攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
「ずいぶんと馬鹿にしてくれますねえ、シャイニング山形……この世界を好き放題にしているソフィア・チェーホワの飼い犬風情が、よくまあそこまで自分達を棚に上げられたものです」
俺からの憐れみを受けて、コケにされたと思ったのだろうアンドヴァリが怒りの笑みを浮かべている。笑ってるんだけど目はまったく笑ってない、怖い笑顔だ。
いつもなら怖ぁ……とか言っちゃうんだけどね。悪いが一つも怖くないし、やはり可哀想な人だと思ってしまうよ。
なんで概念存在になりたいと思ったのか。その理由はわからないし、願い自体を否定する気もない。
人でないモノ、人を超えるナニカになりたいと思うのは別に悪いことでもなければ不自然なことでもない。特別なナニカになりたいって、別に普通のことだと思うからね。
ただ、やり方は致命的に間違ってしまっていたとは思う。
人の身で神の力、権能を取り込んだとて、それがそのまま概念存在に成り上がれるなんてことになるわけもないだろうに。
憐れなアンドヴァリに、沈痛な面持ちで告げる。
「ただ力を手にしただけでは概念存在とは呼ばない。彼らの本質は"巣立ちを見守る"ことにある。そのために彼らはいるんだ、自覚的にしろ無自覚的にしろ」
「巣立ち? ……アドラメレクがそんなことを度々言ってますが何の話をしているのですか、くだらない」
「その本質がゆえに彼らは権能と、裏腹に現世のイメージで存在を左右される不安定性を持たされた。畏敬されるための力と、現世に寄り添うための柔軟性を与えられたんだ」
「ふっ、ふふ……よくできた妄想ですねえ。それは一体どこのネット小説投稿サイトで読めるんですか?」
語る俺に、嘲りを向けてくるアンドヴァリ。怒りを押し殺しつつも侮蔑と冷笑で攻撃せんとする姿は、けれど一筋垂らした汗がいろいろと内心を物語っている気がするな。
俺という存在の異質さというか不気味さを、倶楽部幹部から耳にしているからこそこいつは俺を無視できないんだ。馬鹿馬鹿しいと思いつつ、けれど目を逸らせない。
WSO統括理事たるソフィアさんが大ダンジョン時代の黒幕であり、世界の支配者であると……今しがたの発言からアンドヴァリの今のこの時代に対する認識はなんとなく透けて見える。
さぞかしソフィアさんのことが憎たらしいんだろうし不気味なんだろう。ゆえに彼女に近しい俺も同じように見えているってところか。
きっと今は何を言っても信じてはくれないだろうけど、それでも俺は真実の断片を続けて語ることに決めた。
もしかしたらもう、手遅れかもしれないけれど。これから先についてはいくらでも身の振りようはあるんだ。
今すぐ改心するとはいかないだろうが、いつかどこかで迷うタイミングにでも……今ここで話す内容がこの人の道標になってくれることを、ただ祈るよ。
そうなる前に、どうにかしてこのモノを助けてあげられたらいいんだけど、ね。
「……つまるところ、概念存在になるために必要なのは権能だけじゃない、存在の不安定性も関わる。本来なら、現世存在としての安定性を放棄してからでないといけなかったんだ」
「ほう? それで、それで?」
「けれどそれは、人としての死を迎えることと同義。今を生きているお前では決して満たすことはできない……いつだってそうだ。英雄や神話上の人間は、死んで初めて神になる。人が概念存在に至るプロセスには、死と再生が不可欠なんだよ」
通常、人が概念存在、とりわけ神になるためにはいくつかの手順を辿る必要がある。
生前に一定以上の知名度や不特定多数のイメージを得た上で死後、さらにそこから現世存在からの畏敬を受けて権能を授からなければならないのだ。
神社とかでたまに見かける、歴史上の実在の人物を神として祀っているところがそうだね。
ようは信仰あってこその神ってわけだ。これは悪魔とか妖怪も似たようなもんで、人からそっち側に変生する場合には必ず死を介さねばならない。
だが、アンドヴァリはそのプロセスを完全にすっ飛ばして概念存在になろうとした。
本来この世にあるはずのない、"保持者不在の権能"なんてものを手にしたばかりに誤解したのだろう。それを取り込めば生きたまま概念存在になれると思ってしまったんだな。
──結果、この女は人間のまま人間でないモノへと変わった。概念存在と呼ぶには程遠い、他者の権能を使えるだけの化物に成り下がってしまった。
ヨモツヘグイ……だったかな。死者の国の食べ物を口にしたら、二度と現世に戻れなくなる神話によく似ている。
彼女は生きながらにして、概念存在の領分に身を沈めたんだね。
「あんたは、生きたまま権能を取り込んだ。安定性を保ったまま概念存在の領域に入り込んだんだ。その代償を、何も考えないままに」
「よく分かりませんねえ。つまりはそれが神なのでは? 私は神になったんですよ」
「違うよ……違うんだ。引き返すことも進むこともできない、進化の袋小路に陥っただけだ。あんたはもう、生きてもいないし死んでもいない。永遠に彷徨い続けるだけの、亡者となったに過ぎないんだよ、アンドヴァリ……」
不老不死に、神の権能。人ならば一度ならず羨むかもしれないそうした力を、生きたまま手に入れた。
なるほど、それはたしかに神になったように思えるかもしれない。でも実際はそんな都合の良いものじゃなく、単に消えることも死ぬことも、生まれ変わることさえもできなくなっただけだ。
権能にしたってそもそもがミュトスの権能を細かく分断したものの一部なんだから、一般的な概念存在に比べてもあまりに弱々しい。
なのにこのモノにはもう、これ以降何も起こらないのだ。いかなる成長も変化も起きず、ただ存在し続けるだけとなった。
こうなってしまった以上、彼女の魂はどこにも行けない。年も取れず、死ぬこともできず。仮に肉体を失っても永遠に精神体となったまま、現世をうろつくだけの存在。
国が滅んでも。人が死に絶えても。星が終わっても……宇宙が消え果て、現世が消滅し概念領域がその役割を終えた後でも、なお。
「あんたは、永遠に存在し続けるだけのモノになってしまった。この世のすべてが消えて果てても、あんただけは今のままだと終わることができない。何があろうと、ゴールに辿り着くことは絶対にできないんだ……!」
──永久に、形ない牢獄に囚われてしまったモノ。
それが、今のアンドヴァリの正体だ。
知らないこととはいえ、悪事に手を染めたとはいえ、あまりに惨い話だ。敵だとか犯罪者だとか関係なく、ただ、目の前のモノを想って涙を零す。
アンドヴァリが至ってしまった末路に、俺はどうしても哀しみを漏らさずにはいられなかった。
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