攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
急に魂だけ呼び出されたシステム領域の最奥で、再び相見えた精霊知能ミュトス。
元は異世界の神の人格部分であり、邪悪なる思念によって食われたいずれかの異世界において偶然生き残りこの世界にやってきた末、ワールドプロセッサに回収されたのが彼女だ。
その後、アドミニストレータ計画の最終決戦において発生した大量のリソース──滅びた三界機構それぞれに加え、俺が分解した邪悪なる思念の端末分──をもって彼女の魂はこの世界の精霊知能へとグレードアップを果たす。
分かたれ、そして今や委員会に利用されるばかりとなった彼女の権能を取り戻すため、そしてこの世界の制御下に置くために改造手術めいた措置を引き受けてくれたのだ。
そうして発生したのが今、目の前でなんかこう三下? チックな言動をしている彼女というわけであった。
何やら笑みを浮かべながら、俺とワールドプロセッサに話しかけてくる。
「い、いやーお二方の話し合いに呼ばれるなんてとっても光栄雨霰なんですけど、それはそれとしてあっしにゃあちょーっとハードルの高い現場と言いますかなんと言いますやら……他に精霊知能の先輩方とかいらっしゃったりしませんでせうか?」
「すみませんが今回は我々三人だけです。リーベやヴァール、シャーリヒッタには後でコマンドプロンプトのほうから説明していただきたいですし、この場にいるべきは呼び出した私と現世におけるシステム領域総責任者の彼。そして当事者たるあなただけで十分ですから」
「どひゃーっ正論ですけど荷が重い! 他ならぬ私の半身のことですから仕方ないですよねそりゃそーだメロンソーダ! 失礼しましたァ!」
ビシーっ! と敬礼し、質問に答えたワールドプロセッサに応えるミュトス。
まあ世界維持機構と因果律管理機構に挟まれて君のこと話ししてるよ! とか言われたらこうもなるよな、どひゃーっ! ってなるよ。
精霊知能三姉妹くらいはいても良かったんじゃ? と思わなくもないけど、そこは指揮系統の都合だろう。
現状、現世におけるシステム領域絡みの話はワールドプロセッサより俺、コマンドプロンプトの意向が優先されるしな。
現世における総責任者ってつまりはそういうことで、だからこそこの手の話し合いにはまず、俺が出向いてそこから部下にあたる三姉妹に通達するって形になる。
そこまでガチガチにこだわる必要あるのか? と思わなくもないけれど……そこはもう、ワールドプロセッサ個人の感性によるものなんだろう。筋が通っている以上、俺からは何を言うつもりもない。
さておき、というわけでこれにてこの場にいるべき三者が揃った。
改めて、ワールドプロセッサが話し始める。
「今回話すべきは前述の通り、ミュトスの投入タイミングについての連絡です。すでに彼女用の受肉体も出来上がっていますので後は頃合いを見て現世に降臨するだけですが、その時期は私の独断で、最善のタイミングを見計らって投入します」
「……? それなら別に明日、適当なタイミングで俺達の目の前に降臨して合流、それで良いんじゃないのか? 特に問題があるとも思えないけど」
「私もそう思っちゃうんですけど……変にもったいぶる必要もないのかなーっとか」
イマイチよく分からないことを言い出した。ミュトスと二人、顔を見合わせる。
ミュトスの受肉はもういつでもできるって言うんなら、なるべく早い段階で現世に降ろしたほうが良いんじゃないの? って思う俺ちゃんだ。
早期降臨によるデメリットが特にあるわけじゃなし、なんなら早めに俺達と合流して現地での流れを打ち合わせたほうが良い気もするしね。
ミュトス当人もそう考えてるっぽいし、だったらそうしたら良いじゃんって思っちゃうよ。
しかしワールドプロセッサは首を横に振った。
真剣な顔をしてつぶやく。
「先んじての投入は、たしかに周囲との連携という意味では良いでしょう。しかし、ことミュトスについてはそうするよりは最高最善のタイミングを見極め投入するべきと私は考えます。彼女が相対すべきは、あくまで彼女の半身たる権能のみなのですから」
「…………なるほど。ギリギリまで温存するべきジョーカーって扱いにしたいんだな、ミュトスを」
「ええ。切るべきタイミングあっての切札なのです。そうでしょう?」
ニコリと笑う、彼女に俺はううむと唸った。性格ゆえかやはり、策謀を巡らしがちなところはあるけど……だからこその説得力だ。ミュトスを見る。
現状、俺とワールドプロセッサと一部の関係者しかその存在を知らないこの子はたしかに俺達にとっての切札、鬼札と言えるだろう。
未だ得体の知れないサークル、そしてダンジョン聖教過激派。社会基盤そのものへと喧嘩を売ってきているような連中が、異世界の権能なんてものを握ってるんだから一体何をしでかしてくるか分からないところはある。
だからこそこちらも、向こうが信じがたい何かをしでかしてきた時用に備える策を温存しておきたいわけだな。
それに何より。
ワールドプロセッサのある種、冷徹でさえある意図を読み取り俺は確認した。
「はっきり言ってミュトス周りの観点で言うと、委員会だのサークルだの過激派だのなんかどうでもいいんだろ? 彼女を権能に宛てがい、倒させて紐づけしてこちらの制御下に置く。それだけが唯一にして最優先の目標ってわけか」
「誤解を恐れず言えばそうなります。現世のことは現世でどうにかするべきですし、そこについてはあなたも同意見のはずです。我々は、時に手を貸しこそすれど当事者であるべきモノではないのですから」
「まあ、そこはね。俺は人間だけど、コマンドプロンプトでもあるから」
頭を掻いて同意する。立場の違いによる優先度の違いってやつだ、こればかりはな。
システム領域としては現世の社会基盤なんて極論、どう転ぼうが知ったこっちゃないってのは本音の一つだろう。我々は人間を気に入っているけど、それそのものではないのだ。
ただ、それはそれとしてこちらの領分を冒している部分については容赦なしだし、現世社会に幾ばくかの助力だってする。
完全なる線引き……人間でもあるがゆえに境界に立つ俺と異なる、100%システム領域側の存在であるワールドプロセッサらしい、きっぱりとした区別からの宣言だった。
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