攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
「と、言うわけで。これが捕縛したサークルの悪魔、オノスケリスだ。見ての通り娯楽最優先で力も大したことないけど、一応サキュバスらしいから気をつけて接してもらえると助かる」
『一応も何もガッツリサキュバスですけど!? っていうか誰なのこの神、アバター越しにもヤバいのが伝わるんですけど怖いんですけど!?』
織田にオノスケリスを紹介したところ、慌てふためいた少女悪魔が俺の背に隠れてプルプル震えだした。威勢の良いテンションだけど、言っていることはひたすらに怯えだ。
さすがに同じ概念存在として、目の前にいる中年男性の格は分かるんだな。すなわち北欧大神オーディン──最高神として、アバターを纏ってなお醸し出す魂の威厳を具に感じ取ったのか。
一方の織田はと言うと、俺相手にはしない冷たい目つきでオノスケリスを凝視している。敵意はないものの実験動物を見るかのような、無機質な視線だ。
ふむ、と吐息を漏らす彼を、俺はオノスケリスにも紹介した。
「で、オノスケリス。こちらの方が今日からお前を保護してくれる織田さんだ。多少理解してるかもだけど概念存在で、はっきり言って魂からしてスケールが違うから変に意地張ったり息巻いたりはするなよ、怖いから」
「あなたがそれを言いますか? ……オノスケリスとやら、よくぞ我が領域へと来たな。我こそは北欧神話が最高神オーディンである。古の王に仕えし概念存在たる貴様を、我が盟友山形公平との約定もあるがゆえにそれなりの丁重さで迎え入れよう。それなりによろしく」
「え」
『な、あ────!?』
意外な自己紹介。織田は、自らの正体を一切隠すことなくオノスケリスへと告げた。耳を疑う名乗りに絶句するオノスケリスと同様に、俺も静かにだけど内心、結構驚いた。
北欧神話の最高神であることを、ここで明らかにしちゃって良いものなのか? たしかにこの悪魔はもう今回の件から完全に離脱したけど、さりとて軽々に教えて良い立場でもないと思うんだけどな。
疑問符が尽きない。そんな顔をしているからだろう、織田が苦笑いを浮かべてワイングラスを傾けた。
そのまま少しばかり、慌てふためくオノスケリスとそれに対応する俺を観察してくる。なんだ?
『お、おおおオーディン!? さささ最高神!? なんで!? 最高神なんで!? げ、げげ現世にじゅじゅじゅ受肉してるー!?』
「落ち着けって。いや今のは俺も驚いたけど……いいのか? あまり広めたくないだろう、あなたとしては」
「クククッ! まあそれはそうですがね、どうせ保護する以上は遠からず勘付かれるものですよ。ならば初手でこちらから明かし、多少牽制しておくべきと考えましてね」
「牽制……」
にやりと笑う織田の不敵さ。反比例するように俺の背中に猫のようにひっつくオノスケリスがプルプルと震えるところに、俺は今しがたの名乗りの意味を感じ取る。
まさしく牽制だ。委員会の悪魔がこれ以上、余計なことをしでかさないように彼はオーディンとしての権威を発露して、あえて本気で心を折りにかかったんだな。
怖ぁ……つまりはこの大神、初手から全力で脅迫して来てるんだ。舐めた真似したら即潰すぞと、オノスケリスを精神的に拘束したわけだ。
いや物騒! さすが戦神というべきか、締めるところはきっちり締めるところは最高神としての矜持を感じさせるよ。
あわわと半泣きのオノスケリスがちょっと可哀想かもしれないけれど、こいつはそうされるだけのことをしでかしているからなあ。
たとえスマホゲームのことで話に花を咲かせられそうな同志だったとて、それ以前のところでこいつは委員会に与した悪魔だ。面白半分に人に力を与えてテロに走らせた輩の一員でもある。
自業自得だなと、俺は静かに吐息を漏らした。
「最高神たる私が出張っており、かつ自身の保護者となった。言い方は悪いですが、こうなれば古いだけのサキュバス一匹程度ではもはや身動きが取れますまい? ──下らぬことをした瞬間、我が従者が立ちどころに槍を見舞うのだからな。分かっていよう、オノスケリスとやら」
『は、ははははいぃーっ!! さ、さ、逆らいませーんっ!!』
「最高神クラスにはここまで下手になるかあ。こいつ、こないだ聞き取りした時は俺とか誰相手にでも小生意気だったんだけど」
「ほほう? それこそ私としては生意気に思えますね。このオーディンの盟友たる山形公平をさえ相手に、そのような態度を取っていたのですか」
『ちょっ!? シャシャシャ、シャイニング山形ァ!? 誤解なんですけど、絶対服従なんですけど!?』
打てば響く鐘のように、織田の言動一つ一つに泣いたり喚いたりしている。
本当に小生意気な娘さんのようだけどこいつ、話から察するに相当古くから存在しているサキュバスっぽいんだよなあ。
ソロモン王がどうのこうの、具体的な年代は知らんけど下手すると紀元前にまで遡りそうだ。
そんなあたりから存在していて今現代の振る舞いがこれかと思わなくもないけど、これも現世のイメージに引っ張られてのことかも知れないな。
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