攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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藤近功から見た大ダンジョン時代

 心底からソフィアさんを尊敬しておきながら、彼女を否定すべくテロリズムにまで走った意味不明の男、藤近功。

 その怪奇極まる内心が、理論が、一体どのようにしてもたらされたのか……それが今からの取り調べにて分かろうとしていた。

 

『なぜ、唯一無二の偉人とまで賞賛する相手に対してテロリズムを行うに至った? 尊敬しているのならば、少なくともそんなことはしない』

『するさ! するとも! 尊敬しているからこそ乗り越えたいと思うものだろう!? ……子供の頃から憧れていた。テレビに映る魔性の不老。誰もを傅かせるカリスマ、そして瞳に宿す信念の輝き。恥ずかしい話ですらあるがな、正直に言うぞ、俺の初恋ですらあったよチェーホワ統括理事は』

「えぇ……?」

「まさかの初恋泥棒……」

 

 まさかまさかのカミングアウト。幼い頃から憧れていたという話に付随して、藤近は自らソフィアさんこそが己の初恋だとさえ語ってみせた。

 尊敬どころか思慕の対象だったんだ。テレビ越しに見る永遠の探査者少女に、心を奪われていたのだという。

 

 エリスさんが唖然とつぶやくのを耳にしたけど、まあ実のところそれ自体は別段おかしなことでもないって聞くからね。

 なんせ永遠の美貌と権威、そして英雄的活躍だもの。ソフィア・チェーホワは幅広い世代の老若男女問わず人気者で、特にやはり男性人気はいつの時代もアイドル顔負けだ。

 

 前に親元に帰った時にも、家のじいちゃんが言ってたもんなあ。若い頃はソフィアさんとあと、マリーさんがアイドルみたいなものだったって。

 じいちゃんが子供の頃からずーっとソフィアさんは今のまま変わらずなわけで、それを100年もの間やってたらそりゃ、それこそ世界中の少年達の初恋を少なからず奪っていても納得はできるよ。

 

 まあ、当の本人は困惑というか迷惑そうに微かに眉をひそめているけど。

 そりゃそうだよな。テロリストの親玉に初恋だったとか、動機の供述してる真っ最中に言われてもねえ。

 

『そんな俺だから、チェーホワ統括理事へのあこがれが高じて探査者マニアになった。大学に進学してカレチャに入ったのもその一環だ……楽しかった、最高の時間だったよ。仲間達とともに探査者界隈について語り明かし、イベントを開き探査者達とも交流する青春だ』

『……その青春の影で、反探査者活動もしていたようだが?』

『ふははははっ!! その通り! 探査者へ傾倒するのと裏腹に、俺は探査者界隈に対する嫌悪をも抱いていたんだよ、いつの間にやらなっ!!』

 

 サークルの前身、大学内での探査者同好会カレッジサーチャーズ。そこで活動していた頃の藤近は、まさしく青春を謳歌する陽キャだったんだろう。過ぎ去った過去を想う彼の表情は、寂寞に満ちた愛しさを孕んでいる。

 しかし……すでに捜査の結果知れているのだ。そうした輝かしい青春の裏で、藤近は同時に反探査者社会運動にも身を投じていた。

 

 反探査者、あるいは反能力者運動。直球に今の大ダンジョン時代体制と探査者、能力者の在り方を非難批判する一つの思想だ。

 真人類優生思想の真逆バージョンってところかな、能力者を人類の敵かってくらいに見なして排除を訴える思想で、時折この国でもデモとかやってるそうなのをネットニュースとかで小さく取り上げたりしているのを見かける。

 

 さすがにサークルとか倶楽部並のテロリズムには至ってないようだけど、分類としては間違いなく同じカテゴリに入れられるだろう過激思想だ。

 そもそも内部の方向性は細かく分かれていたようで、そんなだからまとまりも緩いほうなんだとか。

 

 ともかく、そんなところに藤近はいた。

 特に非探査者の権利向上を訴える運動に積極的に参加していたらしく、社会的見地から探査者と非探査者を見、その上で非探査者に肩入れしていたらしいことがすでに、おまわりさんの捜査にて判明している。

 

 そうした来歴について触れたところ、藤近はやはり豪快に笑って肯定する。何が悪いのかと言いたげな呵々大笑。

 実際、その思想自体は悪いことでもないんだけど……疑念は尽きない。カレチャに入って青春を謳歌するほど探査者を愛していたのに、同時に反探査者運動に参加するほど探査者を憎んでもいたのは、どういう心持ちだ?

 

『……カレチャに入り探査者達と直に接する機会も増えた。いろんな人達と出会い、話を聞かせてもらうこととなって改めて思ったことがあった』

『何をだ』

『探査者も人間である、という当たり前のことだよ。人知を超えたスーパーパワーを得ても彼らには個別の人格があり、思想があり、心がある。そしてそれに伴う自由と権利も、ある。非能力者の俺とまるで変わらない、かけがえのない一個の人間なのだと思い知らされたんだ。決して超人的なヒーローじゃなく、彼らはたしかに愛すべき人間だ』

 

 瞳を閉じて語る藤近。そこにあるのは探査者へのリスペクトが色濃い。カレチャは探査者を招いてのイベントを頻繁に行っているし、彼がいた頃も例に漏れずそういうことをしていたんだろう。

 そして直接、探査者と触れる機会を得た。探査者もまた人間であり、ステータスを持っていることを除けば自分達となんら変わりないヒトなのだと知った。

 

 ──だがそれこそが、藤近を決定的に歪ませたものだった。

 それまでの笑顔、余裕から一転。憎々しげに忌々しげに顔を歪める男は、振り絞るように憎悪の声色でつぶやいた。

 

『そして気付かされたよ……! 俺達と変わらない彼らを使い潰して殺している、この時代のおぞましさに! そうさせている社会の恐ろしさ、そこにのうのうと生きる自分達、非能力者の醜さにっ!!』

『…………!!』

『何より! そんなおぞましく恐ろしい、醜い世の中を構築したのが敬愛する永遠の探査者少女、ソフィア・チェーホワだということにだっ!! 彼女は、俺達非能力者を護るために彼ら能力者を、探査者を奴隷にまで貶めたんだ!! 自分さえ含めてな!!』

 

 叫ぶ。憎しみと哀しみをありったけ込めた声色で藤近は叫んだ。

 現行の大ダンジョン時代の在り方……探査者が人々をダンジョンとモンスターから護るという基本構造。それそのものとそれをもたらしたソフィアさん。

 

 さらにはそれらすべてを許容して生きている自分達非能力者の在り方にさえ、彼は憎悪を抱いていたのだ。




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