攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
先に動いたのはサークル側、それも副幹事長たる海方陸だった。手にした二丁拳銃型AMWマキシムとミレニアムを両手に握り、天高くに掲げたのだ。
そこに宿る莫大なエネルギー。マキシムとミレニアムにはすでにスキルが込められているのだろう。
たしか、《氷魔法》。あの二丁拳銃に組み込まれたスキルブーストジェネレータが増幅するスキルはそれだったはずだ。
それを天に向けた……何をする気だ? こちら側もいよいよ包囲網を狭める中、やつはそして叫んだ。
「勝ち目はないが負けないようには動けるものさ。フッ、頼むぜマキシム、ミレニアム──氷獄世界!!」
何も無い蒼穹に向け放つ二発の銃弾。増幅されたスキルを込められているのだろう異様なエネルギーを感じさせる、青色のビームが二柱立つ。
──瞬間、世界が氷色に染まった。天高くにまで届いたビームが拡散して一瞬で周囲を凍らせたのだ。
空も、湖も大地もまるで凍土さながらに凍てつき、気温もまだまだ残暑残る秋とも思えないほどにぐんと下がっていった。
発動から実際に影響が及ぶまでが早すぎる。いくらなんでもおかしいだろと思っていると、すでに鎖を腕に発現させているヴァールが苦々しい面持ちで叫んだ。
「早すぎる……! ものの数秒で一面銀世界に変えるなど!」
「おそらくは自分達に有利なフィールドを整えたんだろうけど、効き目が良すぎるな。第七次モンスターハザードの時もこうだったのか?」
「いいや、ここまででは断じてなかった。エミールをも超える速度、考えられるのはAMWの性能が向上したか、海方陸の力がエミールを上回っているか、あるいは」
「悪魔の権能による強化ってとこか」
噂のAMW試作機、マキシムとミレニアム。単純に古いからと性能の良し悪しを測るべきではないのだけど、それにしたって威力がぶっ飛びすぎている。
葵さんのフーロイータよりはるかに出力が高いのはさすがにおかしいだろうと思っていたら、ヴァール曰く25年前の第七次モンスターハザードでもここまでではなかったとのこと。
つまりは後から改良を加えたのか、もしくは海方の実力が高いか、あるいは宿る悪魔の力によるものか。
いずれにせよ周囲はすっかり氷の風景。足元も滑りやすくなっていて、気温も氷点下を割っていると見た。
先手を取られたな……だが。
自分達にとって有利なフィールドというのはともかく、これしきで俺達にとって不利な場を整えたと思うのはさすがに甘いかもな、海方陸。
「うおっ、滑る!?」
「怯むな! このくらいならなんとでもなる、やつらを捕まえろ!!」
「今のが話に聞くAMWか! あれを取り上げろ、それで大体決着がつく!」
「ちょっと凍るくらいで探査者が止まるか! 舐めるな、サークルっ!!」
何から何まで凍った世界に、それでも探査者達は戦意を削がれることなくサークルへと吼える。
当たり前だ、多少環境が厳しいものになったとてダンジョンに比べればこんなものはなんでもないんだからな。
土塊の狭い道と暗い部屋、そしてそこにいるモンスター。俺達探査者の仕事場とも言えるダンジョンは、常に死の危険と隣合わせの危険な領域だ。
場合によってはダンジョン周辺の地形情報を読み取って余計に過酷な構造になったりする場所を、俺達は日常的に探査して踏破して攻略しているんだ。
だから、このくらいの変化なんてものともしない。
気炎を上げて探査者達が突撃するのに対して、サークル三幹部はそれぞれの反応を見せていた。
「ふふふははははっ! そうともそうでなくてはなぁっ! 仮にも世界を100年もストップさせてきたお前達だ、そうでなくてはならんのだッ!!」
「スレイブモンスターを放て! 狙撃はできる限り急所を狙え、どうせ探査者だ死なん! ……殺したところで構わんがな」
「うっしゃあ! 決戦じゃ、頼むぜ悪魔さんよっ!!」
豪快に笑う藤近と、落ち着いて指示を出す海方。そしてそれに呼応してアパート周辺にワームホールが開かれて、そこから大量のスレイブモンスターが次々と飛び出してくる。
悪魔の権能か……いくつか気配はするが、やはりスレイブモンスターは別のところに待機させていたんだな!
倶楽部の時と違い、敵が多い上に権能持ちが普通にいることから奇襲を受けやすい状況なのはちょっとまずいな。
出てくるスレイブモンスターが包囲網を、まるで突破するかのように突っ込んでいってこちらの探査者達と戦闘状態に入る。
「くごがああああああっ!!」
「モンスター!? どっから出た、いやどうでもいい!」
「スレイブモンスターってやつか! まとめて蹴散らしてやれ!!」
「ウオオオオオオオオオオオオッ!!」
「さて、どうするか……」
ぶつかり合う探査者とモンスター。認定式の日以来の、現世における大乱戦だ。
一瞬、認定式の時のように俺がスレイブモンスターだけを相手するかとも考えたけど、それはちょっとだけ待っておいたほうが良さそうだな。
──サークルの藤近と瀬川が、あからさまにこっちをガン見しているからだ。
藤近は面白がっているようで好奇が勝っている目だが、瀬川は駄目だな。殺意と憎悪に塗れている。
やる気か、こいつら。
近くのシャーリヒッタや香苗さん達もスレイブモンスター相手に戦闘を開始する中、俺はじっとやつら二人を見据える。
「功さん、陸さん! 僕は行きますよ、狙いはシャイニング山形ですっ!」
「件の子供かっ! 俺も行くぞ聡太、救世主とやらの志はこの目で見極めたいからなっ!!」
「来るか、藤近功と瀬川聡太……良いな、セーレ?」
『構いません。私はもう、彼を見届けるのみ』
大剣を構える藤近、大鋏を両手で持つ瀬川。いずれも狙いはひとまず俺らしい。だったら相手させてもらおうか、特に藤近功。
一応セーレに声をかければ、静かな声が返ってくる。土壇場で裏切るようなら容赦しないが、今はその言、信じさせてもらおう。
スレイブモンスターと探査者達の乱戦の中、俺は歩きだす。藤近と瀬川も、周囲を避けるように気をつけながら近づいてくる。
見極めるのはこちらのセリフだ、藤近功。お前の腹の中、なぜそんなにもソフィアさんやヴァールを否定するのか……直接たしかめさせてもらおうか。
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