攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
注文したドリンクは程せずしてやって来て、各人の手にそれぞれ渡ることとなった。同時にコース料理の一つ目、生野菜サラダも持ち込まれる。
大きなお椀にてんこ盛り入ったソレがどどん! と2つ、テーブルに置かれる。見るからにシャキシャキしてそうなみずみずしいレタスにパプリカを刻んだものとか、クルトンが入ってチーズソースがかけられている。いわゆるシーザーサラダ風だね。
「あーすみません。ええと個別注文良いでしょうか?」
「かしこまりました、ありがとうございます」
と、メニューを見ながらベナウィさんが店員さんにあれこれ注文している。
今宵はコース料理で予約していることに変わりはないんだけど、それはそれとしてそれ以外のメニューも単品で注文できるらしい。
もちろん別途お金はかかるけど、ぶっちゃけ探査者やってる時点でお金関係は一切気にする必要とかないからね。しかもこの場には10人もいるのだ。
メニューの端から端まで10人前ずつ注文したって懐が痛むなんてことにはならないだろう。いやしないけどねそんなこと、絶対食べきれないし。
ともあれいくつか追加注文をしてから、改めて一同配られたドリンクを手に持った。シャーリヒッタがコーラを興味深げに眺め、なんなら飲もうとするのをやんわりと止める。
「こういう場はまず、みんなで乾杯してから飲む感じなんだよ、シャーリヒッタ」
「あ、そうなんですか? ならそうします、父様」
「リーベちゃんに合わせてるといいですよー。ヴァール、そしたら音頭お願いしますねー」
初受肉、すなわち現世そのものが初体験なこの子にとって乾杯してから飲み始める、なんてのは意味不明なものだろう。
それを承知しているからみんな、優しい顔で彼女を見守ってくれている。ありがとうございますだねホント。リーベもリーベで自分を見倣って合わせてくれればいいと笑いかけてるし、こういう時はたしかに長女的な空気出すよなあ。
そしてそれらを受けて、なんならリーベからも催促されてヴァールが立ち上がった。乾杯の音頭を取るのだ。
コホン、と一つ咳払いをして彼女は口を開いた。
「諸君。この度の対倶楽部戦線における奮闘、大変ご苦労だった。諸君らの戦いぶりはWSO統括理事としても大いに頼もしく、誇らしく、そして素晴らしいものだったと断言できる。本当に助かった──ありがとうございました」
「私からも礼を言っとくよ、ファファファ! ありがとねえ、みんな」
マリーさんも合いの手を入れるような形で二人、俺達を労ってくれる。
WSOの重鎮達からのお褒めの言葉なんて、普通はなかなかかけてもらえないだろうからすごく貴重な機会なんだろうなーってぼんやり思うよ。
「諸君らの功績については後日改めてWSO、国際探査裁判所ならびに全日本ダンジョン探査者組合協会から褒賞が与えられる。特に山形公平についてはB級へと昇級が確定しているので、そのつもりでいてほしい」
「えっ」
「C級がS級複数人と肩を並べて戦ってみせたのが周知されたのだ。さしもの全探組も、多少は優遇せざるを得ないという判断に至ったようだな」
いきなり出てきた思わぬ言葉に目をひん剥いて驚く。オイオイオイまた昇級だわ、一ヶ月前にC級になったばかりなんですけど?
春先、半月かけずにFからEへ。そこからドラゴン騒ぎの功績をもって6月頃にD級へ。そして邪悪なる思念との最終決戦後、夏休みに入るくらいの頃にC級になってのこれである。
山形くん、事実上夏休み中にD級からB級になるわけなんですけど。とんでもない夏休みデビューだよ。
とはいえさすがに、倶楽部との戦いはいろいろ規模やら何やら派手に過ぎた。特にバグモンスター退治に際して二度目の全国デビューを果たしてしまった以上、そんな俺を昇級させないままってのは難しかったのかもしれないね。
「デビューしてほぼ半年でB級とは……間違いなく世界最速記録だな。見事だ公平殿、俺も我がことのように誇らしい」
「この調子でS級までいっちゃいましょうかミスター・公平。なあにサークルだのダンジョン聖教過激派だの、潰して回っていたらすぐですよ、すぐ」
「はっはっはー追い抜かれそう! でもまあ、さすがに山形くん相手に張り合おうとは思えませんねえ」
「ハッハッハー、その気になれば星どころか宇宙ごとどうにかできちゃえそうな存在だもんねー。ま、この分なら本当にさっさとS級にまで行きそうな予感はするよね!」
「えぇ……?」
並み居る先達のみなさんからありがたい祝福の言葉をいただくけれど、そんなハードル上げるのやめてほしい。
そも、探査者のメインストリームはA級ってのはよく聞く話だし、そこから上、S級なんてのは本当に一握りの中の一握り。才能と努力と精神性の果てに行き着く限られた存在だってのは、新規探査者教育の際にも教え込まれたし実際、この場にいるS級の方々のお姿を見ていれば納得もできる。
できることはともかく、精神面では俺じゃあ及ばないよなあって。ぶっちゃけ邪悪なる思念との決戦以降、割と隠居モードになりつつある身としては戸惑いと躊躇いが先に来る話ではあるよね。
もちろん、昇級自体は嬉しさも感じるけれど。と、ちょっと曖昧めな笑みを浮かべる俺に、香苗さんが手を握って優しく笑いかけてきた。
「香苗さん?」
「真面目なあなたのことです、S級とまで言われて戸惑っていらっしゃるのでしょうが……私は、あなたこそがS級に相応しい理想の探査者像を体現していると思いますよ」
「え……」
「……いつだって、ダンジョンに苦しめられる人々のことを想い。彼ら彼女らの当たり前の日々を、人生を守るために探査を行う。ましてモンスターと化した異世界の魂をさえ救うことを目的としているあなたは、間違いなく探査者の中の探査者です。これからS級になる私が言うんですから、間違いないですよ」
ウインク一つして、茶目っ気めかしつつ本気の瞳でそう言ってくる。伝道師としてでない、世界最新のS級探査者としての香苗さんのお言葉。
そうか……この人こそは、俺の探査者としてのはじめからずっと側にいてくれている人なんだ。俺が探査者として、アドミニストレータとして、コマンドプロンプトとしての使命を担っていると誰より近くで理解してくれているんだな。
そんな人からの太鼓判を押されたら、俺もなんだかやる気出ちゃうよな!
信頼の笑みを浮かべてくれる彼女に笑い返し、俺は頷くのだった。
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