攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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セレブリティー・ヴァールの爆弾発言!

 目的階層、42階。

 最上階が50階らしいのでほぼ天井付近にまで登り詰めたエレベータを降りると、そこは普通のフロアながら、広々とした通路の至る所に飲食店が立ち並ぶエリアだった。

 それも見るからにお高そうなお店ばかりで、ここが地上何十mもの高度にある地点ってことを含めてどうも浮き世離れした空間に思える光景だった。

 

「おお、なんかすごい……く、空気感がこれまでにない場所というか」

「に、兄ちゃん……もしかして異世界に迷い込んじゃったんじゃない? 私達。いつの間にか異世界転移しちゃった?」

「きゅうー? きゅう、きゅー」

「兄妹揃って大袈裟ねえ。なんかランレイみたいな慄き方しちゃって」

「はっはっはー! アイちゃんはいつもと変わらずなんですけどねー」

 

 フロアに流れるどことなーい上流階級的な空気に気圧された俺と妹ちゃんが気持ち寄り添いあって支え合う。

 それでいて俺の肩に移動してしがみついているアイだけはいつもどおりかわいくきゅうきゅう鳴くのを、アンジェさんも葵さんも面白がって眺めている。

 

 すわ異世界かと優子ちゃんがこぼすくらいには馴染みない雰囲気の場所だもんよ、仕方ないじゃーん。

 なんなら概念領域のがまだ経験あるぞ俺、現世のハイソサエティは概念領域より異質な空間説ぶち上げられちゃうぞこれ。

 

 ──と、続けてエレベータから父ちゃん母ちゃん、リーベにヴァールがやって来る。

 俺の両親なんかもっと過敏で、この階層に一歩踏み出した時点で母ちゃんが即座に父ちゃんの後ろに隠れてしまった。

 早い、早いよ母ちゃん若干乙女っぽい反応だぞ母ちゃん!!

 

「あわわわ! た、高い! 階も雰囲気もなんだかお高い!?」

「おー、こりゃすげえ。たまに会社の飲み会でお偉いさんに連れて行かれる店とかに近い匂いするわ」

「現世もところ変わればですねー。ヴァール的にはこういうとこ、慣れっこさんなんですかー?」

「立場上、多少はな。政治的な会食の場はこれの比ではない……正直、あまり得意な空気ではないのだが慣れというのもすごいものだ。御母堂の様子に、ああ普通はこうなるかと気付かされたのだから」

 

 一方でしがみつかれた父ちゃんは堂々というか飄々としていて、ある種の場慣れ感を醸している。どうも会社絡みで経験があるんだろう、母ちゃんもだけどいつもお仕事お疲れさまです。

 リーベも初めてだろう雰囲気に目を丸くしていて、ヴァールに質問しているけどこればかりは愚問だろう……WSO統括理事として、このフロアのランクさえ遥かに凌ぐ超上流的な社交場だって幾度となく経験しているはずなんだから。

 

 そう、まさしくヴァールこそはシステム領域において初であり現状唯一無二のハイソサエティ精霊知能と言える。

 今後、現世に旅行なり定住なりする精霊知能もちらほら出てくるだろうけど、その子達が生活するにあたってもっとも参考になるのが彼女だろう。そういう意味でも、システム領域にとってなくてはならない存在の一人なわけだね。

 

「さすがだ、セレブリティー・ヴァール……」

「……そこはかとなく誤解されているような気がするが。ワタシとて華やかな社交場やら豪華、豪奢な環境を好むわけではないぞ。正式に統括理事を引退した暁には、二度と近寄ることもないだろう世界だよ」

「え……するんですか? 引退」

「今すぐではないが数年ほどかけて、諸々の引き継ぎや手続きなどの事後処理を終えればな。統括理事をやっていた理由と目的が達成されたのだ、これ以上しがみつくつもりはないよ、アンジェリーナ」

 

 サラリと引退を示唆したヴァールに、唖然とするアンジェさん。葵さんも目を丸くしていて、統括理事たる者の存在感が若い世代にも浸透しているのを痛感させるな。

 実際、これについては前から聞かされていたことだ──邪悪なる思念を倒した以上、ソフィア・チェーホワもヴァールも統括理事やWSOにいる理由はない。可及的速やかに次代へと後を託し、自らは退きたいという強い意志をね。

 

 とはいえ100年続く大ダンジョン時代社会を引っ張ってきた"永遠の探査者少女"だ。引き継ぐっても一朝一夕でできるような仕事量じゃないのは当然だ。

 彼女いわく、軽く見積もっても数年はかけてのソフトランディングとなるだろうって話だね。

 

「そしてそれをもってワタシは精霊知能へと戻る。それ以後は山形公平の住まいの近くに居を構えることとなるだろう。システム領域所属となるからには、コマンドプロンプトの近くにいたいからな」

「そ……う、なんです、ね。し、正直、爆弾発言すぎて理解が……」

「う、打ち上げもまだなのにすごいカミングアウトですね。はっはっはー……」

 

 淡々と、当たり前のように今後の予定を語る。ヴァール的にはなんでもないことなんだろうし実際、これも既定路線なんだろうけど……初耳の人達なんだからそりゃ絶句するに決まってる。

 マジで俺の家の近くに越してきそうなんだなーって驚きはあれど、俺としてはまあそんなもんかーで終わりなんだけど、アンジェさん達には刺激が強すぎる発表だよねー。

 

 ヴァールも遅ればせながらそこに気づいて、困ったように頭をいくらか搔いた。

 ここまで驚かれるの? って感じの戸惑いを見せるけど、むしろまだ冷静な反応だと思うぞ。普通はもっと騒ぐと思うの。

 

「……今から打ち上げだというのに聞かせる内容でもなかったか。すまない、山形公平や後釜もいるからと、システム領域のモノにするような調子でいろいろと喋ってしまった。気にしないでくれ」

「えぇ……?」

「き、気にしますよ……お、おばあちゃん、ランレイ……大変ー!」

「は、はっはっはー……師匠ー、大変ですししょー……」

 

 よもや打ち上げ前にこんな話しされるとも思ってなかったんだろう、衝撃の展開に、案内役のお二人が完全に動揺しちゃったよ。

 これは……宴の席も微妙にこの話題になりそうな気がしてきたぞう?




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