【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー/天鐸龍
「スキル《救いを求める魂よ、光と共に風は来た》ですがっ。紛れもなくこれは、唯一無二の効果です!」
コーヒーのおかわりを頼みつつ、興奮して若干、声音が荒ぶる御堂さん。落ち着いてほしい、他のお客さんの迷惑になっちゃう。
だがそれより俺は、俺のスキルが他にないと言われたことに引っかかりを覚えていた。
「唯一無二、というと……類似スキルすらない、と?」
「いえ。特効付与自体は極稀に、極めてレアですがあります。虫型だったり、幽霊型だったりとモンスターの種類は絞られますが」
モンスターって言っても色々と分類がある。虫みたいなやつらだったり、ゾンビみたいなやつらだったり、あるいは鳥とか、人形みたいなのもそれぞれ種族が豊富にいる。
そしてたまーにだけど、そうした種族単位で特効効果を持つスキルを得る人も、まあいなくもないらしい。
だがそうした人たちのそういうスキルと、俺のスキルでは根本的に違うのだ。
「唯一無二というのは公平くんのスキルの場合、そうした縛りすらないことです。おわかりですね?」
「……『モンスター』そのものへの特効」
「前代未聞です。モンスターならば何の区別もなく、公平くんは特効効果を発揮できる。換言すればあなたは、この大ダンジョン時代そのものに対して究極とも言えるアドバンテージを獲得したのです!」
究極て。いやまあたしかに、とんでもなさすぎる効果だけれども。
だけどさすがに、この100年続く大ダンジョン時代そのものへの特効なんですよとか仰られても、またまたご冗談をと言いたくなる。
言いたくなる、んだけど……称号《次なる時代をもたらす人》がなあ……
御堂さんの妄言に、そこはかとない説得力を生み出しているのが質が悪い。
前門の御堂さん、後門のシステムさん。おめーら打ち合わせでもしてんのか? って感じのツープラトンだ。
そして。問題はもう一つある。
いやむしろこっちのが問題児度は高い気がする。
スキル《救いを求める魂よ、光と共に風は来た》の特効効果対象は、モンスターともう一つある──邪悪なる思念。
わざわざモンスターと別枠で書いてあるところにとてつもない厄を感じる。誰がどう見たってこんなもん、ヤバい匂いしかしないじゃないか。
こっちについては御堂さんも思うところがあるみたいで、先程よりはトーンダウンして、慎重に、冷静に言葉を選んでいくようだった。
「……もう一つの特効対象『邪悪なる思念』についてですが。これは正直なところ、私にもよく分かりません。これこそ本当の意味で前代未聞です。他のスキルにおいては、類似表現すら見当たらないでしょう」
「モンスターとは別ってことなんですかね」
「『および』と記載があったのなら、そうなるのでしょうね。邪悪なる思念……モンスターですらない、あらゆる存在の邪念を対象にしている? 例えば人間でさえ、邪悪であるならば特効の対象となる、と?」
「……何それ怖ぁ」
我がスキルのことながら、推察を聞くだにゾッとする話だ。
邪悪ならモンスターもそれ以外もお構い無しで10倍特効って何の冗談だ。ワルモノ絶対殺すマンか、俺は。
そんなスキル、どういう意味があるんだ。スキルは探査者に与えられるもので、探査者はダンジョンを攻略する者たちだ。
だったら、スキルはダンジョンにのみ関係しているのが道理じゃないのか?
「モンスター以外にダンジョン絡みで、何か邪悪なのがいたりするんですかね」
「ふむ……ダンジョンに生息しているのは常にモンスターだけ、というのが定説ですが。発見されていないだけで、別な何かがいるのかもしれませんね」
もっとも、何をもって邪悪なのか、そこからして理解に苦しむところですが。
そう呟く御堂さんに、それもそうだと同意する。誰の目から見て邪悪なのか。人間からか? それとも、システムさんからか?
うーん、いよいよシステムさんが俺に何を求めているのかが分からなくなってくるなあ。
なんとな~く、ヒントは散らばってる感あるんだけど。
過去の称号やスキル、そしてシステムさんのアナウンスを思い返す。
「……武器を使わせない。傷つけること、殺すことを諌めてくる」
「公平くん?」
「次なる時代をもたらすことを期待している。魂を救うこと、邪と悪と魔を照らす? ことを仄めかしている。モンスターと邪悪を打ち倒す力を渡してくる……あれ? これって」
まさか。いや、もしかしてだけど。
情報を羅列していき、やがて、一つの仮説が頭に浮かぶ。
──スキル《救いを求める魂よ、光と共に風は来た》の特効対象のメインターゲットって、モンスターじゃなくて邪悪なる思念の方じゃないのか?
システムさんは、邪悪なる思念とやらを俺に倒させたくて、このスキルを渡してきた? でもって特効対象が限定的すぎるから、オマケ程度でモンスター特効も付けてきたんじゃないのか?
「邪悪なる思念ってのが何なのか分からないけど、これまでに得た称号とスキルの解説文ってほとんど全部、魂を救うとか邪悪を倒すとかソッチ系に偏ってる」
「つまりはシステムさんが公平くんに異常なまでの称号とスキルを獲得させる理由が、邪悪なる思念を打倒するためであると?」
「……いや、あくまで推測ですから。案外、システムさんがくじ引きで当てたスキルを、適当にバラまいてるだけの可能性もないこたーないですしね」
あんまり妄想で過度なことを考えるのは止めよう。視野が狭まる。
だいたいそれじゃあ、探査者の先人たちが血道を上げてきたモンスター討伐やダンジョン踏破が、まるで些事みたいに扱われることになるじゃないか。
それはあまりにも失礼な発想だと思う。俺にだってそのくらいの分別はある。
けれど、どうしても疑念は消えない。
邪悪なる思念。
俺は、言いようのない不安を感じていた。