攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

111 / 2045
よみがえる勇気

「おっと。さすがに殴られるのはやだな、痛いの嫌だし、生きていたいし」

 

 激高した俺の、全力速度の接近とパンチを軽々と避けて。

 邪悪なる思念の端末は、宙に浮かんで静止した。

 

「と、飛んだのか……! いや、降りてこいっ! 関口くんから、お前の力を抜き取れ!!」

「え、なんで? 本人が望むままに力を得られるんだし良いじゃないか? 妬ましい君を下せるだけの力、欲しかったから今、そうなってるんだろ?」

「っ……」

 

 二の句が継げない。こいつ、本心からそれを言っているのもたしかだけど……!

 関口くんだって間違いなく、俺を妬んで憎んでいるんだ。望んでいないかと言われれば、否とは言えない、のだろう。

 

 そんなに、俺が憎かったのか?

 俺を、倒すためにこんなやつから力を得てしまうほどに。

 苦しい思いをしてまで、俺が妬ましかったのか、関口くん!?

 

「や、やま……」

「! 関口くん!?」

 

 黒い靄の中、声が聞こえてくる。関口くんが、俺を呼んでいる。

 必死に呼びかける。負けないでくれ、頼む!

 そんな思いの俺に、彼は、言うのだった。

 

「……今、しかない。ころ、してくれ」

「!?」

「こん、な。おれ、は。にく、くても望んでない……! た、た」

「せき、ぐちくん」

「探査者だ、俺は……! 腐っても、クズでも……人を助ける《勇者》なんだっ!! こんな、人を貶める力に飲まれるなら、死んだ方がマシだ、マシなんだーっ!!」

 

 それは、気高い叫びだった。自分の弱さを認めてなお、貫こうとする信念の、魂の高貴さ。

 我欲の何もかもを捨て去った、これがきっと、本来の関口くんなんだ……!

 彼は、土壇場で邪悪に打ち勝ったんだ!!

 

「ふふ、強がりだね。口で何と言おうが魂は力を欲している。だからさあ、受け入れなよ」

「──黙れ」

「……うん?」

「黙れと言ったんだ」

 

 心が震える。目の前の、素晴らしいクラスメイトを救えと叫んでいる。

 どこかで望んでいるだろう力を、それでも拒み。己の弱さを受け入れて一人、死すら覚悟しているこの探査者を。

 

 俺は、絶対に助ける!!

 

『──これは、絶対に負けてはならない戦いである』

『──これは、魂を救うための戦いである』

 

 リーベの声。かつても聞いた、スキルの発動条件が満たされていく。

 俺の身体が輝いていく。前よりも強く、前よりも優しく。邪悪なるものすべてを癒やして浄めるように、神々しく。

 

『──アドミニストレータ用スキル《誰もが安らげる世界のために》および《風浄祓魔/邪業断滅》発動承認。前者の出力は100倍が承認されました。今の公平さんなら扱えるはずです』

「ありがとう、リーベ」

『──良いってことですよー』

『……勝ってください。やつこそは、本当に打ち倒さなければならないモノの一部なのです』

 

 リーベに続きシステムさんの声も聞こえる。いつも、二人が俺に力を貸してくれている。

 関口くん……いや、もはや邪悪なる思念そのものになりかけている彼を見る。うめき声もあげられてないが、それでもなお、魂が抵抗しているのが分かる。

 

 大丈夫、今助ける。

 今度、腹を割って話そう。いつか君と、ダンジョン探査がしたいよ。

 

「《風浄祓魔/邪業断滅》──邪悪よ、滅びろ」

 

 手を翳し、光の波動を放つ。関口くんの心につけ込む邪悪へ、聖めの風を流し込む。

 すると靄は次第に薄くなっていき、やがては意識を失った関口くんが見えてきた。外傷はない。

 俺は彼を支え、その場に寝かせた。

 

「……なんで? え、なんで? 明らかに僕の力は彼に芽吹こうとしていた。彼の心は、君を憎んでいた。なのにどうして?」

「それだけじゃなかったんだ、端末」

 

 心底から不思議がる──悔しさすら感じさせず、完全に純粋な好奇心から、こいつは関口くんの心を考えあぐねていた──様子で、呆然と呟く端末。

 俺は、毅然と告げた。

 

「俺への憎しみだけじゃない。探査者としての誇り、勇者としてのプライドもまた、彼の心にはあった。正義も、良心もだ」

「善と悪が、両方ある? そんな、馬鹿な……」

「それが心だ。邪悪であっても善をなすことはあるし、善人であっても悪事をなすことはある。どちらか一方だけだなんて、そんなことはない」

 

 そうだ。俺だって誰にだって、疚しさは心のどこかに必ずある。正しさだって同じことだ。

 目の前のこの存在は、それを分かっていないのだ。だから危険な力を軽々に与えるし、面白半分に人を誑かす。

 

「改めて思うよ、端末。邪悪なる思念は、俺のこの手で倒さなければならない。命と心を踏みつけにするお前を、このままにはしておかない」

「そう思うのはお好きにしたら良いけどね。実際、君じゃ無理だよ。言ったろう? この世界はもう、終末期なんだよ。滅びゆくものをちょっとからかったって、構いやすまい」

「ひっくり返すさ、そんなもの」

 

 そう、必ずひっくり返そう。

 アドミニストレータとして、山形公平として。大ダンジョン時代を生み出したこの、目の前のモノを。

 絶対に捨て置きはしない。

 

「そのために授けられた、俺のスキルだ!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。