攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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特に示した覚えのない教え(恐怖)

 かなりの人がいる談話室で、そんなことお構い無しっていうかむしろ盛大に喧伝してやるくらいの勢いで俺の名前を呼び救世主と叫ぶのはそう、宥さん。

 何やら結構な数の探査者さんに囲まれたなかで俺を手招きする姿に、おつかれさまでーすと近づき挨拶したい気持ちと裏腹におつかれさまでしたーと遠ざかり挨拶したい気持ちが心を行き交う。

 これが心が二つあるってやつか……

 

「まあ行かない選択肢もないんだけどね……お、おつかれさまでーす宥さん。ええと、こちらの方々は?」

「おつかれさまです公平様! はい、私の配信を見てくれているリスナーの方々で、みなさんも救世の光の信徒なんですよ!!」

「え」

「救世主様! シャイニング山形様、拝謁できること恐悦至極です!!」

 

 挨拶もそこそこに周囲の方について尋ねれば思いもかけない答え。同時にその人達が揃って両手を合わせてこう、なんかよく分からないハンドサインを作りながら俺に向けて一斉に頭を下げてきた。

 そして声を重ねて述べてくる、あまりにもあんまりな口上。宥さんのデタラメやジョークでは決してない、本物の例の宗教の信者さんだと言うのが一発で分かってしまう、そんな所作だ。

 

 ついに来たか、この時が。面と向かって見知らぬ信者の方と遭遇してしまう時が……!

 いやまあ、日増しに救世の光チャンネルの登録者数とか増えてるし、これまでも信者っぽい方とニアミスすることはチラホラあったからさ。

 そのうちストレートにこうした、入信されている方々との出会いというのもあり得るだろうなあって時折眠れぬ夜を過ごしたりはしていたんだけれども。このタイミングでかよう。

 

「怖ぁ……」

「救世主様のご活躍、そしてお言葉お考えはいつも総本山における伝道師御堂さんの伝道を通して我ら信徒にも広く伝えられております!」

「人々を、そして人々の平穏を至上とする探査者としての姿勢! どんな命にも、たとえそこに罪があったとしてもその価値と意義あることを認め受け入れる懐の広さ!!」

「善なる者の行いを助け明日へつなげ、悪なる者の行いには心を痛め改めることを勧める! これぞまさしく救世主様がこれまでに多くの場面でお示しになった救世主神話の教え!!」

「つまり──すべての命に敬意を払い、互いに尊重しあうこと! ですよね救世主様っ!!」

「えぇ……?」

 

 普通に探査者生活してただけのことを、伝道師さんがいろいろした結果この人達が果てしなく大仰に受け止める結果になっちゃってるんですが。

 いやまあ、特に悪いことは言ってないように思うけど。別段そんな大層ことを俺が示したなんて事実も覚えもないんだよね、正味な話。

 

 ていうか人々の当たり前を守るだの、どんな命にも価値があるだの、正しいことをしてる人は助けて悪いことしてる人はダメだってするだの……

 それは宗教がどうの以前に人としての当たり前に持っておきたい心構えを、壮絶なまでに過剰装飾しただけに思える。

 

 これがもしかして救世の光の教義とかなのかな。香苗さんの動画は時折確認してるけど、教義について明確に語られてる動画とかは見たことないからなあ。

 このくらいの内容なら俺としても、まあ一応即座に暴走したりはしなさそうかなー? って感じではある。たぶんだけど。

 

 とはいえそもそもこうして複数人が揃いも揃って俺に向かって祈りを捧げている構図自体が異様なのは言うまでもない。

 おかげさまでさっきまであんなに探査のことを熱心に話し合い語り合いしていた談話室の中はあっという間に静まり返っている。しーん、ししらしーん、って感じだ。

 

「…………なあ、おい。アレって、その」

「ああ……シャイニング山形と、救世の光の信者達だな。なんでこんなところに」

「ここ数年の若手世代どころか、大ダンジョン時代全体を通しても見当たらないほどの天才。デビュー半年でB級になり、S級探査者とも肩を並べて戦う統括理事の秘蔵っ子」

「同時に……あの御堂香苗が救世主と崇め宗教組織まで作ってしまった、謎に満ちた少年探査者。私も何度か見かけたことはあるけど、たしかに他の探査者とはなんだか違うモノを感じる……気がするわ。見た目は地味だけど」

「怖ぁ……」

 

 ああ、みなさんの歓談をお邪魔した挙げ句にあることないこと噂話までされて、終いには見た目が地味とまで言われてしまった。いやでも毎度のことすぎる。

 大体みんな俺の実態とかけ離れた話ばかり聞いてるんだよね、どうも。週刊誌とかそのへんから仕入れてる情報なんだろうけど、だから俺はソフィアさんの秘蔵っ子じゃないってばよ。

 見た目が地味なのは否定できんけど。

 

 静寂に満ちた談話室は、外の喧騒に比べてあまりにも異質な空気だ。

 さすがにこれをこのままにしておくのはまずいと、俺はコホンと一つ咳払いをして、信者のみなさんに語りかけた。

 

「え、ええと……みなさん。教えとかは関係なく、今仰った香苗さんの伝えたことというのは、探査者として、人として忘れてはいけないものだと、僕自身気をつけたいと思っています、はい」

「おお……!」

「み……みなさんが、香苗さんの僕についての動画を通じて何かしら得るものが、プラスの方向であったのならそれは、えーと、僕としても嬉しいと言いますか、誇らしいことだと思います。あの、お互いその、そういうふうにやっていけたらなと思うんです、ええ」

「なんて、なんて謙虚なお言葉……!!」

 

 なるべくオブラートに包むというか、刺激しないように慎重に言葉を選んでるんだけどおっかしいな、いよいよ跪き出したよこの人達。

 なんなら宥さんなんか涙すら流しててもうなんか、手に負えないんですけど。

 

 教えとかそんなんじゃなく、お互いにそういうところを気をつけていけたら良いよねってだけの話じゃないか。

 それがなんでこういう反応になって返ってくるのか。信者さんの考えることがどうも俺にはよく分からないんだよなあ。




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