攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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命がけの探査の報酬、高いと見るか安いと見るか

 大ダンジョン時代とは畢竟、ソフィア・チェーホワによる独裁的な時代である── 

 こうした言説は、実のところかなり昔から大なり小なり言われてきたある種の常套句であるらしい。本屋とか一部新聞とかでも時折、ソフィアさんへの批判めいた言説や書籍は見かけなくもない。

 

 100年近くもの間、容姿を変えることなく常にWSO統括理事として世界を牽引してきた永遠の探査者少女。

 その真意は常に己の使命、すなわちアドミニストレータ計画実行のための下準備というのがあったわけだけど、それを知らない現世からすれば得体の知れない存在として見られるのは正直、当然のことではあるのだろう。

 

 サークル幹事長たる藤近が、委員会の支援を受けてまでテロに走った理由もそこにあった。現行のチェーホワ体制を打破する、自分達がその先駆けとなる。

 後に意志を受け継ぐ者達が現れることを期待して、勝てないと分かっていてもそれでも戦いを挑んだ……と。

 そういうことなのだろう。

 

「過去、幾度となくいた手合いということだな。その主張を否定はしないが、だからと言って犯罪に走って良いことには決してならない。どうもそこを履き違える輩が多いな、まったく」

「第二次モンスターハザードの時とか、第三次モンスターハザードの時と似たタイプですね……あの時のあの連中も、何やらそんな理屈を捏ねて北欧や日本を荒らしてましたけど」

「結果としてなんの関係もない人々に多数、犠牲が出ている。過去の連中にも、世界を糺すためには仕方ないと言ってしまう者達が多かったが、藤近はじめサークルもそのタイプなのだろうさ」

 

 藤近の動機部分で批判を受ける形になった当の本人、ヴァールは無表情のままぼやいた。エリスさんからの言葉にも特に感情を見せることなく、淡々とした反応だ。

 幾度となくいた手合い。そう言えてしまえるほどに過去、似たような者達がいて似たような行為に手を染めてきたのだろう。

 

 真実を語るならば、ソフィアさんもヴァールもただひたすらに世界を護るためにすべてを懸けてきた存在だ。そこを疑う余地はないんだけれど……

 そんなことを知る由もない者達からすれば、独裁者の行いと見られても仕方ないとは思うからね。

 

 俺としても、主張や思想そのものを否定したりするつもりはない。ただ、それでもテロリズムや平和を破壊する行為は断固として認めたくないって想いがあるだけだ。

 どんな場合であれ、そうした行為に手を出した時点でそれは加害なんだ。いつだってどこでだって脅かされる無辜の人々がいる限り、それだけは変えることのできない事実だった。

 

「なぜこのような動機を持つに至ったか。そこには藤近自身の、政治的な思想が関係しているようです。来歴部分を記載しておりますのでそちらをご覧ください」

「来歴……ですか? やつの政治的な思想面が、サークルの活動とリンクしていると?」

「ええ。平たく言えば、藤近は探査者フリークとしてカレッジサーチャーズで活動する傍ら、非探査者の権利向上を訴える市民活動にも参加していました」

 

 島根室長の説明を受けつつ、ページを捲って藤近のパーソナルをまとめた部分に目を通す。

 案の定、あの男もかつてはカレチャにいたのか。探査者ファンやマニアが多く集う探査者同好会に参加していたってことでそれなりに探査者には好印象だったのだろうけど、反面、非探査者の権利についての活動にも加わっていたのだという。

 

 結構、社会的な見方から探査者と非探査者を見ているんだな……大ダンジョン時代において、その両者の関係性や社会的立場の差異、扱われ方は常に議論が尽きない分野だ。

 シャルロットさんを皮切りに、神谷さん、愛知さんが続けて資料を読み上げた。

 

「来歴、このページですね? ──"藤近功、31歳。学生時代にカレッジサーチャーズ本部の役員を務めている。そして卒業後にサークルに加入、その3年後には幹事長に就任"」

「"大学時代は社会学を専攻。主に大ダンジョン時代社会における探査者と非探査者の相違、格差について研究"。ふむ……」

「"国会における国内探査者の就労に関する法律の改正案提出を巡っては、非探査者の機会損失につながるとしてデモに参加。探査者はダンジョンへ、というスローガンを掲げて行進していた"、と。なるほど。ここですね、核心は」

「ええ。藤近の関心は常に探査者と非探査者の社会的格差にありました。大ダンジョン時代の社会構造の打破というサークルの目的も、突き詰めればそれを通して非探査者の地位を向上させたかったのです」

 

 カレチャに在籍し、探査者を愛好しながらもその裏では非探査者の権利向上を掲げて市民活動に参加していたという過去。

 それそのものはなんら問題のないものだが……サークルの現状を考えると、そうした活動や思想が委員会の介入を経て暴走したのだというのは容易に想像がつく。

 

 非探査者の権利向上、なんてのは一部でちょくちょく言われてるけど、実のところそこまで蔑ろにされているわけでももちろんない。

 探査者は基本的にダンジョン探査をするべしって法律で決められてるしね。その力はあくまでモンスターから人の世を守るためのものであり、他のことに使うことはほとんどの場合、厳しく制限されているのだ。

 

 その分、ダンジョン探査の報酬が高額だったり社会的な扱いも特殊なものだったりするので、そこが藤近のような考え方の人達としては贔屓に映るのかもしれない。

 以前、アンジェさん達とサークルの拠点を捜査するなかで遭遇した構成員達を思い返す。老若男女問わずいろいろいたけど、少なくない数の者達が武器を振るいつつも叫んでいたな──

 

 

『探査者ばかり良い目をしてズルい!!』

 

 

 ──ってな感じのことを。

 つまるところ、サークルの本質は探査者への嫉妬。そして非探査者達の視点から見た時の大ダンジョン時代への疑問と反感が根っこにあるのかもしれなかった。




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