攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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生きる。たとえ、誰にも望まれなかったとしても

 勢い良く、なんてレベルを遥かに超えた垂直落下で床に叩きつけられたアレクサンドラ。

 床のほうまで粉々に砕けて粉塵が舞うなか、やつは紛れもなく大ダメージを負っているだろうというのは俺にも分かった。

 

「が……ぐ、ぎっ……! げ、ハァっ!!」

「ふぃー、一丁上がりってやつですかね? 正直タフすぎたんですけど、私の権能を取り込んだからってここまで耐えきれるものなんですかねえ」

 

 埃に塗れ、輪郭くらいしか見えないけれどたしかに咳き込み、苦しむ声が聞こえた。アレクサンドラ……勝負あったな。

 空中にて静止するミュトス・魔天が感嘆とも畏怖ともつかないつぶやきを漏らした通り、たしかにやつのタフさ、しぶとさは驚くべきものがあった。

 

 S級探査者クラスの実力にウーロゴスを取り込んだからこその耐久性、というのとはまた違う気がする。シャーリヒッタに半減されているのもあり、それならばもっと早い段階で限界が来ていてもおかしくはなかった。

 ここまで持ちこたえ、三界機構の力を駆使するミュトスにある程度抗えたのは、むしろ精神力の成せる業だったように俺には思えるよ。

 

「プライドの高さ、夢と野望への執着。それらがアレクサンドラの心を無理にでも折らせず、身体にさえ影響するほどの耐久力をもたらしていた……って、ところかな」

「あの女を、ここまで叩き伏せるミュトスさんの力には率直に疑問しか浮かびませんが同意です。アレクサンドラ……怒りと憎しみしかこの心にはありませんが、けれど戦士としてはたしかに超一流なのでしょう。その精神力さえ含めて」

 

 異常なまでの誇りと妄執。それこそがアレクサンドラという人間の中核にあるものなのだろう。折ろうとしても決して折れない、不屈の闘志の源泉。

 その被害を誰よりも被ったろうシャルロットさんでさえ、在り方を否定しつつも認めずにはいられなかったみたいだ。やつがたしかにS級探査者であることを、真に力ある戦士であることを。

 

 けれど、それもここまでだ。

 勝負はついた、明確に勝者は空に留まり、敗者は地に伏せた。これ以上ないほどに分かりやすい、結果が示されたんだ。

 なおも咳き込むアレクサンドラに、俺は声をかけた。

 

「もう終わりだ、アレクサンドラ! 降参してくれ、人間に戻ってくれ! そうして法の裁きを受けて、罪を償ってほしい!」

「ガハッ、げほ、ぐぅッ────ふざけるな、クソガキがっ……! 言われて諦められる、夢でも、今でも、過去でも、ないッ……!!」

「まだ、やる気なのですかアレクサンドラ」

 

 俺からの降伏勧告に口汚さで応え、フラフラの体で、震える手足でどうにか立ち上がろうとする。

 プレーローマ・アンドヴァリとしての身体はもはやボロボロだ、権能の出力こそ健在だけど、肉体の損傷度が高すぎてもう、当初のようなフルパワーは出せまい。

 

 なのにやつはまだ、立ち上がるのだ。

 あまりのしつこさに、シャルロットさんが眉を顰めて問い質した。

 

「見苦しい……哀れなのが惨めにすらなっていますよ。もういい加減に諦めなさい。あなたの夢は潰えました。叶うことならこの手でそれを成したかったのが、残念ではありますが」

「黙れ、小娘ッ……!! お前が、しっかり、壊れた人形でいたならこんなコト、にはなっていなかったッ……」

「いい気味ですよアレクサンドラ。欲に駆られるあまりに人を散々利用してきた報いが今、その身に降り掛かっているのです」

「黙れっ! 黙れ、黙れ黙れ黙れぇぇっ!! お前に分かるものか、永遠を求める私の、気持ちがァァァッ!!」

「…………なんだ? 手に何か、握って……!?」

 

 無表情にも明らかな侮蔑と嘲りを浮かべる、かつて人形として壊そうとした少女に……余裕を完全に失ったアレクサンドラが、剥き出しの怒りでただ、吠えた。

 虚しい叫びだ。だが立ち上がったその手に握るモノは、決して笑いごとではなかったが。

 

 見覚えのあるクリスタル。忘れようもない、それはやつら倶楽部とサークルの罪の象徴だ。

 スレイブコア。形はそうだが微かに放つ気配はまったく異なる。権能の、ウーロゴスの気配! それを握りしめてアレクサンドラは、口泡を飛ばしてまで俺達への敵意を叫ぶ。

 

「くだらない、くだらないくだらないくだらないッ!! お前達の勝手な理屈でこんなイカれた時代が到来して、こんな惨めな私が生まれ育ったッ!! すべてお前らのせいだ、ソフィア・チェーホワッ!! エリス・モリガナ!! シャイニング山形ッ!!」

「お前、ちょっと待て! その手に握っているのは、まさか!?」

「お前らがこんな世界にしたからっ、あの女は血迷ってあんな男に抱かれて私を産んだんだ! あの男はそれを意にも介さず好き放題に生きたんだ!! だから私は生きるんだ! どんな生まれでもどんな育ちでも、絶対にお前らの思い通りに死んでなんてやるもんかっ!!」

 

 混濁した瞳に血に塗れた顔つき、明らかにもはや錯乱している姿。アレクサンドラ、ここに来て正気を失ったのか!?

 すべてを俺とソフィアさんとヴァール、そしてエリスさんのせいだと叫ぶ姿に、思うところはないでもないが今はそれどころじゃない。

 

 あいつが手にしている石こそは、ウーロゴスの権能そのものなんじゃないのか!?

 まだ一個残っていたのか、まだ持てるすべてを取り込んでなかったとでもいうのか! 微かな上に、やつ自身の力に紛れて気づけなかったウーロゴスの気配がたしかにそこにある!

 

 そんなのをもって叫ぶ、なおも抵抗するつもりで。

 であれば────俺はミュトスに叫び、自らもまた結界を解いて駆け出した!

 

「ミュトス!! やつの手にあるソレがウーロゴスだ、使わせるなっ!!」

「!! 魔天さん、最高速度ッ!!」

「あの女みたいに、独りぼっちで寂しく死んでたまるか!! 惨めになんて死んでなるものか、生きて必ず幸せになってやる!! 生きて、生きて、生き抜いて────すべて滅んでもなお生きて、生き抜いてやるんだっ!!」

 

 俺の意志を受け、即座に急降下するミュトス。同時に俺も全力で走る、距離を詰めるのに1秒とてかからない!

 ……だが、やつの手にしたウーロゴスが発動するほうがそれよりも早い、否、手にした時点ですでに発動していて。

 

「誰を踏み台にしてでも! すべて滅ぼしてでも生きるんだ!! 誰に望まれなくても、誰に愛されなくても────私は、それでも生き続けるんだッ!!」

 

 涙に濡れた地獄の叫びとともに。

 やつの身体がまばゆく光り、そしてさらなる変異が始まった。




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