攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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光と影、表と裏、二重の人格

 少しばかりの休憩も終わり、俺たちは立ち上がった。これまででお互いの戦い方も把握できたし、次でいよいよ最深部だ。

 当たり前だけど誰一人として消耗はない。最上級探査者であるところの香苗さんとベナウィさんはもちろんのこと、俺もいたって元気そのものだ。

 リンちゃんなんて休憩中でさえ、闘志を漲らせてそわそわしていたくらいだ。一族の悲願達成が近いから、どうしてもそうなるものなんだろう。

 

 最深部への通路を歩く。真っ直ぐな道の先、決戦スキル保持者が待ち受けている。

 気配はすでに感知している──一人だ。だが、不思議なことに異なる気配も感じる。重なっている。まるで白の上に黒が重なって灰色になっているような、通常ではない感覚だ。

 

『混ざり合っている、いえ、取り憑いている? ですかね、この感じ。本来一つだけの魂に、別の魂が被さっています。こんなこと、普通はあり得ませんけど……システムさんが絡むこと、ですしねー』

 

 リーベがため息混じりにぼやいた。すっかり彼女の中で、システムさんへの信頼は地の底らしい。

 まあ、自分の知らないところで色々と動かれていたことに、大分、怒ってるみたいだしな。まして昨日今日の話ならともかく、少なくとも150年は隠れて企まれていたことになる。

 信頼関係の上では、中々に致命傷ものの長さだ。

 

 念のため、リンちゃんたちにも伝える。待ち受ける何者か、魂とも言うべき何かが二つ、重なっているっぽいと。

 それが何を意味するのか、俺たちにとって良いのか悪いのかも定かではないが……それを聞いてリンちゃんは、不敵に笑った。

 

「是非も無し。星界拳、すべてを撃ち抜く。魂二つ、ならまとめて蹴り砕く。我ら一族のクンフー、重ねた想いと魂……押し止めるなど、魂二つどころか百でもきかない」

 

 凄まじい戦意の高揚ぶり。幼げな顔付きに似合わないほど、獰猛かつ美しい。野生を剥き出しにしたこれは、虎だ。

 その背中から、まさしく代々受け継がれてきたのだろう星界拳の矜持を感じ取る。96年もの間、一つの血族がひたすらに鍛え上げ磨き上げてきた流派の、凄絶な歴史がそこには示されているように、俺には思えた。

 

 やがて最深部の部屋に辿り着く。いつもは、ダンジョンコアが中央柱に埋め込まれているだけの、淡く光る部屋だ。

 ところがそこに柱はなかった。当然、ダンジョンコアも。

 代わりに一人、まっすぐ立ってこちらを見据える姿。凛とした佇まい、波がかった金髪を後ろ手にまとめた、美しい顔立ち。

 俺たちは、この人を知っている。ていうか午前に見たぞ。

 

「ソフィア……さん?!」

「うふふ。さっきぶりですね、みなさま」

 

 WSO統括理事、ソフィア・チェーホワ。

 先代アドミニストレータその人が、そこにいた。

 相変わらずたおやかに微笑みながら、俺たちに言ってくる。

 

「ずいぶんと暴れられましたねえ。振動がここまで伝わってきました……大方、ベナウィさんのやったことなのでしょう? うっかり力加減を間違えたとか、そんな感じですか」

「そ、それはまあ、そのとおりですが……いやはや、なぜここにいらっしゃるのでしょうか、ミス・チェーホワ」

「まあ! それはもちろん!」

 

 冷や汗をかくベナウィさんの言葉に、彼女は可憐に笑った。

 この場に似つかわしくないほど、美しい笑顔だ。思わず身構える。

 リンちゃんも、香苗さんもそれは同様だった。それを見たソフィアさんが、いきなり両腕をばっ、と広げた。

 

「──私が、私たちこそが。決戦スキルを保持し、フェイリンさんに試練を課す者だからですよ。ふふ、ああ、この時をどんなに待っていたことでしょう!」

「この場にいる以上、予想はできていましたが……」

「私、たち? ……統括理事、お一人様」

「いいえ? 違いますとも。私たちはたしかに、ここにいます」

 

 言うやいなや──彼女の顔付きが劇的に変わった。

 穏やかな眼差しは感情を失い、鋭く、冷たいものへと変わる。微笑みを絶やさなかった口元はキュッと閉められ、横一文字に。

 

 何より表情が、あまりにもさっきと違っていた。完全なる無表情。

 人間にできる、顔なのか、これが。

 まるで別人に見える。

 

『いえ……これは! 本当に別人です!!』

「なに……!?」

 

 叫ぶリーベ。ソフィアさんが、ソフィアさんじゃない?

 咄嗟に彼女を見る。ソフィアらしい誰かは、驚くほど色のない表情で、じっとこちらを見ている。

 リーベが続けて叫ぶ。

 

『今の彼女はソフィアじゃない! ソフィアに取り憑いていた、何か別の魂です!』

「御名答。さすがにかつての同胞ともなれば、気付いてくるな」

「…………!」

「? え、何です?」

 

 口に出してない、脳内だけでの俺とリーベのやり取りに反応した……! こいつ、端末と同じくリーベに気付いている!

 戸惑う香苗さんたちに構うこともできず、俺は咄嗟に考えた。

 

 何より、かつての同胞? リーベのってことか?

 それってつまり、目の前の彼女は、ソフィアさんに成り代わった何者か、とは。

 まさか!

 

『…………精霊知能。察するに、ソフィアまでのアドミニストレータをサポートしていた個体ですね』

「いかにも。今や受肉し独立した命となったが……ワタシはかつて精霊知能と呼ばれたモノ」

「リーベの、同僚か……」

 

 ソフィアさんと共に戦ったであろう、ソフィアさんにとってのリーベ的存在。

 目の前でソフィアさんと切り替わったモノは、厳かに告げた。

 

「我が名はヴァール。先代アドミニストレータ、ソフィア・チェーホワと肉体を共有するモノ。かつて邪悪なる思念に敗れた……敗残兵である」

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