攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
システム領域は入口地帯、なだらかな草原をしばらく歩いて都市部に向かう。
歩くって動作も実のところ本来なら必要ない、任意で好きな場所に瞬間移動できたりするのがこの領域なんだけど……そこはそれ、せっかくこうしてガワを整えてくれたんだから、味わいたいからね。急ぐ旅なわけじゃなし。
やはりオブジェクトとして設置された空を見る。真っ青な空には不思議と太陽がなく、しかして柔らかな陽射しが何処かから降り注いでいる。
気温までしっかり設定されてるんだから、受容的な感覚ってところにはかなり力を入れてるんだな、これ。
感心しているとリーベが解説してくれた。
「仕事を終えてオフを迎えた精霊知能達も、メンタルケア的な意味も兼ねてこの草原に出ては軽いピクニックとかしてますよー。やっぱり知性体には気晴らしってものが必要ですからねー」
「本当に現世的だなあ……タイムスケールも現世地球と変わりなさそうだし」
「今のシステム領域は現世の地球、人類の社会文明に則った仕組みに調整してますからー。時間はじめいろんな感覚の尺度や捉え方についてはひとまず、今ある彼らの社会に倣っていますー」
「同じ種類の知性体でも、文明や社会が変われば物事の意義や意味も変わる。なればこそ現行最新にしてもっとも注目度の高い観測地点の規格に合わせているわけか」
ヴァールと二人、いろいろ変わったシステム領域をゆっくりと理解していきながらも歩く。そうこうしているうちに、遠くに見えていた都市部がもうすぐ近くだ。
至近から眺める。透明感のある透き通った材質の建物が建ち並び、天を衝くほどのビルだって少なくない。地面も舗装されており歩道と車道に分かれており、時折車らしいものが走っている。
らしい、というのはその車、タイヤがないのだ。つまりは地面スレスレを浮いた状態で走っている。
空には半透明の大きな道があちこちの建物に繋がっていて、その中をいくらか車が走ってたりしているね。やはりあれらもタイヤはない、いわゆる"空を飛ぶ車"という状態だ。
怖ぁ……唖然としちゃうよ。隣でヴァールも困惑気味だ。
俺達の前でドヤ顔を披露するリーベとシャーリヒッタ、二人の精霊知能に対して、そんな俺達はただただ、つぶやくばかりだった。
「み、未来都市……」
「"50年後の世界の姿"という題で50年前に発表されていそうな風景だ……子供の空想を濾過せずそのまま出力したようなデザインだが、これは一体?」
そう、この光景あれなんだよね。おそらくは思い描かれるだろう"SFチックな未来都市"のパブリックイメージそのまんまなのだ。
ヴァールの言うように、50年前の子供に"50年後の世界ってどうなってると思う? "って聞いた時、こんな風景が想起されるんじゃないかと思う。
SFというジャンルにはそこまで詳しくないものの、今ある眼前の光景については誰がどこからどう見てもSFチックという評価を下すんじゃないかなあ。
もちろん悪いものではないんだけど、単純になんで? という感想が先立つ。それを察するかのごとくシャーリヒッタが、ドヤッとした顔のまま説明を続けた。
「現世地球に合わせるっても、そのまんまマジで丸コピーもどうかと思ったからよ! 日本人に絞った範囲で過去100年ほどの"夢の未来都市"って概念データを抽出して選別、それらしいものばかりピックアップして参考にしてみたぜ! もちろんデザインそのものについては担当した精霊知能達によるオリジナルだから、商標権やら著作権についてはノープロブレムだぜ!」
「権利関係を護っているならそれは何よりだが……そもそもなぜ未来都市というテーマで構築したのか……」
「そりゃーシステム領域だからな! いつか何かの間違いでここに足を踏み入れるかもしれない概念存在だか現世存在だかがいるかもしれねぇし、そいつらに夢と希望を見せるためだなァ!」
「えぇ……?」
マウントを取るためにやりました! と鼻息も荒い娘さん。
たしかにこの光景はなかなかロマンがあるように少年のハートを持つロマンチック山形くんには思えるけれど、さりとて現世の人達がこの光景を見る機会ってほぼ、ゼロに近いと思うんだけどなあ。
まあ、これについては言わぬが花か。誰かに見せる用にきっちり整えるってことは悪くないことだしね。
ひとしきり驚かされた後、いよいよ都市部に足を踏み入れることにする。んだけど、なんかちょっと進む先の様子がおかしい。
結構な割合が、都市部の中心に集まっている? かなりの数だ、万は下らないぞコレ!
「まさかこの建物達もオブジェクトだから実際にはそこにあるだけで、活動自体は都市部の中枢とかでやってるとか? いやまあ、そこ以外にもあちこち気配は感じるけど」
「まさか! 建物内には当然、各精霊知能の作業空間がありますよー。ハリボテだけ作って普段は寄り集まって別の場所でお仕事、なーんてことしませんよー?」
「みんなが今、集まってるのは特別なイベントが開催されるからです。ほら、もうじき父様にもわかりますよ!」
「へ?」
「……まさか」
やけに自信満々なシャーリヒッタに、まったく見当もつかない俺ちゃんだけどヴァールは何やら勘付くところがあったらしい。難しい顔をして、頭痛がしているみたいに指で頭を抑えている。
なんだなんだ? と思いつつそこからさらにしばらく歩き、都市部の中央、精霊知能達が集結しているらしい地点の入口付近? に差し掛かると──
「お帰りなさいませ、コマンドプロンプト! そして精霊知能ヴァール!!」
──と、いう声がいきなり俺達に浴びせられかけた。同時に拍手喝采があたり一面に響き渡る。
見れば精霊知能の群れ。大群衆が見渡す限りの範囲、それこそ空さえ飛んで周辺を埋め尽くすようにひしめき、俺達を見ている。
みんな笑顔で、温かい眼差しだ。
ええと、これ。歓迎?
お帰りなさい、ませ?
「は? え?」
「…………やはりか。本当に現世めいたことをするな、同胞達よ」
圧倒される俺、予想が合っていたのか遠い目をするヴァール。リーベとシャーリヒッタはニコニコして、そんな俺達を後ろから見ている。後方精霊知能面!?
さすがにここまで来たら俺にも分かった。
彼らは──この都市にいる精霊知能達はみな、俺とヴァールを迎えるためにここに集結して、準備してくれていたんだ。
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