攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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私が私であるために。彼が彼として歩めるように

 突如権能を発動したセーレ。その対象は言わずもがな瀬川らしく、やつの身体が淡い光に包まれていく。

 どうやら回復か、あるいは逃走のための補助的な使い方をしているようだが……悪いが何もさせる気はない。

 

 軋む内臓を無視して因果を操作する。今度はさっきよりかは負担は少ないが、それでも立て続けだしそろそろまずいかもな。

 だがすでにアンドヴァリを逃がしてしまっている以上、瀬川まで逃がすわけにはいかない。

 意を決して、俺は因果改変を行った。

 

「《悪魔の権能は使えないから》────」

『まって、下さい。お願いします……彼を逃がせられれば、私、は、何でもします。なんでも、話します』

「逃さなくとも同じだ、そもそも話さないなどという選択肢がない。今さらそれが交渉の材料になるとは思わないほうが良いぞ、悪魔セーレ」

 

 悲痛なまでに瀬川を助けることに執心するセーレが、懇願してくる点について多少思うところもなくはないが……それとこれとは完全に話が別だ。

 すでにテロは起きている。サークルとダンジョン聖教過激派は手を組んで式典館の襲撃を画策し、実行に移した。

 挙げ句ウーロゴスを分割して便利遣いするなど、システム領域としても断じて赦すわけにはいかない所業にも手を染めている。

 

 もうアウトなんだよ、悪魔セーレ。

 瀬川聡太もサークルにおける重要人物である以上、逃がす選択肢なんて考えられない。

 ましてや自分の態度をダシに交渉してこられても、そもそもソレが信用ならないからね。悪魔は契約を何より優先するけど、逆に言えばそれ以外のことに誠実である保証もないのだから。

 

 同情など期待しないことだな、と一顧だにせず因果操作を続ける。

 けれど次に告げられたセーレの言葉に、俺は戸惑うことになった。

 

『聞き入れられない場合は……! わ、私は今この場で概念存在としての権能をすべて手放し、即座に消滅します』

「…………なんだと?」

『聡太はあくまでサークルの戦闘隊長、組織そのものの背後関係については知りません。我々概念存在についてもそう、悪魔という存在は把握していても具体的にそれがなんなのか、いかなる存在なのか知る由もない』

「……」

『何も知らない彼を捕えて私を喪うか。私から情報を引き出す代わりに彼を見逃すか……!! 選ぶのはあなたです、シャイニング山形!!』

 

 ……思わぬ提案だ。こいつ、本当になんでここまで瀬川聡太に尽くす?

 権能のすべてを手放して即座に消滅するなんて、口にするだけでもリスキーなのは分かっているだろうに。

 

 あらゆる概念存在の根幹たる権能は、彼らを彼らたらしめる絶対条件の一つと言ってもいい。

 それゆえに権能を手放すということはその存在を否定することも同義であり、文字通り概念的な存在であるモノ達にとっては自己否定、自己消滅を選択するにも等しい威力があるのだ。

 

 倶楽部の幹部、鬼島の例を思い出す。

 あいつは俺と妖怪達の間に結ばれた誓い、すなわち"妖怪は今後、探査者に関係するあらゆる物事に介入、干渉しないことを誓う"という約束を破ったことで権能を失い人間同然に成り果てた。

 本来ならばあれだって、その場で消滅していてもおかしくなかったんだ。だのに今も人間として残り警察に逮捕されたのは、単純にあいつが消滅を拒んだってのとたまたま受肉していたってだけのことでしかない。

 

 翻ってセーレを見る。こいつの場合は赤鬼とはわけが違う、なんせ自分から権能をすべて手放すからな。しかも受肉してないから、人間同然になるとかって話にもならない。

 精神体の見かけだけは人間同様にしているみたいだけど、それでも本質的にはこいつは未だ現世に実体化しているわけじゃない。完全に素のままの概念存在、悪魔セーレとして降臨しているんだね。

 

 こんな状態でこいつが本気で権能を手放せば、それは存在そのものの消滅をも意味する。

 現世ばかりか概念領域からも消えてなくなるのだ……"悪魔セーレ"という情報そのものは残るからまた復活するだろうけど、その時に現れるモノは今ここにいるこいつとは別のモノだ。

 当然サークルやらダンジョン聖教過激派やらのことなんて知る由もない、瀬川のことだって知らない別のセーレとして復活するんだな。

 

 瀬川があまり、組織の実情に詳しくないって話を鵜呑みにするのならこれはたしかに、天秤を揺らすだけのインパクトはある。

 にしても普通するか、こんな交渉。契約しただけの人間一人を逃がすために、他ならぬ自分自身のすべての存在を賭けるだなんて。

 

『お願いいたします、私の知っている限りのことを話すことを誓います。彼を、聡太を今この時ばかりは逃がしてあげてくださいませ……!!』

「…………そこまで契約者に尽くす意味はなんだ。理解しかねるぞ、さすがに」

『私が私であるがゆえに……"悪魔セーレは、契約者に優しい悪魔なのです"』

 

 薄く笑みさえ滲ませてセーレが答える。腹を括った眼差しだ、本気の瞳だった。

 本当に手放すことさえ厭わないだろう、この様子だと。瀬川とセーレと、ここに来て見事に交渉を持ちかけられたな。

 

 逡巡を少し、してから。

 ────俺は因果操作を取り止め、代わりにセーレに持ちかけた。

 

「《サークルとダンジョン聖教過激派、委員会について聞かれた時、答えられることなら必ず嘘偽りなく答える》。誓ってくれ、それで俺も《この場における瀬川聡太は見逃す》ことを誓おう」

『……! ありがとうございます、謹んで誓います!』

「ただし次は逃さないからな。もうお前が与えたバリアのことだって分かってるんだ、そうなったら対策のしようなんていくらでもあるって分かってるよな?」

『はい。でも良いんです、少しの間だけでも……彼が、彼の道を歩めるなら……!!』

 

 《サークルとダンジョン聖教過激派、委員会について洗い浚い話す》のほうが良いかな?

 なんてことも一瞬考えたんだけど、その場合こいつが握っている情報量によっては今、特に必要もない細かい部分のことまで一息にペラペラ話させることになりかねないんだよなあ。

 

 そうなると纏めるのに手間がかかるかも知れないので、後で質疑応答形式で時間を取って、聞きたいことを必要な時に聞けるように表現を調整して誓いを持ちかける。

 言うまでもなく、一方的な条件なんだが……心底からの安堵を浮かべ、セーレは率先して俺との誓いを結んだ。

 

 そして慈愛に満ちた表情を、瀬川へと向ける。

 どうにも理解できない、妙な温度に満ちた微笑みだった。




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