【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー/天鐸龍
リンちゃんの実力を、これでもかと俺たちに示してみせた今の一戦。
俺も香苗さんもベナウィさんも、彼女の実力に一切の疑念を抱くことはない。探査者としての等級とかレベルとかでは測れないほどの彼女、ひいては星界拳はその威を見せ付けてくれた。
「威力もさることながら……容赦のなさが恐ろしいですね。念入りに頭部に集中するとは」
「ん……頭部、どんな生き物でも大切。さっきのやつは大きかったし、こっちを狙って向かってた。狙いやすさ、抜群だった」
「たとえば相手が人間だとしたら、どのように戦うのですか?」
興味本位だろう、ベナウィさんが尋ねる。
星界拳が何と戦うことを想定した拳法かは分からないけど、まさか人間がターゲットに入ってないわけはないだろう。
ちょっと俺としても気になる話だ。リンちゃんは、こくりと頷いて答えた。
「基本、急所狙い。狙えるならまず股間とか」
「ひっ……」
「顔面、胴体、手足。どこを取っても人間、急所だらけ。でもやっぱり股間か鳩尾が起点にしやすい、かも。私的には」
「……さっきの技をデリケートゾーンに食らう。想像したくないですね」
思わず悲鳴をあげかけたよ。化物の頭一つ粉々にするような蹴り、ただでさえ受けたくないのに、積極的に股間を狙ってくるとか悪夢だよ。
見ればベナウィさんも香苗さんも、何を想像したのかはっきり分かるくらいに顔色が悪い。まず急所狙いが基本とか、もう徹底的に敵を破壊する気満々過ぎて怖ぁ……
「? どうしたの、みんな」
「い、いやあ……星界拳、すごいなーって。ねえ?」
「そう、ですね」
「たしかに、すごい話ではあります」
「そう? そうなの!? えへへ、えへん、えへん!」
言葉を濁す俺たちに比べて、満面の笑みを浮かべて誇らしげにするリンちゃんの、何て輝いて見えることだろう。
だけどそのかわいい笑顔には、戦いとなると急所を最優先で狙ってくる、星界拳の戦い方が秘められているのだ。何とも頼もしいやら恐ろしいやらだ。
「……さて、先に進みましょうか。こうまで素晴らしい力をお三方に示していただけたのです。次は私が、S級に恥じないだけのものを見せなくては」
話を打ち切るように、ベナウィさんが言った。スーツ姿の大男な彼は、背筋をぴんと伸ばした、まさしく立派な出で立ちだ。
思えばマリアベールさん以来、二人目のS級探査者になるのか。それがマリーさんの孫弟子さんで、しかも二人揃って決戦スキル持ちと来た。
つくづく縁があるねえ。いや、ほんと。
「改めてお知らせしておきますが、私の基本戦法はスキル《極限極光魔法》による遠距離広範囲攻撃です。ミス・御堂の《光魔導》に一部、似たところがあるかもしれません」
「極光と光、関連はありますからね。勉強になりそうです」
「いえいえ。あなたの戦い方は、すでに独自の方向性で完成されていますよ。下手に私のやり方を取り入れると、恐らくは逆にバランスを欠きましょう」
通路を進みつつ、ベナウィさんと香苗さんが話す。この二人、俺とリンちゃんがそうであるように戦闘スタイルが似通っているみたいだ。
《極限極光魔法》……字面がすでにやばい。香苗さんの《光魔導》も大概な性能だったのに、それに輪をかけて破壊の権化な感じがする。
ただでさえS級だし。もしかしなくても香苗さん以上の魔法を見ることになるのかもしれない。
次の部屋に辿り着く。これで四部屋目、ここを抜けると目的地の最深部だ。
待ち受けるモンスターはコウモリの群れ。もちろんただのコウモリじゃない、羽根から毒入りの体液を飛ばしてくる毒羽バットだ。
毒性は弱いけど、群れで来られるとそれなりに危険。そんな厄介者が、大挙して部屋の天井に逆さになって連なっていた。
「ふむ。私の戦いをご覧いただくにはもってこいですね」
そんな、危険な部屋に一歩踏み入れて、なお。
ベナウィさんは無表情にて、静かな余裕を持って佇んでいる。部屋の一歩外から見守る俺たちが注意深く見守る中、彼は、戦いを始めた。
「《極限極光魔法》、ライトレイ・バースト」
一言。ポツリとした宣告、瞬間──視界を埋め尽くす閃光。
轟音と共に、ダンジョンそのものが大きく揺れた!
「うおおおおおおっ!?」
「これはっ!?」
「む……っ! 泰山、鳴動!?」
突如として現れた光は熱を伴い、部屋中に乱反射して白熱して破裂する!
甲高い、何かのサイレンのような音が次々、響いては消えて響いては消える。その都度、視界は明滅を繰り返す。
爆裂だ……これは。あるいは、爆発だ。
何が起きているのか視覚では分からないまま、ただ直感的に、触覚と聴覚から得る情報で推察する。
ベナウィ・コーデリア。彼の操る《極限極光魔法》は、破滅的なまでの大火力広範囲爆裂!
しばらくそんな、ただ炸裂が続く時間が、約3分ほど。
ようやく収まる頃に、俺達の前に広がっていた光景は。
「め、めちゃくちゃだ……」
「やりすぎましたね……失敬、技の選択を間違えました。私の良くないところです」
壁も床もぐっちゃぐちゃに崩壊して、もはや部屋とも呼べない代物になった空間と。
頭をかいて、気まずげにしているベナウィさんだった。