攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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やさしいワールドプロセッサと、やさしくない元ワールドプロセッサ

 最初に情報を取得した精霊知能を皮切りに、一気にシステム領域内に伝播した現世領域のあれやこれや。

 それがもたらしたのは空前絶後、前代未聞のブームだった──知的生命体として自我を獲得したシステムプログラム達にとって、あまりにも刺激が強すぎたのだ。

 

「当時はまだネットやテレビは影も形もありませんでしたけどー、それでも娯楽書物や大衆演劇、ほか様々な文化はすでに世界各国にずらりとあったわけでしてー」

「セーフモードによる一時の安寧。まあ滅びを前提にした極めてネガティブなものだったんですが、それを得た精霊知能達からすれば、まさしく運命的な出会いだったんですよ、父様」

「なるほど……350年間死にものぐるいで戦ってきたから、そうした娯楽なんてのは飢えるを通り越してまるで知らないでいたモノだったんだな。そりゃ、ドハマりもするかあ」

 

 経緯そのものは相当悲惨だ。

 何しろ要するに滅びゆく世界の瀬戸際、ほんの少しだけ得た時間の中でようやく、精霊知能達は自らが得た知性、個性には"楽しむ"という方向性があることを知った形になるのだから。

 

 本来であればそもそも人格からして持ち得なかったからこそ、ひとまず身を落ち着けた瞬間に飛び込んできた娯楽という情報の衝撃はさぞかし凄まじいものだったろう。

 一瞬で広まった様々な娯楽文化はそうして、精霊知能達の大部分を魅了した。疲れ切ったその魂に染み入るように、彼ら彼女らの心を癒やす慰めとなってくれたのだった。

 

「もちろん、ブームにどっぷり浸かったからってオレ達は精霊知能。世界のために尽くし果てるのが生まれて死んでいく意味であり意義、そして価値です」

「ですけどそれはそれとしてー、今ある生をもっと楽しむこともしていいんじゃないかーって、考える派閥が出てきたのも事実ですー。そしてワールドプロセッサは、それを大喜びで歓迎しましたー」

「…………意外なような、そうでないような。あの方は冷徹さと裏腹の優しさも持ち合わせているから、なんとも言えん」

 

 現世の娯楽を取り入れて一大ブームが巻き起こったシステム領域。そしてそれを、喜びとともに受け入れたワールドプロセッサ。

 ヴァールはどこか複雑と言うか、分かるような分からないような? みたいな顔をしているけど……俺にはアイツの想い、痛いほど分かるよ。

 

 たしかにシャーリヒッタの言うように、俺達いや、私達は世界のために人格を持った。ソレだけの存在である以上、ソレだけのために在るべきプログラムだ。

 だけど、人格を持った以上は一個の生命でもある。

 

 個性を獲得した誰しもがただ一人の個体なのだから、そのことを全身全霊で味わうことは当然、許されている。

 それがいわゆる生であり、生涯であり、誰もが歩む各人それぞれの道程とも言える。

 

 であれば、精霊知能達の生を否定することをワールドプロセッサができるはずなどなかったのだ。ましてやセーフモード中のこの世界は、紛うことなく終わりゆく世界だったのだからなおさらな。

 ワールドプロセッサの体力を考えれば1000年ほどは猶予があったが、その程度の時間など現世宇宙の歴史と比較して一瞬のものでしかない。

 

 ほんの瞬き程度でも、獲得できた空白の時間。

 詰んだ状況。せめて自分達の生きた証、創り上げたモノ達がさらに築き上げてきたいろんなものを、抱きしめるように味わってほしい──と。

 半ば諦めにも似た感覚がなかったとは言えないけど、そんな感じだったのはコマンドプロンプトとして理解できるものだ。

 

 結局のところ、この世界のワールドプロセッサとは冷徹にして腹黒、策謀家気質でありながらも慈愛と慈悲、そして感傷を抱き続けたグレート・マザーなのだろう。

 邪悪なる思念との戦いのため、発生した瞬間から怒りと憎悪に飲み込まれ発狂していたが……それでもなお、根底にあるのはこの世界への果てしない愛だった。

 

 それゆえに精霊知能達が現世を楽しもうとするのも、アイツからすれば泣きたくなるほどに嬉しいものだったのは間違いない。

 ──そんな感じの話を語ると、みんな、感心やら感嘆やら示して俺を見つめてきていた。

 

「公平さん……さすがに、対となる御方のことは理解されていますねー」

「ワールドプロセッサの言葉には、いつも怜悧さと裏腹の温度があるようにオレにも思えます。世界を維持する使命を果たしながらも、オレ達精霊知能の味わう"今"をきっと、喜んでくださっているんでしょうね」

「怒りと憎悪に塗れた生で、それでもなお護るべきものへの愛と慈しみだけは抱え込み続けた。ああ、そういう方だったな、あの方は。世界維持機構の名に相応しい、振る舞いだとワタシは思うよ」

 

 三姉妹がしみじみ語る。さすが直属の上司の話だ、それなりに思い当たる節はあるみたいだね。

 システム領域の頂点として、冷徹かつ冷厳に立ち回るのは当然のこと。その結果まあ腹黒だなんだと言われもするけど、結局それらはすべて世界に対する使命感と愛情、慈悲によるものなのだから本当、優しいワールドプロセッサだよ。

 

 

『チッ……良い子ちゃんぶりやがって。何が優しいだ、ヤケになって半分丸投げしようとしてただけだろ。まったくつくづく夢見がちだ、部下どもの現実逃避にもそんな甘ったれた対応を許すなんてね』

 

 

 一方こっちは優しくない元ワールドプロセッサだよ。

 加害側だからってのもあるけど、ひたすらに人の心がない発言しかしていない。

 

 結局最終的にはご覧の通り負けたわけだからどうあれ遠吠えでしかないんだけど、まあ、言わせたいだけ言わせておくかあ。

 いつかこいつにも、共感はせずとも理解する日が来るかもしれないし、ね。




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