攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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静かに青褪めた空の下で

「けほ、けほ。いつもすみませんねえ、山形様や」

「それは言わない約束だよ、ミュトっつぁん……って、言えば良いのかこれ? 昔の人のネタはちょっとよく分かんなくて……」

「がびーん! ジェネレーションギャップにミュトスちゃんショッキング!」

 

 ワームホールを抜けて、背負ったミュトスと軽いノリでやり取りをする。

 決戦が終わり、みんなで一緒に帰還する中。全身全霊を使い果たして完全にガス欠になったミュトスはぜひとも俺が連れていきたいと申し出て、手ずから彼女を運んでいるのが今だった。

 

 神奈川さんと並び、事態に終止符を打ってくれた彼女は間違いなく今回の件におけるヒーロー、いやさヒロインだ。

 システム領域からしてもやっとこさウーロゴスこと、失われたミュトスの権能をすべて返還することができたから肩の荷が下りた気分だよ。

 そんなわけで労いも兼ねて、俺は背負った彼女を丁重に連れているのである。

 

「いやはや、ミュトスには本当にいろいろ世話になったし迷惑もかけちゃって。改めてだけどごめんな」

「いえいえ滅相もない! むしろこちらこそ、ポロッと落とした権能が散々悪さしでかしちゃって、あまつさえ私自身もこんなふうに生まれ変わらせてもらっちゃって、終いにはきっちり元通りにしてもらっちゃって! もうこれ以上のことをしてもらったりなんかしたら天罰が下っちゃって!」

「身体にゃ力が入ってねえけど、勢いは元気いっぱいだなぁ、ミュトスよう」

「本当ですねー。《トリニタス・ヴェリタス・ウニヴェルシタス》使用後に大の字になったのはビックリしましたけどー、あれだけの力を使ったらそりゃ、ガス欠にもなりますよねー」

 

 俺達の近くを歩く、シャーリヒッタやリーベも完全な精霊知能として完成したミュトスには興味関心が強そうだ。

 採石場近くに建てられた仮設テントに一旦集まろうと、今は一同がそこに向かっている最中だ。倒した構成員なんかはお巡りさんの部隊やWSOのエージェントがすでに連行していて、もうすっかり気も抜けてる皆さんの姿に俺もホッとする限りだ。

 

 いや、だけどまだ一人残っている。

 ヴァールが《鎖法》で拘束し、エリスさんが《念動力》で浮遊させつつ動かしている今回の事件の主犯。

 プレーローマ・アンドヴァリだった者……火野アレクサンドラが目を覚ましていて、今も独り、無駄な抵抗めいて騒いでいるのだ。

 

「離せっ!! 離して、私の力をどこにやったの!? 私の、わたしのプレーローマ・アンドヴァリはどこに、ウーロゴスはァァァ!?」

「そんなものはない、最初からな。よくも他人の遺失物を勝手に私物化しておいてそんなことを言えるものだ、アレクサンドラ・ハイネン」

「アンドヴァリ……いいえ火野アレクサンドラ。もう無駄なあがきは止めなさい。分かっているのでしょう? 今のあなたに能力者としての力は一切使えない。もう、あなたの野望も夢も終わったのです」

 

 意識を取り戻し、すぐさま叫び喚いて抵抗する姿はまるで駄々をこねる少女だ。

 ウーロゴスの力も取り除かれ、その姿はすっかり元のアンドヴァリに戻っている。実年齢は40歳手前くらいだろうけど、見かけは若く30歳にも満たないほどに美しい女性。

 

 けれどそんな美女は、どうしようもなく悪辣な邪念をもって世界に仇なした。一人の少女を痛めつけ、拾い上げた他者の権能を悪用し、己の欲望のために多くのものを踏み躙ってきたんだ。

 そしてその罪は今、これから精算されることとなる。それを彼女自身も分かっていて、けれど認められずに抗おうと叫んでいるんだろう。

 

 自業自得。そういうしかない。

 けれどどうにも、彼女の慟哭そのものには……聞いていてこちらが嘆きたくなるような、悲しさが含まれていた。

 

「ふざけたことを言うなっ、チェーホワ、エリス・モリガナッ!! お前達にだけはそんな、偉そうに言われてたまるもんかぁっ!!」

「我々にどんな想いを抱き恨もうが勝手だが、それでもお前は社会的には犯罪者だ。これより後は法の裁きを受け、罪を償うことになる。覚悟しておくことだな」

「黙れぇぇぇっ!! 嫌だ、いやだいやだッ!! 私は永遠に生きるんだっ!! 惨めに生まれて生きてきたのに、このまま何もなしに惨めに死んでたまるかっ!! 何もないのに、誰もいないのに、どこにもないのに! お前達はまだ私から何もかもを奪うのかッ!?」

「…………アレクサンドラ」

「死にたくないッ!! 生きたい、永遠に、そしてこの世界の終わりを見届けて、私は、私はァッ……!! う、うううううう……!」

 

 泣きじゃくりさえしながら喚く、その内容は天を仰ぎたくなるほどに切ない。

 結局のところ、火野と委員会の女の間に生まれたこと。そして母が復讐だけを託して死んだこと……父が自身の存在すら知らずにいたこと。

 そうして呪縛に塗れていきてきたことすべてが、アレクサンドラにとってどうしようもないコンプレックスだったんだ。

 

 ゆえに求めた、不老不死を。

 そしてその先にある世界の終わりを。これも変則的な破滅願望と言えるのかもしれないな。

 

 だからなんだ、という話ではもちろんある。それが多くの人を苦しめる行為を正当化することは、絶対に有り得ない。

 それでも、何も、誰も、どこにも自分を受け入れるものがないのだと叫ぶ彼女はあまりにも憐れで孤独だ。赦しがたい犯罪者であるのを承知の上で、俺やエリスさん、ヴァールも哀しい目を向けるしかない。

 

 ──そんな彼女に、けれど腕は振り下ろされた。

 他ならぬ師匠と、弟子。二人の聖女の手刀と拳が、拘束されたアレクサンドラの首を軽く叩き、鳩尾にめり込んだのだ。

 迷宮から脱した俺達を案内してくれていた神谷さんによる手刀と、エリスさんの近くを歩いていたシャルロットさんによる拳だった。

 

「が、はっ────せ、先生。かみ、や、せんせぇ……」

「安心しなさい、アレクサンドラ……たとえどれだけ悪を為そうが、それでも私はそばにいます。そばにいて、ともに罪を背負いましょう。あなたは、独りではありません」

「絶対に許せない、それこそ永遠に許さない……けれど。あなたがいたから私は今ここにいることも間違いないことですから。だからアレクサンドラ、今は眠りなさい。弟子としての私からあなたへの、最後の手向けです」

「────シャル、ロッ、ト…………」

 

 アレクサンドラを導いた者。アレクサンドラに、最初だけは導かれた者。

 いずれにせよ因縁ある二人による、ある意味引導が渡された形になる。そんな、最後の一撃だった。

 

 神谷さんは悲しげに弟子を見、シャルロットさんはどこか晴れ晴れとした表情で天を仰いでいる。

 これまでのこととこれからを考えると、決してすべてが綺麗サッパリとはいかないだろうけれど。ダンジョン聖教にも、これで一つの区切りがついたのかもしれないね。

 

 仮設テントが見えてきた。そこで一息ついて、また後始末やらなんやらを考えつつ日常へと戻っていくだろう俺達。

 日も昇り朝8時過ぎ。どこまでも透き通る青い空の下で、静かに事件の幕は降りていくのであった────




これにて第三部完結です!ご愛読ありがとうございましたー
引き続き次回から第三部後日談編を描いていきますー
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