レッドとグリーンのバトルに審判役として巻き込まれたシロツメ。
他人のバトルを見て学習しつつ、この二人を相手にしたくないと思うのだった。
とりあえず二人と行動を共にすることになり、今日はポケセン泊である。
アニポケでよく見るあのポケセンの宿泊施設は結構便利なもので、トレーナーであれば無償で宿泊でき、朝食と夕食もなんとタダ。
そこら辺のホテルよりも使いやすいのではなかろうか。
ていうかまだトキワなので家に帰った方が俺的には早いのだが、まぁ何事も経験というやつだ。というか二人相手に逃げられなかった。
流石に部屋は別々だ。
時刻は既に草木も眠る丑三つアワー。
眠れず部屋を抜け出し、念の為バッグを持っていく。
夜のトキワはなんとなく落ち着かないものだ。昼間は賑やかな二十二番道路前もこの時間に歩くやつなどいない。いたら怖い。
そんなこんなでウロウロと気の赴くまま深夜徘徊をしていたら、何かの遠吠えが聞こえる。
犬のような声だ、ガーディかウィンディだろうか?だが違うような気がする。ガーディやウィンディよりも低いような…。
そう考えているうちに俺の足は動いていた。遠吠えの聞こえた方へ、ふらふらと歩き出す。
何か、懐かしい気がした。夏の日の夕暮れに家路へ帰る時に聞こえる蝉時雨のような、前世から知っていたような不思議な懐かしさ。
だが、同時に頭の片隅で警鐘が聞こえる。行ってはいけないと、今すぐ引き返せと頭の中で呼び続ける。
その呼び続ける声も虚に、俺は前だけをゆらゆらと見る。
行かなきゃいけない、そんな使命感が体を支配していて思考もノイズが走る。
ふと、足が止まった。月が良く見える丘だった。
俺の思考はふと正常さを取り戻す。体の支配権も俺に戻る。
どこだ、ここは。こんなところ、トキワの周辺にないはずだ。
懐かしさよりも恐怖、恐怖よりも既視感。
なんだ、なんなんだこの感覚。地面に足をつけているはずなのに、空を浮いているような浮遊感。心の一部が空洞になったような。
「ウオオオオオオオン」
−−また、
「ウオオオオオオオン」
−−その
「ウオオオオオオオン」
−−その姿は月を背にした。
「ウオオオオオオオン」
−−骸を纏いし。
「ウオオオオオオオン」
−−狼のようだった。
凛々しく、神々しく、禍々しさすら感じる野生の化身。その声は大地をも震わせることすら容易いように思うほど強く、雄々しかった。
勝利さえひれ伏し、空さえも裂き、地獄でさえも支配してしまうような…。
だが、だがそんな感覚の裏で、俺の正常な脳は違和感を感じていた。だって、だって目の前のその存在は…。
間違いなく、ヘルガーだ。
なんでカントーにヘルガーが、というか、何故自分はヘルガーにそんな感情を募らせるのか。
間違いなくヘルガーであるのに、なんで伝説や幻を見ているような錯覚に陥るのか。
まるで意味がわからなかった。
俺が目を離せず、ただ呆然と目の前のヘルガーを見ていると、ヘルガーは俺の方に近寄ってくる。
近くで見ると、ヘルガーは本当に大きかった。おそらく通常のヘルガーとは比べ物にならない、もしかしたら子供、俺のような体なら余裕で乗せて走れそうな大きさ。
ヘルガーは俺のカバンを口で器用に奪い取ると、中を漁り始めた。そして、その口でモンスターボールを咥えて俺の前に起き、座った。
もしかして、このヘルガーは俺にゲットされたいのか…?
自惚のようだと思考の片隅で考えるが、俺は目の前のモンスターボールを拾うと、ヘルガーを見た。
ヘルガーは俺をまっすぐと見つめる。
「ガウ」
早くしろというように鳴いた。
俺は戸惑いながら、ヘルガーにモンスターボールを優しく投げる。
一つ、二つ、三つ数えてポンと音がする。ヘルガーがモンスターボールへ入ることを了承したという合図である。
まだ状況を整理しきれていない俺は、ヘルガーをモンスターボールから出す。
ヘルガーは俺を見つめると口で服の襟を噛み、ヒョイと上に乗せる。そして駆け出した。
俺はただ振り落とされないよう必死になってしがみつくしかなかった。
そして暫くすると、二十二番道路前まで連れてこられていた。ヘルガーはもういいだろうというようにモンスターボールの中に戻る。
俺はよくわからないままポケモンセンターの宿泊施設へ戻って行くことになったのだった。
厨二満載回です。
なんでヘルガーなの?って疑問に思った方いますよね。
作者の趣味です。犬系ポケモンってかっこいいけど、その中でも特にかっこいいのがヘルガーなので。ルガルガンも出そうかと思ったのですが、流石にアローラ統一は芸が無いかと。で、そう考えて選んだのがヘルガーでした。