攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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アレクサンドラの功罪

 許されざる所業を重ねた弟子に、師匠はどう接するべきなのか。突き放すべきなのか、あるいは寄り添うべきなのか。

 かつて香苗さんと青樹さんが陥っていた状況の、立場をそのまま入れ替えたような状況。アレクサンドラという罪を犯した弟子について、神谷さんはなおも淡々と言葉を溢した。

 

「あの子は、完璧すぎるほどに完璧な少女でした……強く、聡明で、かつ優しく信心深い理想のダンジョン聖教信徒。そして私の、五代目聖女の弟子として六代目聖女たるに値すると思わせるほどに」

「猫を被っていた……のとは、また違う気もします。話を聞く限り聖女として活動していた頃はずっと、彼女は理想の聖女たらんとしていたようですし」

「そうだね。少なくともダンジョン聖教の聖女としての表向きは、彼女はまさしく理想的な振る舞いをしていたと思うよ」

 

 エリスさんも昔を思い返しつつ語る、在りし日のアレクサンドラ。以前、戦いの中で本人も自己申告していた通りに聖女としてはなんら問題ない振る舞いをしていたっぽいんだよね、あれでも。

 倶楽部幹部からの事情聴取の際に、なんの因果か彼女の実父である火野老人がそうと知らずにぼやいていたのを思い返す──

 

 

『アンドヴァリめは聖女としては、忌々しいほどにキッチリ委員会との関係を断絶して仕事しとったわ。聖女を辞めてからじゃな、本格的に動き出したのは』

 

 

 ──と。

 同じ委員会のメンバーであり、老獪さや狡猾さでは他の追随を許さないあの老人をして、アンドヴァリことアレクサンドラは完璧に六代目聖女をこなしていたのだ。

 おそらくは十年以上もの間、組織とのつながりを断って潜伏していた。エリスさんへの復讐という母からの呪いや、不老不死という自分自身の野望さえ長期にわたり封印し続けたのだ。

 

 そしてその上で聖女引退後、満を持して動き始めた。

 やったことの善悪を考えずに言うならば、すさまじい忍耐力だと言う外ない。それは、誰よりもやつの被害を被ってきたシャルロットさんさえも今、呆れとも感心ともつかない表情を浮かべていることからも明白だった。

 

「アレクサンドラは聖女在任中、世界各国の首脳と話をつけてダンジョン聖教の勢力を拡大させ、その教えを広めることに注力したと聞きます。ただでさえ規模の大きな宗教だったのを、現代においては世界一と言っていい勢力にしたのはあの女の功績が大きい、とも」

「それは、否定できない事実です。ダンジョン聖教を興したラウラ様、その弟子である三代目マルティナと五代目の私。そして私の弟子である四代目のフローラ……そのいずれも政策的には体制の維持や確立といった内政がメインでしたが、あの子は外交を第一とし、10年と少しの間に一気に組織としての規模を広めました」

「まあ、ゆくゆくはそんな育った組織丸ごと、委員会傘下として取り込むつもりだったんでしょうねー。それが失敗に終わった今、アレクサンドラがやったことはシンプルにダンジョン聖教の中興の祖めいた偉業って感じですか、はっはっはー!」

 

 葵さんが明るく締めくくるが、まあ、そういう結論になる。策士策に溺れるというか、結果としてただダンジョン聖教を利することばかりしてきたのが聖女としてのアンドヴァリなんだよね。

 そこは、誰にも否定できないことなんだろう。後で美味しくいただくつもりだったにせよ、それが叶うことなく退場となったのだから……後に残るのは大きく育った極上肉だけって感じだな。

 

 無論、それは結果論でしかない。

 元々の目論見が悪質なものであったことは否めないのだし、その結果としてアレクサンドラは許されないことをしでかして、なおかつシャルロットさんへの仕打ちだってもちろんある。

 

 ただ、客観的に見れば功績に言及しないわけにもいかない、そういう立場なのも間違いないってことだった。

 どこかやるせなく、エリスさんが嘆く。

 

「火野といい、アレクサンドラの母親といい本人といい、どうして私に執着するんだろうねーホント。それを理由にあちらこちらに取り返しのつかない迷惑ばかりかけてさ、まったく」

「突き詰めれば火野源一から始まった負の連鎖、と言うしかありませんね……それもやつの一方的な思い込み、恋慕恋情というにはあまりに毒色の欲望です」

「初代様は出汁にされただけ、どうかお気になさらないでくださいませ! ……本当においたわしいことです、あのような輩とその血族に勝手な感情から逆怨みなどされて」

「アレクサンドラの初代様への言い分も、結局私には八つ当たりにしか思えませんでしたね。父がいない、母も失った。そのことへの憤りを行場さえなくして、分かりやすい対象である初代様にぶつけようとしたのでしょう。私は、差し詰めそれまでの代替品でしょうか」

 

 火野一族、とでも言うべきかな。アレクサンドラのみならずその両親に至るまでもが、初代聖女たるエリスさんに方向性は違えど執着し、呪いじみた感情を向けた。

 その妄執、妄念には俺も背筋が寒くなるよ。こんなふうに謂われない悪意を抱かれて、彼女もさぞかし辛いだろう。

 

 挙げ句、そんな恨み辛みさえ含めた諸々のストレスの捌け口になってしまっていたんだろう、シャルロットさんの言葉もまた、重い。

 つくづく哀しい事件だったなと、今朝方にやっと終わった一連の騒動を俺は、そう結論づけるのだった。




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