攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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少年はいつだって一度は大都会でぼったくられるものだからな

 家に帰ってから俺は、自室にて香苗さんに電話をかけていた。

 内容はもちろん先程の、再来週に首都に行く話についてだ。WSOの一番偉い人が会いたがっているらしいと言うと、彼女は何やら興奮し始めたみたいだった。

 

「ついに……ついに! 公平くんの素晴らしさがWSOを動かしたのですね!!」

「香苗さん?」

「救世主神話がいよいよ羽ばたく日が来ました……! 既に救世の光は信徒を獲得し始めているのです! 残念ながら、立ち上がりも活動開始もついこの間のため、宗教法人としての要件を満たしてはいませんが……これは好機!」

「あの、香苗さん? 聞いて?」

「ぜひともこの際、WSO日本支部にいる職員たちもろとも、その統括理事とやらも伝道してご覧に入れましょう! あ、マリーさんにも協力を仰がねばなりませんね、彼女にはいずれ設立する教団の、幹部として迎え入れるつもりなのですからね!」

「香苗さん!?」

 

 聞けや! ていうかマリーさんに何やらせるつもりだ、やめろやめろ!

 相変わらずもアクセル全開なこの人をどうにか落ち着かせ、俺は本題に入る。ズバリ、一緒に首都まで行ってもらえないかということだ。

 

 正直ね、首都なんて行ったことないの。

 ていうか関東に行くのが初めてで、一人でなんてとてもじゃないけど行ける気がしていない。

 親にも、付いてきてもらえないか相談してみたけど、一日二日ならともかく、一週間いっぱいは無理とのことだった。そりゃそうだ。

 

 ゆえに、やはり先輩探査者として経験豊富な、香苗さんに同行願えないかと思い立ったのだ。

 彼女ならWSO日本支部内にも顔が利くだろうから、オノボリさん丸出しの子供がのこのこと一人やって来て、どうしたの坊や? なんて聞かれる恐れもきっとなくなる。

 そんな事情を言って聞かせると、香苗さんはようやく落ち着いてなるほど、と言い、快諾してくれた。

 

「WSOに救世主について知らせる良い機会、というのを置いてもです。公平くんを一人で首都になんて行かせられるわけがありませんよ。都会は魅力的で、しかし危険な誘惑がいっぱいですからね」

「そ、そうなんですか?」

「以前、向こうに住む同期たちと、同窓会のような形で訪れたことがありますが……怖いものでしたね」

 

 深々と、電話越しのため息。

 何か嫌なことでもあったんだろうか? ちょっと、聞くのが怖くなってきた。

 俺の怯えを敏感に察知してか、彼女はすぐさま疑念を払拭してくれたけど。

 

「もちろん私や他の、女の同期たちは関係ありませんよ。むしろ私たちは早々に宿に篭って女子会していましたね。せっかくの都会でそれもどうなのかとも思いましたが」

「は、はあ」

「馬鹿なのは男たちです。昼間、勢いのまま、いわゆる繁華街に繰り出していって……その日の夜には、全員が死んだ目で帰ってきました」

「怖ぁ……」

 

 何があったんだよ。ぼったくりにでも遭ったの?

 いや探査者なら金には困らないはずだろう。聞いたことないよ、探査者がぼったくられたあげく、そんな醜態を晒すなんて。

 ……と、聞いてみたのだけれど。どうやら実際に起きたのは、そういうことでもないみたいだった。

 

「ぼったくりの類であれば、探査者ですから。金の心配はいらないというのと、自己防衛するくらいの権利はありますし、いわゆるアウトローどもなど何千人いようがものともしません」

「なら、なんで死んだ目で帰ってくるようなことに……」

「女性ですよ……あの馬鹿たちはナンパに精を出した結果、痛い目を見たのです」

 

 そう呆れたように香苗さんが言うのを、俺は、どことなく神妙な面持ちで聞いている。姿勢も正した。

 

 正直、ナンパなんてする度胸は俺にはありません。まともに女の子と話するのだって、母ちゃんや妹ちゃんを除くと香苗さんがほぼほぼ初めてなくらいだ。

 そんなピュア山形くんだけど、たとえば逆ナン的な? 美人のおねーさんから声をかけられたら、行きま〜すってならない自信も無い。

 だって嬉しいし。お茶したいし。

 

 でもそういうのって当然ながら、香苗さんからしたら呆れた行動に他ならないわけで。

 この人にこんなトーンでアレコレ責められると、俺、しばらく落ち込みまくるだろなあ……などと、我が身に置き換えて背筋が震える心地に自然と、なったのである。

 

「馬鹿たちは女性の気を引くために、高い食事やら服やら装飾品やらをホイホイ貢いだ挙げ句、特に連絡先の一つも交わせないまま逃げられたそうです。せめて一夜明けてから帰ってきたなら、さすがにそれはないでしょうと言えたのでしょうがね」

「むごい」

「しかも救えないのが、後日になってそのことを皆、武勇伝のように語りだしたことですね。率直に馬鹿だなと、女性陣みなで心底、呆れましたよ」

「ひどい」

 

 男の子あるある、失敗談を後になって美化して話を盛って吹聴する。本当にあるあるだけど、他人事として聞くとみっともない……

 こほん、と香苗さんが咳払い。長々と、身内の恥を晒しましたがと言ってから、

 

「ですから公平くん。あなたにそんな目を見せないためにも、この御堂香苗がご一緒しましょう。その、大都会をあなたと歩くのも、したいですし」

「あ……ありがとうございます」

「くれぐれも変な女に、惑わされたりしないでくださいね?」

「あっ、はい」

 

 やたら実感の篭った釘を差された気がするけれど。

 こうして俺は香苗さんと、首都に行くことに決まった。

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