攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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誰かに手を差し伸べられる甘さ。人それを優しさと呼ぶ

 話し合いも終わった後、一部人員だけ島根さんに案内されての防音室へと移る。

 俺、リーベ、ヴァール。エリスさん、神谷さん、そしてシャルロットさんの六人だ。歴代聖女の御三方はなんだなんだと訝しみつつもこちらを見てきている。

 

 特にシャルロットさんだね。どこか覚悟を決めた面持ちで、ヴァールを見つめている。

 たぶん、認定式から始まりこれまでにいろいろ勝手に動き回ってきたことを咎められると思っているんだろう。事情を知った今なら理解できるけど、当時はなんでそこまでして……? って、俺だって不思議に思っていたものなあ。

 

 いくらかの逡巡の後、意を決したか彼女から口火を切る。

 エリスさんと神谷さんが不安げに見守る中、当代聖女とWSO統括理事の話し合いが始まったのだ。

 

「それで、一体どのようなご用件でしょうか統括理事。私についてのことと仰いましたが、これまでの振る舞いの落とし前についてでしたら正式な外交ルートに沿って謝罪と賠償を──」

「いや、そんなことではない。というか君のこれまでについてを問題にしているのは日本政府のほうであってWSOはそこに関与する気もない」

「では、統括理事個人による抗議ということですか?」

「それこそまさか。ワタシ個人としても、君の事情については理解しているつもりだ。気にしていないから心配しないでくれ」

 

 やはり気にしていたシャルロットさんに対して、柔らかな声色で答えるヴァール。

 WSO統括理事としても彼女個人としても、シャルロットさんの日本国内での行動については関与しないというのをここで明言したか。

 

 まあ、ぶっちゃけ普通に無関係だしなあ。

 一番問題になっているだろう認定式まわりでの独断行動については、密約なんて交わした日本政府との話であってWSOそのものが特に絡んでいく話じゃないし。

 ヴァール個人は当時、さすがに思うところがあった感じだけど……真実を知った今では、どうしたってシャルロットさんに対して斟酌しないではいられないんだな。

 

 無表情、無感情に見えるヴァールだけど、内面的にはリーベやシャーリヒッタ以上に優しく、そして慈悲深い性格を持っている。

 その基盤となるのがやはり、歴代アドミニストレータ達をサポートする立場だったことと、ソフィアさんの裏人格として100年間、この現世地球を牽引してきたことなんだろう。

 

 つまりは一般的な精霊知能と比べてもこの子、明確に情が深いところがあるんだな。だからアレクサンドラから凄惨な仕打ちを受けていたシャルロットさんを責めようとも思っていないし、優しく接しているんだ。

 ただ、それはシャルロットさんからすれば想像の埒外、理解の範疇外だった。絶句した彼女はすぐに、気まずげに俯きつぶやく。 

 

「……それは。私が言うのもなんですがずいぶんと、甘いですね」

「長く、永く人を見続けてきた中で得た甘さだ。彼ら、彼女らから学ぶことのできたこの"優しさ"をワタシは、誇りに思っているよ」

 

 薄く微笑み、シャルロットさんを赦すヴァール。

 甘さ……ともすれば短所として捉えられがちな性質だけど、赦すべきを赦す寛容さはむしろ優しさと言うべきかも知れない。

 この子にそれを教えてくれた、歴代のアドミニストレータ達と現世の人間達は掛け値なく偉大だ。そしてコマンドプロンプトとして、私はそんな人達から優しさを学んだこの子をこそ、誇らしく思う。

 

 さて、では一体なんのつもりでヴァールはシャルロットさんを呼んだのか? なんならエリスさんと神谷さんはともかくとして、場違いにもほどがある俺とリーベはなんぞや? と。

 気になるそこのところも、続けて彼女が明かしてくれた。

 

「今回、こうして場を用意したのはシャルロット……君の、その全身に刻まれているだろうアレクサンドラによる虐待の痕跡。それらをスキルによって治療しないかと提案するためだ」

「スキルによる治療? ですが、これまで医療技術はもちろん《回復》や《治療》、《ヒーリング》などによるスキル療法も試しています。精々が苦痛を和らげる程度にしかなっていませんが」

「それらの比ではない、極めて強力な医療スキルを用いるのだ。というか、その言い方から察するに日常的に苦痛を感じているのか、君は……」

「いくらか、神経や内臓まで痛めつけられましたので。去年、内々で受けた診断ではどうあがいてもあと10年しか生きられないだろうとも言われました」

「……そう、なのか……」

 

 さらりと、淡々と。

 惨すぎる追加情報を語るシャルロットさんにヴァールが静かに握り拳を作り、震えた。神谷さんやエリスさんも同様だ、アレクサンドラの所業にもう、何度目になるかも分からない激怒を覚えている。

 

 日常的な生活の中でまで苦痛を覚え、あまつさえ余命宣告をされてしまうほどのダメージを与えていたのか、あの女は。

 さすがに胸の悪くなるものを覚える。隣でリーベが口元を押さえ、顔を青くしていた。

 

 ……何度目になるだろうか、リーベがいてくれて良かったと思えるのは。

 俺だけでなく仲間達だけでなく、こうして理不尽な悪意に命の灯火を削られ続けた人にさえ救いの手を差し伸べられる、あるいはこの子こそが救世主と呼んで良いかもしれない。

 

 俺は、リーベの背中をそっと押しつつシャルロットさんに告げた。

 

「《医療光粉》。どんなダメージだろうと、それこそ半世紀以上に亘り損壊し続けてきた内臓さえ綺麗に治療できるスキルを、この子……リーベが保持しています」

「《医療光粉》? 初めて聞くスキルですね……」

「どうか、試してみてください。彼女ならきっとあなたの痛みを、命を救うことができます。お願いします、俺達を信じてみてください」

「絶対に治しますから! あなたに刻まれたあらゆる苦痛、傷……このリーベの名と存在にかけて必ず、全治させてみせますよーっ!!」

 

 紹介され、高らかに胸を張るリーベ。絶対に癒さなければならない人を前にして、かつてないほどに気合が入っているな。

 もちろん、俺やヴァールもきっちりサポートする。シャルロットさんの痛み、苦痛、絶望……心まではどうにもできないとしても、せめて身体に刻まれたソレはすべて取り除いてみせる!




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