攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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もはやどっちがボスキャラか分からん光景

 俺の背中、腰部を貫く衝撃。突如背後に現れた概念存在、悪魔アドラメレクによる一撃だ。

 藤近が呼べば来るのか、それにこの感触は……他の悪魔どもと異なりこいつ、受肉しているな。

 

 たしかな物質的感覚とともに襲うその威力は、今しがたの藤近の一撃とは比べ物にならない。さすが元太陽神ってところか、リンちゃんの星界拳並の衝撃だ。

 つまり防御を貫くには至ってないってことだな。俺はすぐさま、手刀を作っていた空の手を後ろに回した。

 

「……実のところな、お前を待っていたんだよアドラメレク。サークル壊滅の瀬戸際ともなればさすがに出てくるだろうとは思っていたんだ、委員会の悪魔」

「…………怖いねえ。私の奇襲もどこ吹く風って感じだねえ」

「S級探査者クラスにはこのくらいの攻撃を、牽制程度に放ってくる人達もいるからな。お前は、自分がS級探査者に匹敵するとでも思っているのか?」

「さすがに思わんけどねえ、こりゃ……桁が違うねえ……!!」

 

 衝撃はしっかり受けるがそれだけだ。まるで痛いことも何もありゃしない。

 夏休み中、リンちゃんとの模擬試合で受けた星界拳の連打のほうがまだ威力があったくらいだ。

 

 逆に言えば敵対している悪魔の奇襲さえ及ばないような威力をもって、俺の防御をぶち抜こうとしていたリンちゃんマジヤバイっすね怖ぁ……って感じなんだけど。

 まあつまりはそういうことで、彼女でさえ俺に痛みを与えられなかった以上、アドラメレクのこれしきの攻撃なんてまさしく微風同然ってわけだね。

 

 後ろ手に掴んだ、俺の腰部を打った腕を捕らえる。やはり受肉している感覚にふむと思いながらも、その腕を引っ張って強引に俺の前面に来るよう振り回す。

 姿を見せろ、委員会の悪魔。サークルを誑かし、他の悪魔をも巻き込み事態をここまで大きくした、張本人!

 

「────っ。山形、公平」

「はじめまして悪魔アドラメレク。主にセーレからいろいろ聞いているよ、お前だけは委員会の所属なんだってな」

「そう、だねえ。いかにも私が悪魔アドラメレクだねえ。セーレちゃん、元気にしてるみたいだねえ」

『……お久しぶりです、アドラメレク』

 

 俺の視界に入ったそのモノは、一言で言えばくたびれたオジサンの姿をしている。

 オールバックの黒髪にスーツ姿の、40代半ばくらいの男性だ。ただ顔はどうも疲労感が漂っていてダンディには程遠いのだが、これはアバターの造形によるものかはたまた、アドラメレク自身の精神的な部分でのものなのか。

 

 それはどちらでも良いが、俺の傍に透明のまま控えるセーレがアドラメレクに反応した。気まずそうに声をかけ、挨拶したのだ。

 なんか場にそぐわない呑気さだけど、それを言ったら今の俺の体勢からしてかなり変だしなあ。おっさん二人を両手それぞれに掴んで持ち上げてるんだから、傍から見ればずいぶん変な光景だろう。

 実際、あちらこちらからちょっと空いた隙にこちらを見た人達からの声がちょっぴり聞こえてくるし。

 

 

「なんだ? シャイニング山形……藤近ともう一人、おっさんを持ち上げてるぞ」

「怪力だな……ていうかどっから湧いたのあのオッサン。あれもサークル関係者か?」

「片手で藤近ごと持ち上げてるあの剣、AMWだよな。見た目は面白いけどあそこまで普通に無力化できるものなのか?」

「ていうか単純に絵面が面白すぎるんですけど」

 

 

「サークル幹事長と、あれは……悪魔か! どうあれ厄介な連中を神奈川ともども抑えていてくれているのだ、我々はその隙に攻め込むぞっ!!」

「っしゃあっ!! 千尋に負けてらんないわよランレイ、私らはあのいけ好かないガンマン気取りを叩くわっ!!」

「応ッ!! 氷世界を作り出す異能、我が斬撃脚が打ち砕くっ!!」

「ああっ我が救世主様のなんと荘厳かつ偉大なる姿っ!! メモも取れませんがせめて網膜にこの光景を焼き付けつつ、私は私の使命を果たしますっ!! 彩雲三稜鏡、敵の攻撃をすべて受け止めなさいっ!!」

 

 

 うーん目立ちすぎ。怖ぁ……特に最後の伝道師さん、こんな面白トライアングル網膜に焼き付けなくて良いから。

 周囲はずいぶんスレイブモンスターも片付けていて、そのそろ本丸のアパートにまで攻め込みそうって塩梅だ。

 

 敵方の指揮を取っているらしい二丁拳銃の副幹事長、海方陸はこちらを気にしつつも周囲の探査者に氷の銃弾を撃ち込むのに手一杯って感じだ。

 神奈川さんが受け持っている瀬川も併せ、いずれは押し切れるだろう。事態は概ね、こちらの優勢と言えた。

 俺もそろそろ決着と行くかね。

 

「さて。藤近、アドラメレク。お前らにはしばらく眠っていてもらおう。次に目が覚めた時にはきっと、すべてが終わっているだろうからよろしく」

「くっ!? どうにかならんのか、アドラメレクッ!」

「力の差がありすぎるねえ……! まあやってみるけど、《我が命により従え、山形公平》!」

 

 これまでに相手した悪魔達同様、ワームホールを通じてデータ領域に送れれば良かったんだけどそうはいかない。

 元より人間の藤近に、今は受肉しているアドラメレク。現世に確固たる肉体を持って存在しているこの二人をあの空間に送ったら、その時点で魂や肉体に重大なエラーが起きて破損しかねない。精神体だけならなんとでもなったんだけどね。

 

 仕方ないから魂に威圧をかけて眠ってもらおうかなとした矢先、藤近に願われてアドラメレクが権能を行使した。

 この手のやつにありがちな、いわゆる洗脳かな。魂の格からして俺には通用しないんだけど、まあ一応きっちり対策させてもらおうか。

 今のに限らず、アドラメレクが用いるすべての権能を一時封印する。

 

「《俺が権能を封じているから、アドラメレクは権能を使えない》……無駄だ、権能を封じた。もうお前はただの人間とそう変わらん」

「…………!?」

 

 使うはずだった力、通じるはずだった権能。

 その一切を封じられたことを実感として受け取ったのだろう。アドラメレクの表情は今度こそ、底のない諦念と恐怖に彩られていた。




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