攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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ソフィアを影から支えるモノ

 ソフィアさんからヴァールへ。人格のスイッチが為されてから、WSO統括理事たる彼女はこれまで一切手を付けてこなかった肉類にも手を付け始めた。

 上品かつ優雅な仕草でナイフとフォークを操り、ステーキからピザから寿司からフライドチキンまで、特に問題ないと言わんばかりに食べ始めたのだ。

 

「ありがたく頂戴する…………うむ、さすがに美味い。山形公平からこちらでの食事は絶品だと聞いていたが、これは称賛に値する味だな、たしかに」

「お褒めに預かり光栄です。ふむ、本当に切り替わった途端、何から何まで変わりましたね。身体はまったく同じだというのに魂が、人格が変わればこうまで別人になるとは。興味深い現象です」

「っていうかめっちゃ食べてるんですけど。そんなんだったらさっきのソフィア・チェーホワも結構我慢してたのかな、野菜しか食べられないけどひもじいーって」

 

 さっきと違って健啖ぶりを見せつけるようになんでも食べだすヴァールに、織田とオノスケリスは揃って興味津々だ。

 一つの身体に複数の魂なんて状態、ましてやそれらが入れ代わり立ち代わり表舞台に出てくるパターンなんてそりゃ珍しいもんな。気にもなるだろう。

 

 これはいわゆる多重人格──解離性同一症とは別の話だ。一つの魂が何らかの要因により複数の人格を形成するのとは異なり、ソフィアさんとヴァールはそもそも別人、別々の魂だからね。

 だから身体は同じでも、魂が切り替わればまさしく別人になるのだ。お互いそっくりさんって感じかな? どちらが主体でどちらが補体とかって話でもなく、まさしく二人は二つで一つなわけなのだ。

 

 オノスケリスから、さっきのソフィアさんの食事情について尋ねられてヴァールは食事の手を止めてグラスに注がれているミネラルウォーターを軽く口に含んだ。

 これもまた、礼儀作法とかマナーに細やかな印象を受ける丁寧な仕草だ。表向きの外交とか政治についてはソフィアさんが基本的に対応していたとはいえ、ヴァールのほうも当然そのへんは完璧なのだ。綺麗な素振りだよ。

 

「ふう……ソフィアはそもそも食欲自体があまりないのだ。それゆえ興味関心も薄く、そこに肉食忌避もあるため少量の菜食で満足する傾向にある。摂取エネルギーや栄養バランスの面で言うならば、あまり好ましい状態でもないがな」

「そこをヴァールが補ってるってわけだぜ。ソフィアが食えねーもんでもご覧のとおり、食えるからなァ。統括理事としての仕事もありゃ探査者としても動くんだから、食わなきゃやってられねぇわな」

「そういうことだ。ソフィアが食べられない、食べたくないというのであればそれは当然尊重する。しかし現実問題として身体はエネルギーと栄養を要求してくるのだから、そちらのケアも欠かすことはできない。それゆえにワタシが食べるのだ……幸い、ワタシ自身は食事という行為は嫌いでないからな」

「そっか。そーゆーところで言うならアンタ、ヴァールのほうはソフィア・チェーホワのアシスタントでありメンテナンス役でもあるわけなんだね」

 

 納得してオノスケリスはグラスのワインを飲み干した。すぐに手づかみで近くのボトルを掴み、手酌でなみなみ注ぐ。

 他の面々、俺とかミュトスとかには後ろに従者さんがいて都度、あれこれお世話を焼いてくださるんだけどオノスケリスにはないみたいだ。細かいところで賓客ではあるけど過度な待遇はしないぞ感が出てくるなあ。

 オノスケリスも慣れているのか問題ないみたいだし。

 

 ソフィアさんのある意味でのメンテナンス役。今、そこな悪魔はヴァールをそう評したけどある意味では正解だろう。彼女はここに至るまで徹底してソフィアさんの裏の顔、影であり続けている。

 そうして今言ったように日常生活に必要な栄養やらエネルギーの摂取とか、ソフィアさんに手の届かない部分への配慮とかを受け持っているのだ。そこには当然、オペレータとしての活動も含まれる。

 

 すべてはソフィアさんに統括理事としての仕事に専念してもらえるように。そして少しでも安らかなひとときにありつけるように。ヴァールはまさしく、縁の下の力持ちをやってきたんだ。

 これもまた、彼女なりの贖罪なのかもしれない……世界に対してでなく、ソフィアさんに対しての。かつて庇われ、彼女を喪うことでしか生き延びられなかったことについての、哀しい罪悪感の発露か。

 

「ワタシはソフィア・チェーホワの影だ。裏だ。ゆえに表に立って光を浴びるべきあの子を支えることになんの異論もない。むしろ歓びですらある……詳しくは言わんがな」

「ふーん? ま、オノスケリスちゃん的には今となっちゃどーでもいーですけど。そんなことよりチキン、チキン!」

「呆れた悪魔だ、サークルを失った途端にそれとはな……だがまあ良い、そうしている間はこちらもとやかく言わん。また現世に悪影響を及ぼす形で動き出すようならば、その時こそ容赦はせん。それだけだ」

 

 もう自分は無関係ゾーンですなどと気楽なことを言っているオノスケリスに釘を刺す。ヴァールの表情は常と変わらず無に近いが、それでもその瞳は使命感と責任感の光を強く放っている。

 WSO統括理事として。ソフィアさんの裏人格として。彼女の強い覚悟を感じる、力ある眼差しだった。




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