攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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一つの呪いが解ける時。ここが彼女のリ・スタート

 開口一番、深々と頭を下げて謝罪してきた青樹さん。倶楽部幹部として囚われていた迷妄から解き放たれ、冷静さを取り戻した香苗さんの師匠としての振る舞いに俺とまた、居住まいを正して応えることにした。

 すなわち一人の探査者、一人の人間として。そして香苗さんに普段からお世話になっている後輩として、彼女に語ったのだ。

 

「謝罪を受け入れます。どうか顔を上げてください、青樹さん……御身体の加減はいかがですか? その、しばらく入院されていたと聞いていましたが」

「はい。お陰様で無事、復調して退院いたしました。これもモンスター体となった私を救い出してくださったあなたのおかげです。本当に、ありがとうございました」

「僕は僕にできる最善を尽くしただけですから、礼には及びませんよ。本当に、無事で良かった」

 

 心からの安堵して述べる。取り調べの際にも元気そうな様子は見ていたものの、やはり実際に直接見て、本人の口から健康無事であることを聞かされるとホッとするよね。

 モンスター体──倶楽部はそう呼んでいたが俺としてはバグモンスターという呼称こそが適切だと思えるソレに成り果てていた彼女を、俺はスキル《風浄祓魔/邪業断滅》によって元の人間体にまでロールバックさせた。

 

 つまりは巻き戻したわけなので、おそらく後遺症とかがあるわけではないだろうと見ていたんだけど、それでも入院していたのでちょっぴり心配ではあったからね。

 なんていうかこれで肩の荷が下りたというか。俺から青樹さんについて一番気にしていた点がここだったので、今回面会させてもらった目的の大部分を果たせた心地さえするよ。

 

 あからさまに安心した俺に微笑みながらも、今度は香苗さんが青樹さんに話しかける。

 柔らかな表情だ……きっと、在りし日の香苗さんもこんなふうに師匠へと語りかけていたんだろう。

 

「青樹さん、最近の調子はいかがですか? といっても拘置所暮らしですから、良いも悪いもないとは思いますが」

「いや……不思議とすこぶる良いよ、香苗。ようやく、悪い夢もあまり見なくなってきた。これだけのことをしでかして、こんなことになってしまってからようやくだなんて、自分でもどうかと思うんだけどね」

「……そんなことありませんよ。少なくとも私は、あなたが苦しまなくなってきていることを今、とても喜ばしく思っています。世間の誰がなんと言おうとも」

 

 悪い夢──おそらくは過去に受けた実験のトラウマを由来とするものだろう。青樹さんは今までずっとそれに苦しめられてきたと、以前にも香苗さんから聞いていたことだ。

 

 人造オペレータ製造実験。そのために使い潰された数千、数万もの孤児達。そして唯一人生き残った、彼女。

 トラウマにもなるし、悪夢だって見るに決まってるよ。あまりに酷く、あまりに悲惨な話だ。

 

 それでも最近はそうした夢を見ることもなくなってきたという彼女の顔は、狂気に染まっていたのを差し引いてもかつてと比べ穏やかでスッキリしている。

 どういった心境からのものなのだろうか? 倶楽部幹部としてのすべてから解放されたことが間違いなく影響しているんだろうけど。

 青樹さんは静かに、けれど晴れやかな顔のまま俺達を見て微笑んだ。

 

「……今まで私は、どうしようもできないことをどうにかしようともがいてきた。過去のトラウマとか、香苗へのコンプレックスとか。それで手を染めたことが倶楽部幹部としての活動なのだから、我ながら救いようがない話だけど」

「…………青樹さん」

「だけど。火野に裏切られ、君達に敗れ、救われ。そして香苗と互いの想いを語り合って。ようやく、自分の中に落とし込めるものがあったんだ」

 

 澄んだ瞳。一拍置いた彼女は、今仰ったようなトラウマやコンプレックスをどこか、吹っ切ったような。

 あるいは丸ごと飲み込んで、受け止めきったような。そんな、大人びた顔をしているように俺には思える。

 

 そう、大人。思えば過去、俺が見てきたこの人の姿はずっと子供めいていた気がする。

 行き場をなくして彷徨い、泣きながら周囲に当たり散らしていた迷子──そんな印象でさえあったのだ。

 

 実験のトラウマで元々依存症になりやすい人だったみたいだから、あるいは精神的には本当に幼稚というか、成熟できていない部分をお持ちなのかもしれない。

 そんな雰囲気が、今目の前の彼女には見られない。酸いも甘いも噛み分けたような、成熟した大人の片鱗を覗かせているのだ。

 

「実験の犠牲となり、私という"真人類"を生み出す礎になった子供達のことを背負う。けれどそのことを理由にして、他者を害して良いはずがなかったんだ」

 

 きっぱりと断言する青樹さん。

 トラウマとコンプレックスを刺激され、いいように操られた末に犯罪者になってしまった彼女が、それさえも経て獲得したもの。

 どんな理由があったとしても、それは罪を犯して良いという理由にはならない──ある種当たり前のそんな答えに、彼女はついに到達したのだった。

 

「あの子達を言いわけにして、誰かに寄りかかったり操ろうとしたり、あまつさえ犯罪に手を染めることなど……してはいけなかった。本当に今さらでもう、手遅れだけど。ようやく今、そのことが分かったよ」

「手遅れなんてことはありません。青樹さん、あなたはやり直せます。きちんと法の裁きを受けて、償いをして、そしてまた探査者として一からやり直せば良いんです。今度は、今度こそ私も手伝いますから」

「微力ながら俺もお手伝いします。気づけた時、改めようと思えたその時がいつだってリスタートの時なんだって信じます。手遅れなんてこと、ないはずですよ」

 

 苦い思いを語る彼女を、俺も香苗さんも心から応援する。

 彼女にどんな沙汰が下るか、それは今後の裁判次第だけれど……課せられた刑罰を果たし通した時。出所して、新たな人生を歩む時には。

 必ず、どんなことがあっても俺達が側にいて彼女の再起を手伝おう。どんな命にも、やり直すチャンスは死ぬまでの間にいくらでもあるはずだって信じたいからね。




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