攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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おおっと!落としワームホールだ!

 権能を封じ込め、アドラメレクを只人にまで落とし込む。悪魔の場合、単なる殺傷力とか以前に今みたいな洗脳だのワームホールだの搦手も使ってくるからね。

 そういうのごと、まとめて封じ込めたのだ……使おうとしていた能力を妨げられたのを感じ取ったのだろう。露骨にアドラメレクの顔色が変わった。

 

「こ……これは」

「なんだ!? どうしたアドラメレク!」

「……権能の完全封印。仮にもかつては太陽を司る神だった私相手に、ここまでできちゃうもんなんだねえ。シャイニング山形、君は一体何者なんだねえ……!」

「探査者。それ以上に答える必要はないだろう? ──《清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師》。そら、入っとけ二人とも」

「ぐおっ!?」

 

 戦慄を隠そうとする余裕すら失った中年男のアバター。慌てている藤近は事態が把握しきれていないのか、見るからに不思議そうな表情をしている。

 まあ、どうあれこれでこいつらを逃がすことはないのは確定した。サークルはこれで概ね壊滅だろうさ。

 

 いつまでもこうして男二人を持ち上げているのもちょっとおかしな話だし、ここらで簡易的な檻に突っ込んでおくとしようか。

 俺は結界スキルを使用した。《清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師》。この二人が身動きできないサイズの、目に見えない封印結界を張ったのだ。

 

「ぐっ!? この、くそうっ……馬鹿な、動けないっ!?」

「功くん、こりゃ無理だねえ。完全に力を奪われた上、こいつは概念存在でもどうにもできんレベルの結界だ。どうしようもないねえ」

 

 そして地上に下ろせば、何かしらの檻に囚われたのを悟ってか藤近がもがこうとするも無駄だ。アドラメレクの権能を封じ込めた以上、この場にそれをどうにかできるモノはいない。

 追加で悪魔が来たとて同じことだ。アドラメレクほど確保する必要性がないから今度はアバターを破壊することになる。

 

 つまりはこの二人はもう詰んだのだ……この後、事態がどう転ぼうが俺は結界スキルだけは何があろうと解除しない。

 アドラメレクの権能を封じる権能を、発動させつつのスキル使用なので相応に負担はある。だからさすがに他のスキルも出力が落ちるし因果操作も行えないけど、それだけの値打ちはあるのだ、こいつらの捕縛には。

 事実上、サークルが崩壊するか否かって話なわけだからね。

 

「無駄な抵抗はやめろ。お前達はもう捕まったんだ、後は法の裁きを受けるのを待つと良い……なんなら今いるサークルの連中にも、降伏を呼びかけてくれると助かる」

「……参ったねえ、負けたねえ。どうするね、功くん。私としては、さすがにこりゃもう詰みだと思うんだけどねえ。あーあ、君の野望もここまでだねえ」

「…………」

 

 俺の呼びかけに、アドラメレクは意外なほどあっさりと白旗を揚げている。潔いと言えば潔いんだが、こいつ……

 セーレ達の話によれば5年前、犯罪と無縁だったサークルに委員会の傘下となることを持ちかけ、いらないことを散々に吹き込んで焚き付けたのがこの悪魔のはずだ。

 

 つまりサークル周りにおける元凶がこのアドラメレクだってのに、こいつからはまるで他人事って感じを受ける。いや、事実他人事なんだろう。そんな気がした。

 考えてみてもこいつ自身に失うものはないからな。精々が委員会内での立場とか面子とかだろうけど、アバターである以上こいつの本体は依然健在だ。

 

 結局サークルを焚き付けた末の結果としては、唆されてテロリズムに走った数多の人間達とその被害者、そして何食わぬ顔で傍観者みたいな顔をしているこのアドラメレクだけという構図になる。

 ……いっそ本体の元まで出向いてやろうかとも思ったけど、そこまでやると他の、事態を静観している概念存在がどう動くかも知れない。

 

 これ以上、概念存在に現世を荒らされたくない俺としてはそれは避けたいところだ。

 質の悪い。これぞまさしく悪魔って感じの嫌な悪辣さに不快感を覚えていると、不意に藤近が笑い出した。

 静かな、それでいてどこか吹っ切れた様子の笑みだった。

 

「…………ふっ、ふふふ。そうだな、詰みか。少なくとも俺はもう駄目そうだな、まるで身動きも取れん」

「……無駄な抵抗はするなよ、藤近功」

「心配性なやつだな、そんなに力があるのに! だが安心しろ、俺はもう何もしない、できない! 負けだ! サークルは今日をもって壊滅するだろうさ!! ふっはははははは、見事なまでに完全敗北だ、ふはははははっ!!」

 

 なんだ、こいつ?

 やけに爽やかに笑う藤近に、不気味なものを覚える。負けはしたけど清々しいと言わんばかりの様子は、テロリストでなければあっぱれなんだけど。

 

 まだ何かありそうだと周囲を見回す。スレイブモンスター達もひとしきり倒し終えて、すでに何人もの探査者達が施設に直接攻撃を仕掛けている。

 海方の姿は見えない……いつの間に? 施設内に立てこもったのか、はたまた逃げたのか。凍てついたここら一帯の景色も、徐々に暑さで溶けていっている。

 

『千尋! 聖剣、最大解放っ!!』

「ぐうっ……!! 瀬川ァッ!! てめえの身体はともかく、てめぇの武器にゃバリアなんざねぇよなあッ!!」

「お前ごときに壊せるルートディバイダーじゃないっ!! ──キリングシザース・ブラッディパレードッ!!」

「壊せるさ、俺とステラなら……必殺! パス・オブ・ヘヴンッ!!」

 

 神奈川さんとステラ、そして対する瀬川も大詰めみたいだ。やつのバリアそのものは突破できなくても、やつの持つ武器なら破壊できるだろうと執拗に神奈川さんがルートディバイダーへと攻撃を仕掛けている。

 対する瀬川も、大きな鋏を器用に振るって聖剣と渡り合っている。大した才能だ、サークルなんかで振るわれたのが本当に惜しまれるほどに。

 

 そして二人の必殺技がぶつかり合う、激しい火花を散らす鍔迫り合いの中。

 ────俺は、藤近のつぶやきを聞き漏らさなかった。

 

「ま、ここまであの聖女殿は読んでいたのかも知れんがな。シャイニング山形」

「何?」

「アドラメレクの封印に俺達の拘束。そこまでリソースを割いてたら、多少は消耗してるだろう? ふははは──あの性格極悪聖女はな、ハナからそれか狙いだったみたいだぞ!!」

「……アンドヴァリ、っ!?」

 

 ここにいないはずの、聖女のことを口走る。

 一体何を、と考える間もなく……突然、俺の足下にワームホールが発生した!




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