけ我慢してくださいね……」
その途端。彼女の掌が翡翠のように緑色に輝き始め、それとともに少年の身体に変化が起きる。
驚くべきことに……少年の至るところについていた傷が、ゆっくりと塞がり始めていた。
まるでビデオを逆再生させているように、パックリと開けていたはずの傷口は徐々に小さくなり……しばらくそのままにしておくと、やがて消えてなくなった。
これが、アーシアの持つ
(これで……大丈夫なはず。あとは、この肩を……)
一通り治癒が完了したところで、今度は右肩に手をかざすアーシア。
改めて見れば、その傷は下にある骨すら浮き出て見えるほど深い。どんな名医でも、完全に治療することなど不可能に思えるほどの重症……だったはずのそれは、翡翠色の光に包まれると徐々に閉じていく。
他の傷と比べてみると治りが遅く、しばらくはこのままでいなければならないようだ。しかし、青白かった少年の顔色はかすかに赤みが差してきている。これならば、きっと助かるだろう。
(……よかった)
ホッと胸をなでおろすアーシア。まだ完全に治療していないため油断はできないが、それでも安堵せずにはいられなかった。
……それにしても、いったい何者なのだろうか。
神様のような光の巨人が消えたかと思えば、入れ替わるように現れた赤い光球。そしてその光球から、彼は出現した。
身体中に、まるで先ほどまで熾烈を極める戦いを繰り広げていたかのような、夥しい傷を負った姿で。
「…………」
確信はない。ただの彼女の直感でしかないし、それが正しいなどとは到底思えない。
しかし、彼女はなんとなくだが感じていた。
突然目の前に現れた、この少年の正体を。
「……あなたは……神様、なのですか?」
光の巨人へと投げかけた問い。それは再度、見知らぬ傷だらけの少年へと投げかけられる。
寸刻前に見た、信じられないような光景。
見る者に不快さと恐怖を植え付けるような醜悪な外見をした怪物。その怪物を打ち倒そうとするかのように出現した、銀色の巨人。
どちらもが高層ビルほどの高さもあるような巨大さを誇り、お互いを敵として認識し、戦いを始めた。
一時は優勢だったはずの巨人は、急に苦しみ始めると劣勢に立たされ。
倒れて立ち上がれなくなったのを見た怪物は、この場所でその光景を目撃していた私に迫り。
そして。巨人はそれを見た途端、怪物に再び立ち向かった。
まるで――そう。彼女を守るために。
計り知れないほど強大な光の波動。
そして――自分の思い込みかもしれないが、ともアーシアは考えたが――彼女という人間を守るために戦ったという事実。
その強さと慈悲深さ、そして神々しさ……まさに、神としか表現が出来ないその存在。
「……あなたが神であられるならば……なぜこのような場所に……?」
再度、アーシアは少年に問いかける。相手が神様かもしれない。そう思うと、つい敬語が出てしまった。その言葉が、今意識を失っているこの人に届くはずもないというのに。
……しばらく待ってみても、やはりと言うべきか返答はない。今はただ、この傷を癒すことしか自分には出来ないようだ。
「……はぁ……」
このような極東の地に来て早々、肝を抜かれるような凄まじい出来事に遭遇してしまったものだ。
怪獣と巨人の激突はもちろん、もし自分が治癒している人物が神様であるとしたなら……もうどうしたらよいのだろうか。
もちろん信徒としてはこれ以上にない僥倖だが、同時に畏れ多いことでもある。目を覚ましたらどう対応すればいいのだろう。
わからないことが多すぎることもあって、混乱と不安がアーシアの胸中を渦巻く。
そんな時だった。
「……ないで……」
「ッ!!」
少年が、何かを呟いた。
まさか、治癒を施したとはいえあんな重症を負ってからもう意識を取り戻したのか?
そんな思考が巡り、途端にアーシアは緊張してしまう。
一時は聖女とすら謳われたシスター・アーシア。しかし彼女は、友人を一人も持ったことはないのだ。異性や同性とも、打ち解けて気軽に会話できる仲になったことなど一度もない。
相手は異性。ましてや、神ではないかという疑惑すらある少年だ。どう接していいかなどわかるはずもない。この瞬間は、彼女にとってはまさに『未知との遭遇』にも等しいのである。
(どどどどどうしよう!? め、め、目を覚ましちゃいました!? はうう、こんなときどうすれば、神父さんに神様と出会った時はどうすればいいのか一度でも聞いておけばはううううううう!!)
そんなことなど神父さんが知ってるはずもないことなど気づかず、一人パニックに陥るアーシア。慌てふためきながらも治癒する手を傷から離さないのはさすが聖女(?)といったところであろうか。
半泣きになりながら、誰か助けてはくれないかと周囲を見渡すが、こんな夜中の、地方の山奥に人などいるはずもない。
「……かないで……」
「ふ、ふええっ!? わたっ、わたっ、わたわたわたわたしのにゃまえはアアアアアアアアーシアアルジェンじゅふぎゅう!!」
再び声が聞こえた時、何を思ったか自己紹介をしようとするアーシア。思いっきり台詞はカミカミである上に舌を噛んでしまうという愚行を犯す。
傍から見れば気絶した人間のそばで一人漫才している怪しいシスターである。とてもではないが痛々しくて見てられない。
噛んでしまった舌の痛みに「ふぎゅうう……!」と呻くアーシア。
そのとき。
「……行かないで……父さん……」
少年はうなされるように。そう言った。
「……え?」
何か様子がおかしいことに気付き、アーシアは惚けたような声をあげて少年を見つめた。
「……嫌だ……母さん……嫌だ……二人とも……行かないで……」
少年は、瞳を閉じたままだった。その表情は苦痛を訴えるように歪んでおり、父親と母親に何かを懇願している。
まるでその様は。悪夢を見てうなされる、非力な子供のようだった。
「……行かないで……行かないで……」
痛みに悶えるように。切実に。少年は言い放つ。
すると少年は、突然傷ついた右腕を動かして、アーシアの手を握る。唐突な少年の行動に驚愕し、アーシアは目を見開く。
「ひゃ、ひゃわああああああああ!!! にゃにゃにゃ、にゃににゃににゃにゃにゃにゃにゃ!!??」
かなりオーバーな反応を示す彼女だが、これは本人のことを考えると当然とも思えるものかもしれない。
先に言った通り、アーシアは近しい友を持ったことは一度もない。宗教上の理由もあったりするのだろうが、もちろんボーイフレンドなども持ったことなどあるはずもない。
つまり……アーシアは一度も異性から触れられたことなどないのだ。こんなところで――なんだかいかがわしい言い方になるのだが――初体験をすることになるなど、考えてもいなかったわけで。
立て続けに驚愕を受けたアーシアの脳内はいよいよパンクし、素っ頓狂な声をあげたその瞬間。
「…………一人に…………しないで…………」
それは、ほんの小さな、小さな呟きだった。だがその一言は……なぜか、アーシアの耳にハッキリと聞こえた。
孤独を恐れ、傍に居てほしいと願う言葉。それは、神に祈るような囁きだった。
「……え?」
閉じた彼の両目から涙が零れ、それは地面に吸い込まれていった。アーシアの手を掴む少年の力は強く、しがみ付くように彼女の手を握りしめている。
まるで彼女が……いや、『彼女ではない大切な何か』がどこかへと行ってしまうことを、拒むように。
「……い……か、ない……で」
縋るように。一層手を握る力を強くして、少年は懇願する。
小刻みに震えているその手を見て、アーシアはふと思った。
……彼は、本当に神なのだろうか?
父親と母親を求め。彼らがどこかへと行ってしまうことを、夢にうなされるまで恐れる彼は……彼女ら聖職者が崇め、救いを求める主なのだろうか。
神でないのならば……いったい、彼は何者なのだろうか?
巨人となり、おぞましい姿をした巨大な怪物と戦い、傷つきながらも人を守るために立ち上がる彼は……何なのだろうか。
少なくとも、今の彼の姿は、聖書に記されるような威厳に満ちた主とは思えない。むしろ彼は――。
「……あなたは……迷える子羊なのですか?」
――聖書に記された神に、救いを求め彷徨う、か弱い人間だった。
アーシアは、あんな巨人も、あんな巨大な怪物がこの世に存在することなど今まで知らなかった。教会の人も、誰もそのことを話さなかったことから、きっと彼らだって知らなかったのだろう。
彼はひょっとして、誰にも知られることなく、孤独に戦う宿命を背負わされていたのではないか?
誰かのために戦い、人知れず傷つき、母親と父親の温もりすら奪われても、戦わなければならない。悲鳴をあげることも、助けを求めることすらできない。
もし、そうだとしたならば……いったいそれは、どれほどの苦痛を伴わなければならないのだろうか。
……かつての自分などよりも……ずっとずっと辛い運命に。彼は惑わされてきたのではないか。
「…………」
「う……うぅ…………っ」
自らの境遇と、彼を重ね合わせるのは、もしかすれば見当違いなのかもしれない。初戦は彼女の推測でしかないのだから、そんな事実はないのかもしれない。仮に的中していたとしても、彼の負った心と身体の傷は、誰にも測り知ることが出来ない。
――だけれども……アーシアにはどこか、確信があった。
彼が傷つき、苦しみに涙を流している人間なのだという確信が。
「大丈夫です」
彼がもし、夢を見ている今だけでも。救いを求めているのならば。
彼に手を差し伸べることは……間違ったことなのだろうか。
しがみつく少年の手に。そっとアーシアは手を重ねて、握りしめる。わが子をあやす母親のように彼女は、少年に向かって語り掛けた。
「私は……どこへも行きませんから」
その言葉が届いたのかはわからない。だが、そう彼女が呟いた時……少年の表情から、苦痛の色が消えた。
呻き声も止み、彼は先ほどまでの様子が嘘だったように、静まった。
……これでよかったのだろうか、という疑問が一瞬心の中に浮かぶ。
これは彼にとって、仮初の休息でしかない。夢から覚めれば、再び辛い現実が彼を苦しめるのかもしれない。むしろ彼を苦しめる結果に繋がってしまうのではないか。
そんなことを考えたが……彼の安らかな寝顔を見ると、そんな不安は消えて無くなった。
「ゆっくりと休んでください……夢を見ている、今は……」
聞く者の心を落ち着かせる、優しい声音でアーシアは囁く。
そのまま彼女は、未だ傷が開いたままの右肩に手をかざして、治癒の続きを再開し始める。
先ほど怪物が現れたためか、山中にも関わらず野生動物の鳴き声などは聞こえない。ただ穏やかな寝息だけが聞こえる、静寂の時間が流れた。
やがて右肩の傷は完全に塞がり、傷痕すら残さずに『
「ふう……」
一息をついたところで安堵するアーシアだったが、続いて困ったことになったと言うような苦々しい表情を浮かべる。
これで少年が死ぬ危機は回避できたものの、彼をどうすればいいのかわからない。まさかこんな場所に放置するわけにもいかないだろうが、かといってどこへ連れて行けばいいのか見当もつかない。彼の住処などわかるはずもないし、まずアーシアはここに来たばかりであって地理に疎い。
……自分が向かうはずだった教会へと連れて行くしかないだろうか、と思い悩んでいたその時。
バサッ、バサッ、と。空気を叩くような飛翔音を、アーシアの耳が捉える。
「へ?」
それはかなり大きな羽音で、大型の何かが空を飛んでいるのだということはわかった。まさか先ほどの怪物が迫っているのか、と青ざめるアーシアだったが、微かに話声らしきものも混じっているのを彼女は聞き取る。
その正体が何なのかを考える前に、その回答をアーシアは知ることとなる。
なぜなら。
「――ッ! イッセー!?」
アーシアの目前に、コウモリのような黒い羽を生やした人が降ってきたのだから。
「――ふええ?」
突然姿を現した人影。それは燃えるような赤い髪をたなびかせ、海のように深い青色の瞳を浮かべた美少女だった。その美貌は今まで見てきた人々の中でも飛びぬけており、あまりの美しさに人間離れした何かすら感じ取れるほどである。
……いや、それ以前に背中から羽が生えている時点で人間ではない。黒く、薄く長く、尖った形に伸びたその翼の形から、アーシアはある種族の名が頭に浮かぶ。
「あ……悪魔?」
「どうしてこんなところに教会の関係者が……っ!!」
こんな場所にいるなどと思いもしなかった者が目前にいることに、アーシアも相手の女性悪魔も目を白黒させる。
そんな彼女らをよそに、次々と状況の変化は訪れた。
「部長、イッセー君が……シスター!?」
「先輩……どうして、シスターと一緒に?」
「なぜここに彼が……それに、あの巨人はどこへ?」
女性悪魔を追いかけるように、背中から彼女と同じ黒い翼を生やした悪魔が空から降ってきた。
「あわ、あわ、あわわ……悪魔さんが一人、悪魔さんが二人、三人、四人……?」
展開に思考がついていけず、ただ茫然と相手を数えることしか出来なくなったアーシア。
狼狽する彼女に、部長と呼ばれたらしい紅髪の女性悪魔は歩み寄り、勢いよく肩を掴む。
「なぜイッセーがここにいるの!? あなたは何者!? 彼に何をしたの!? なぜ……!!」
「は、はわわー!?」
前後に激しく揺さぶりながら、矢継ぎ早に質問を投げかけていく女性悪魔。
アーシアはその力に抗うことが出来ずに目を回しながら、何がどうなっているのだと誰にともわからず問う。
何もわからないことだらけの彼女だが……そんな中でもわかることは、一つ。
自分は、聖職者。相手は、悪魔。しかも複数。
……これって結構ヤバいのでは?
(か、か、か、か、か、神様助けてくださぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!)
泣きべそをかきながら、聖女アーシアは心の中で悲鳴をあげるしかなかったのであった。
ほんっっっっっっっっっっっっっっっとうに申し訳ありません!!
新年や新歓喜、学期末というのはホントに嫌なものです。執筆もやりたいことも、全て勉強や他の行事に奪われる始末。そしてオリジナル作品を書きはじめたりと、まるでやる暇がない日々。それでも何とか続けたいと僅かな時間の合間を縫って書いてはいたのですが……途中で『あーでもないこーでもない』とグダグダしてるうちに、こんなに時間が経ってました。もう少しで半年ダッタヨ(白目)
実際にはもっと書いてはいるのですが、話の展開上、どう載せていくか考えると、どうしても短くせざるを得ませんでした。最初からこのシーンを書いてればよかったというのに……何をやってるんだ私は(;´・ω・)
こんな駄作でも、楽しみにしてくださっている方々には本当にご迷惑をおかけしました。
ただ、こんなに遅くなってしまいましたが、私はこの作品や他のものをエタらせることはしたくないのです。ゼロ魔×ジョジョ? あ、はい、そっちも頑張ります、ごめんなさい。
これからも、次話投稿にものすごく時間がかかるということもあると思います。
ただ、もしそれでもいいよ、ゆっくりでもいいよ、と言っていただけるならば……どうか、温かく見守っていてください。
……あ、ちなみにオリジナル作品である景美悲劇譚も、よければ感想なんか頂きたいなーなんて……あ、はい。戯言ぬかす暇があったら手を動かします、ごめんなさい。
長文になりましたが、これからもどうぞ、よろしくお願いします。