影浦、狙撃されたってよ   作:Amisuru

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テニスで世界を滅ぼしていたら遅くなりました。
今年もよろしくお願いします。

間が空いた割に全然話進まなくてごめんなさいと今のうちに謝っておきます
全力で続き書いてるからゆるして(^p^)




『That's one small step for mankind, one giant leap for a man.』1/3

 

 

 おハロー!

 画面の前の皆さんこんにちは! さすらいのB級狙撃手(スナイパー)こと日向坂撫子です☆

 え? なに? いきなり一人称に切り替えて何のつもりだって? いやいや、最初だけですよ最初だけ。こうやってあたしに視点戻しとかないとこのお話の主役が誰なのかみんな忘れちゃうじゃないですか。前回あたし撫子のなの字も出なかったんですよ? 主人公の姿か? これが……。

 失敬。とにかく、こういうメッタメタの痛々しいノリはホント最初だけなんでもうちょっとだけお付き合い下さいね。あたしもほら、慣れてないからこういうの。Vtuberか何かじゃあるまいし、第四の壁を突き抜けていいのはデッドプールとイコさん先輩だけ。撫子お姉さんとの約束です。

 

 

 さて。辻くんが丸ごと1話使ってがっつりひゃみとイチャコラしてくれやがりましたので、今のあたし達の状況がどんなだったか忘れてる方もいらっしゃるかと思います。

 影浦先輩狙撃事件が無事解決しまして、体調崩してたあたしのお師匠様こと鳩原未来先輩と再会しまして、お師匠様のいない間にやらかしてしまったあたしを一から鍛え直そうってことで二宮隊の男子組(隊長さんは除く)も連れて訓練室へと移動したのが前々回の話。

 なんでも、あたしの狙撃手(スナイパー)としてダメなところを改善するための訓練をするっていう話だったのですが――そんなあたしが今、一体何をやっているのかと申しますと。

 

 

 

 

 

「ぁっ……ぁっ……ぁっ……」

「おお……もう……」

 

 

 ――あたしの目の前で刀を振り被ったままぷるぷるしている辻新之助くんと、近距離にらめっこの真っ最中なのであります。笑うと負けよ、あっぷっぷ。

 辻くんよ……膝が笑ってるぜ……。

 

 

 

 

 

 

 

【二宮隊トレーニングルーム(戦闘訓練用/市街地設定)】

 

 

「――さてと。わざわざおれたちまで巻き込んで、一体どんな風にヒナタちゃんのことを矯正するつもりなのかな? 鳩原ちゃん」

「……えっとね」

 

 

 一目で仮想空間と判る、空も太陽もない天井付きの住宅街。民家の塀に背中を預け、犬飼澄晴はいつもの薄ら笑いを浮かべて口を開いた。

 話を振られた鳩原未来は、こちらもすっかり見慣れてしまった申し訳なさげな表情で撫子に向き直り、それでも言葉は容赦なく。

 

 

「まず、何よりも改めないといけないのは亜季ちゃんの声掛けを無視したこと。……これは流石に言われなくてもわかってると思うけど」

「海よりも深く反省しております……」

『次やったらコンビニでヨーグルト奢りね』

「ふぁい」

 

 

 百数十円で納まる安上がりな罰であった。氷見亜季、髪型もあっさりなら裁きもあっさりとしている。そんな優しさに甘えて同じこと繰り返したらダメだぞ、と撫子は自身に釘を刺した。

 

 

「……で、そもそもナデコはどうして亜季ちゃんの制止も聞かずに引き金を引いちゃったのかっていうのが、あたしが思ってるナデコの改善ポイントになるんだけど――はいナデコ、()()()()()

「お、押忍」

 

 

 言われるがままに意識を視界の左下に向ける撫子。そこに映っているのは、自身を中心に三つの黒点が表示された電子の円形。黒点はそれぞれ犬飼、辻、そして鳩原の三人を表している。

 そう、レーダーである。決して生身には映り得ない、戦闘体の標準機能。これもまた、影浦雅人狙撃事件における撫子の非を露にする要因だった。たとえモールモッドの陰に隠れた影浦を目視することが叶わなかったとしても、レーダー表示に僅かでも意識を割いていれば、射線上に立つ味方の存在に気付くことは出来た筈なのである。

 

 

狙撃手(スナイパー)っていうのはポジションの性質上、どうしても標的(ターゲット)のことばっかりを意識しちゃって、他のことが疎かになりがちなんだけど――これから先、正隊員でやっていくなら真っ先に直さないといけないポイント。……ここはあたしとしても反省点かな、教える立場として」

「い、いえいえそんな! お師匠様の教えのおかげであたしみたいなへっぽこでも正隊員になれたんですから、反省だなんてとんでもないですよ!」

『そうですよ鳩原先輩。ただでさえこの子まともに的に当てるとこからのスタートだったんだし、狙撃以外のことまで教えてたら半年どころか一年経っても昇格出来てなかったんじゃないですか』

 

 

 ひゃみよ、余計なことは言わんでよろしい。撫子は胸中で親友の頬をぐいっと引っ張った。あらやだ、この子の頬っぺた赤ちゃんみたいにつるっつるしてる……肌年齢3歳児かよ……いや、実際は赤ちゃんの肌って結構ざらざらだって話も聞いたことあるけど。流れと全然関係ねえなこれ。

 

 

「そういえば、狙撃手(スナイパー)の訓練って模擬弾を使った実戦形式のやつもあった筈だけど――捕捉&掩蔽訓練だったっけ? ヒナタちゃん、そっちの成績はどうだったの?」

「フッ……」

「あ、これダメなやつだ」

 

 

 明後日の方向を向いて空虚な笑みを浮かべた撫子の態度に、犬飼は全てを察した。それはもう、未来の夏目出穂もかくやと言うほどのハチの巣っぷりであったという。モテる女は辛いぜ……と、顔で笑って心で泣く撫子であった。

 

 

『いくらランク戦は失点より得点が大事って言っても流石に限度があるよね』

「ただでさえ狙撃手(スナイパー)っていうのは見つかったら終わりのポジションだしねえ。鳩原ちゃんは流石にしっかりしてるよね、その辺」

「……あたし、点獲る方じゃ部隊(チーム)に貢献できないから。せめて死なない努力くらいはしないとね」

「ほえ? そうなんですか?」

 

 

 鳩原の言を撫子は意外に思った。部隊(チーム)ランク戦の会場に足を運んだこともなければ対戦映像を見たことがある訳でもないのだが、内容は何となく想像がつく。影浦雅人と村上鋼の繰り広げていたトリガー勝負、あれの多人数版だと思えばいいのだろう。狙撃手(スナイパー)として名高い我が師のこと、それはもう獅子奮迅の活躍っぷりでヘッドショットを決めまくっているものだと思っていたのだが。

 

 

「――ま、チーム戦で点獲れないのは鳩原ちゃんに限った話じゃないけどね。ウチの場合」

 

 

 口を開いたのは犬飼だった。何か言いたげに鳩原が彼へと視線を送り、薄ら笑いの男はひらひらと手を振ってそれに応える。そのやり取りの意味するところは、撫子にはよく理解(わか)らない。なので単純に発言の方へと食いついていく。

 

 

「といいますと」

「ウチにはほら、絶対的な点獲り屋さん(ストライカー)がいるから。おれも辻ちゃんも鳩原ちゃんも、基本的にはアシスト役ってわけ。ヒナタちゃんの好きな漫画に例えるなら『ウチには点を獲れるやつがいる。おれは部隊(チーム)の主役じゃなくていい』みたいな感じかな」

『話の主役であれば……』

「亜季ちゃん?」

『……聞かなかったことにして下さい』

 

 

 ひゃみよ……『堕ちた』な……こっち(オタク)側へ……。

 氷見亜季にスラムダンク全巻を貸し与えた張本人の女は独り、着実に沼へと嵌まりつつある親友の言動にほくそ笑んだ。我が変革ここに成就せり。

 その一方で、どうも腑に落ちない面もあるなと撫子は感じていた。点獲り屋――未だに顔を合わせたことのない二宮隊の長がそれに当たるのだろうが、他に絶対的エースがいるからといって鳩原が点を獲れない理由になるものだろうか? それこそスラムダンクで喩えるのなら、流川楓が同じチームにいようと三井寿が1試合で30点獲ることは可能なのだ。何故ならば彼は、流川楓(二宮匡貴)にはないとっておきの飛び道具を持っているから。

 長距離狙撃(3ポイントシュート)という、唯一無二の妙技を。

 

 

(……いや、スリーだったら流川も何回か決めてるから唯一無二ってことはないか)

 

 

 というか完全に脱線してるな。よし、切り替えよう。撫子は脳内で自身の頭をぽかりと叩いた。

 

 

「――とにかく、ナデコの今後の課題は周りをちゃんと見られるようになること。標的(ターゲット)に意識を集中するのは確かに大事なんだけど、それ以外の要素にも気を配らないと今回みたいなことになっちゃうから」

「き、肝に銘じるであります……」

『……私が紹介しといて今更こう言っちゃうのもアレですけど、本当にこの子が狙撃手(スナイパー)の立ち回りなんて覚えられるんですかね、鳩原先輩』

「六頴館なんですけど! ど!!」

「あ、あはは……まあ、初めのうちは難しいかもしれないけど、いつの間にか自然と身に付いてるものだよ、こういうのは。――焦らないでゆっくりやっていこうね、ナデコ」

「押ォ忍! よろしくお願いしまっす!」

 

 

 来馬辰也を前にした弓場拓磨の如き気合の入りっぷりで撫子は応えた。組の一つでも二つでも潰してきてやんよコラァ、くらいの意気込みであった。余談ながら、弓場の威圧感を100とするなら今の撫子の圧はせいぜい2か3程度といったところである。根本的に顔立ちが小動物系なのだった。

 

 

「――さて。そういう訳で、今回ナデコにやってもらうのは『標的(ターゲット)以外の相手がいることを意識した訓練』。まずナデコに狙われる役、犬飼」

「……何に使われるのかと思ってたらよりにもよって的扱いとか、意外とやることがえぐいね? 鳩原ちゃん」

「うっへっへ、そのキレイな顔を吹っ飛ばしてやりますよ犬飼センパイ」

「うわあ、こっちはこっちでなんか乗り気と来たもんだ。おっかない師弟だなあ」

 

 

 ちょろいもんだぜ、と言わんばかりに犬飼に向けて狙撃の構えを取る撫子。その手にトリガーは握られていないのであくまでも只のフリなのだが。

 そんな二人のやり取りを目にしつつ、鳩原は残る最後の一人――ここまでひたすらに背景と同化し続けていた、黒髪の少年へと視線を向けて。

 

 

「で、新くん」

……!? は――はい」

 

 

 辻くん……生きとったんかワレ……訓練室(トレーニングルーム)に飛ばされた時から完全に沈黙を貫いていたので危うく存在を忘却するところだった撫子である。透明化(カメレオン)のトリガーでも使っていたんじゃないかと思ってしまうほどに空気だった。いい加減にキミとの付き合い方もどうにかせんといかんなあ、と顎に手を添えて悩んでいると。

 

 

「新くんは、犬飼を狙うナデコのことを更に狙う役」

「えっ――ええ!?

 

 

 まさかの指示に驚愕の声を上げる辻新之助。撫子も胸中でマジですか? と思った。お師匠様、いきなりA級攻撃手(アタッカー)様がお相手というのは流石にハードル高過ぎるのではありませんか?

 などと困惑を隠せない両名をよそに、そばかす顔の女は話を先へと進めていく。

 

 

「ルールはこう。ナデコと新くんは互いにマップの端からスタートして、二人ともバッグワームを着用。犬飼はバッグワームなしでマップ中央(ここ)からスタート、動いてもいいけど走るのはダメ。ナデコの狙撃を防御(ガード)するのもダメ。ナデコは新くんにやられるよりも早く犬飼のことを倒せたら勝ち、犬飼がやられるよりも早くナデコのことを倒せたら新くんの勝ち」

「――おっとぉ?」

「亜季ちゃんはナデコのサポート。だけどフォローはマップの案内(ナビ)と最低限の警戒(アラート)止まりで、立ち回りの方は全部ナデコに考えさせること。……どうかな? 訊きたいことがあるなら今のうちに」

「おれには何か勝利条件とかそういうのないの? 鳩原ちゃん」

「ないよ、そんなの」

 

 

 訳:黙って撃たれて死になさい。

 鳩原未来、犬飼に対しては割と容赦のない女であった。同い年っていうのはあたしの知らないところで色々あるんかなあと、撫子は二人の関係性に若干の興味を抱いた。仲が悪いとかそういう訳じゃなさそうなんだけど。

 それはさておき――これ、普通にワンチャンあるのでは? むしろあたしガン有利まであるのでは? というのが、説明を聞き終えての正直な感想だった。いくら自分が運動音痴(うんち)のウスノロ鈍亀系女子だとしても、流石にこの条件なら辻に見つかってぶった斬られるよりも犬飼を射程に捉える方が早いだろう。おまけに的は走れもしなけりゃ守れもしない哀れなイケメン先輩ときたものだ。うむ、考えれば考えるほど負ける気がしねえ。お師匠様、いくらあたしがクソザコとはいえハンデをつけ過ぎましたね……?

 

 

「お、俺が……日向坂さんを……」

 

 

 ……というか、もしかすると試されてるのはあたしじゃなくて辻くんの方なのかなあ、これは。

 

 

『……うん。やっぱりこれは、ナデコにとっても()()()()()()()()、やらなきゃいけないことだ』

 

 

 訓練室(トレーニングルーム)へと移動する前に耳にした、鳩原の言葉を思い出す。辻新之助にとっても必要なこと――まあ間違いなく異性との接し方問題にメスを入れることなのだろうが、あえて撫子圧倒的有利の条件で競わせることによって、鳩原は彼に奮起を促しているのかもしれない。逆境からの覚醒だとか、そういうものを。

 とはいえ――やるからには当然、こっちも勝ちを狙いに行く訳なので。

 

 

「――悪いけど、手加減しないぜ? 辻くん」

えっ、あっ、はぃ……よろ……ます……

 

 

 バキューンと人差し指で狙い撃つ仕草と共に宣戦布告したはいいものの、どっちが乙女なのか判らない程に恐縮し切った挨拶が返ってきて、これ本当に勝負になるんかなあ……とかえって心配になってきた撫子であった。調子に乗んなって小突いてくれてもいいところだよ、今のは。

 

 

「新くんは……どう? やれそう?」

「うっ……そ、その……頑張ってみます……」

「何だったらおれの代わりに撃たれる役やらない? 辻ちゃん。ヒナタちゃんを追っかけ回すのは中々に楽しそうだ」

「え、なにこのひと怖い」

『それじゃ辻くんの訓練にならないでしょ、犬飼先輩。――だけど辻くん、無理なら無理って先に言っておいた方が楽だと思うよ』

「――いや。……やってみるよ、ひゃみさん」

 

 

 その時。

 氷見亜季に言葉を返す時だけ、辻新之助の声の震えは、僅かに弱まっていた。

 

 

「……このままじゃダメなことくらい、自分でもわかってる、から。やれるだけのことは、やってみる」

『――そ。じゃあ、がんばって』

「うん」

 

 

 ……んん? んんん? なーんか怪しくないですか、このお二人さん?

 短いながらも確かな信頼感が垣間見えるやり取りを耳にしつつ、撫子は思った。いや、あたしがすぐにそういう方向へと話を持っていきがちなピンク色の脳味噌してるせいでそう思っちゃうのかもしれないんですけど。

 ていうか辻くん、いくらなんでもあたしとひゃみとで態度が違い過ぎるんじゃないかね。そりゃ付き合いの長さの違いとかあたしとひゃみのキャラの違いとかそういうのはあるかもしんないんだけど、それにしたってここまで明らかに差付けられちゃうと、あたしだってそれなりに思うところがあるっていうかさ、正直に言うとちょっぴりさみしいぞ、こんちくしょう。

 いや、わかってます。わかってますよ、あたしのアプローチの仕方にも問題があるのは。実際それでひゃみにも叱られてるし。でもね? 本音を言うならあたしはなるべく、()()()()()()()キミと普通にお喋りがしてみたい。優しさがどうとか思いやりがどうとか偉そうに語っていたけれど、結局のところはそれこそがあたしの――

 

 

「ヒーナタちゃん」

「うおぁ!?」

 

 

 にゅっ、と唐突に生えてきた目の前のイケメンに仰天して悲鳴と共に飛び退く撫子。なんだこのひと、一体いつの間にあたしの傍へと忍び寄ったんじゃワレ。音とか気配とかそういうの一切しなかったんですけど。ゾルディック家の方か何かでいらっしゃいます?

 

 

「あっはっは、ヒナタちゃんは相変わらずいい反応するよねえ。からかい甲斐があっておれは好きだよ、きみのそういうとこ」

「……な、なんですかいきなり。言っときますけどあたし、好きって単語だけに反応して勘違いで顔赤くするようなテンプレ系女子じゃないですからね。あなた方の想像してる百倍はめんどくさい女だと知りたまえ」

「え、そう? ヒナタちゃんが独りでそう思ってるだけじゃない?」

 

 

 不意打ちを決めておきながら悪びれもせずにけらけらと笑う犬飼の態度に、だからあたしはパイセンに気を許し切れないんですよと撫子は思った。このひとはどうも、人の心の隙間にするすると滑り込むのが上手いタイプの人間であるような気がする。

 そういうの、人によっては()()()()()()()()(さか)しさかもしれませんよ、パイセン。

 

 

 ――だけど、まあ。

 よろしくない考えに漬かりかけてたところを引っ張り上げてくれたことには、心の中でひっそりと感謝しておきます。お手数おかけしました。ぺこり。

 

 

「……ナデコも、大丈夫? なんだか少し、ぼーっとしてたみたいだけど」

「――いえいえ、まったく問題ないです。余裕のよっちゃんです」

『切り返しが古い……』

「は? 古くないが? 赤い服着たセーラー服の姉さんがよく言ってる激マブワードなんじゃが?」

「たまにナデコはあたしの知らない世界の言葉を口にするなあ……とにかく、二人とも大丈夫そうなら早速始めてみようか」

「押忍! 日向坂了解です!」

「――辻、了解」

 

 

 ビシィ! と敬礼の構えを取る撫子。やや強張った面持ちなれど、覚悟を決めて同調する辻。

 そんな二人の返答に頷きを返して、鳩原は交互に正反対の方角を指差しながら宣言する。

 

 

「それじゃあ――ナデコはあっち、新くんは反対のあっちから。はい、散開!」

 

 

 ――あ、師匠がセリフにエクスクラメーション付けてる(気合入れた声出してる)ところ初めて見たかもしれない。

 なんとなく得した気分になりつつ、撫子は目標のポイントに向けて駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

「はーい、行ってらっしゃーい――今更だけど、ウチの訓練室(トレーニングルーム)ってこんなに大きかったっけ? なんか普通にマンションとか建ってるし、ほとんどランク戦の会場と変わらないくらいの広さあるよねえこれ」

『設定弄ってあるから』

「なるほど。細かい理屈を取っ払った大雑把な説明をありがとう」

「何の話してるの……それよりも犬飼、大丈夫だとは思うけど」

()()()()()()()()()()()()()、でしょ? OKOK、上手いことやるよ」

 

 

 毎度お馴染みのへらへら笑いを浮かべ、鳩原の念押しに応じる犬飼。言われるまでもなく、この男は自身に与えられた役割の意味を理解していた。

 本当に単なる的役を所望しているのなら、わざわざ自分を指名する理由がない。捕獲型(バムスター)なり戦闘型(モールモッド)なり、適当にプログラムを組んだトリオン兵でも狙わせていればいい。にも拘らず、これ見よがしに穴だらけの制約を用意して自分(にんげん)を駒にする以上、求められている動きがあるのは明らかであった。

 

 

「ただまあ、ヒナタちゃんの方はともかく――辻ちゃんの問題はどうにも根が深いからねえ。訓練一つで解決するかは怪しいもんだ」

「……あたしだって、こんなことで新くんの根本的な部分を変えられるとは思ってないよ。本人がどうにかしたくっても、どうにもならないことって、あるから」

「それは辻ちゃんの話かな? それとも、鳩原ちゃん自身の話?」

『こら』

「うわあ、マジトーンだ。最近どんどんおれに対する遠慮がなくなってない? ひゃみちゃん」

『そう思うなら普段からもっと尊敬したくなる言動を心掛けてほしい』

「あ、あはは……とにかく、わかってるならいいんだ。二人のことお願いね、犬飼」

「……二人のこと、ね」

 

 

 ――誰よりも真っ先に面倒見ないといけないのって、ホントはきみの方なんじゃないのかな? 鳩原ちゃん。

 胸中でそう思いながらも、口にすることはしなかった。ただでさえ氷見に釘を刺されたばかりであるのだし、これから後輩二人のお守りをしようというタイミングで踏み込めるような話題でもなかった。

 

 

(それに――それこそおれには、どうにもならない話だからねえ。こればっかりは)

 

 

 何しろ自分は、トリガーで他人を撃つことに躊躇いを覚えたことなど一度もないので。

 人を撃てない狙撃手(スナイパー)の気持ちなど、一生経っても理解出来る気がしなかった。

 

 

 故に今日も、犬飼澄晴は口元を吊り上げてこう応える。

 鳩原未来の不格好なそれとは異なる、完成された作り笑いを顔に貼り付けて。

 

 

「犬飼、了解」

『――辻、配置に着きました』

『同じく日向坂、準備オッケーであります!』

 

 

 時を同じくして、日向坂、辻の両名からも通信が入ってくる。

 全員の用意が整ったのを確かめて、いよいよ鳩原は、開幕の下知を飛ばした。

 

 

「……よし、じゃあ行くよ――全員、行動開始!

『っしゃあー!』

『…………!』

 

 

 号令と共に、視界の端に映る三つの光点が残り一つとなる。遠方の両名がバッグワームを起動して、レーダーから姿を消したのだ。

 さて、それじゃあこっちも始めますか――と一歩目を踏み出すその前に、なんとなく気になったことがあって、犬飼は残された最後の光点に向けて問いかけた。

 

 

 

 

 

「――思ったんだけど、鳩原ちゃんは一体どこからおれらの様子を見守ってるつもりなのかな?」

「……あ」

 

 

 鳩原未来。訓練の内容を考えてみたはいいが、自分自身に肝心の役割を用意していなかったので部屋へと入った意味が特になかった。

 この子は意外と勢いだけで後先考えずに動くところがあるのかもしれないなあと、ほんの僅かに微笑ましさを感じた犬飼であった。

 

 






とりあえず辻ちゃん編は次で一区切りです。多分。
あんまり二宮隊コミュに時間割き過ぎると影浦雅人さんの霊圧が消えてしまうので早いとこ話を先に進めたい

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