攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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トライ・ディザスター

 いるはずのない者が、そこにいる。

 邪悪なる思念、その端末。かつて150年前にソフィアさんを殺した張本人が、突然俺たちの前に姿を表し、今度はヴァールを見下ろしていた。

 

「君は……前の精霊知能か。まだ生きてたんだね? 前のアドミニストレータもそこにいるんだ。へえ」

「貴様、なぜここに」

「そりゃあいるでしょ。ダンジョンは元々僕のところのもので、そしてここには今のアドミニストレータがいる。愛しい人がね。僕が様子見に来るのは当然じゃない?」

「誰が愛しい人だ……」

 

 あっけらかんと、いっそ親しげに話しかけてくる端末。中性的な美貌が浮かべる笑みは、爽やかですらある。

 こんな状況が、前にもあった。以前の探査者ツアーの時、関口くんが邪悪に貶められようとしていた時だ。

 あの時もこいつはどうしたことか、すでにダンジョン内部にいた。思えば関口くんを追ったにしてもおかしな話だ。先回りなんて、そんなことが早々できるものなのか。

 

『……できますよ、こいつなら。ダンジョンという、概念そのものを内包するこいつは、きっと』

「ダンジョン内のどこにでも、現れるか……ワールドプロセッサのファイアウォールなど、貴様には関係なさそうだな」

「いやあ、普段はこんな、出歯亀みたいなことしないんだけどね?」

 

 リーベとヴァール、二人の精霊知能の言葉に、端末は笑って応える。

 ていうかマジかよ、こいつ、ダンジョンならどこにでも出入りできるのか。道理で、関口くんを待ち伏せたりできたはずだよ。

 となると初対面の時とか、ツアー中のバイキングの時とか、この間の商店街の時とかも。近くにダンジョンがあって、そこから出入りしてたみたいだな、これは。

 

「愛しいアドミニストレータが、この辺でどんちゃん騒ぎやってるみたいだしさ。今来てみたんだけど……お取り込み中だったら悪いね。何してたの? 僕を倒すための、無駄な足掻きかな」

「無駄、なんかじゃない……!」

 

 せせら笑うその言葉に、リンちゃんが痛む身体を抑えつつ立ち上がった。さすがにもう、戦えそうにはないだろうけど、それでもやつを睨みつける。

 今しがたヴァールと死闘を繰り広げ、その果てに決戦スキルを獲得したリンちゃん。同時にシェンの悲願を達成し、ヴァールの想いさえ背負った彼女にとって、それらを無駄な足掻きと一笑に付されたことは堪え難いのだろう。果敢に叫ぶ。

 

「お前が、倒すべき敵なら……! 私たちは、必ず倒す! それだけのもの、多くの人、たくさんの時の流れから受け継いできた!」

「威勢の良いお嬢さん、熱血してるね? 嫌いじゃないけど、残念。僕はそういう手合をたくさん、たーくさん食べてきた。世界ごとね」

「世界ごと……?」

「せっかくの余興、面白くなりそうなら見せてあげようか。今日はね僕、ちょっと用意をしてきたんだ」

 

 そう言って、端末はパチン! と指を鳴らした。

 瞬間、やつの周りに現れるナニカ。三ついる。

 

 鳥のような、龍のような。翼の生えた化物。

 四足の、象とも虎とも、はたまたライオンにも見える化物。

 タコを極端に大きくした、けれど鮫の頭を持つ化物。

 いずれもとてつもない強大な気配を噴き出している。威圧感だけで、この空間が歪んで千切れそうなほどだ。

 

「こ、これは!?」

「モンスター……? S級ですら可愛く見えますね……!」

「こいつら……つよい……!」

 

 香苗さんも、ベナウィさんも、リンちゃんも。

 揃って突如現れたこいつらの謎の気配と威圧感に圧され、それでもどうにか立ち向かおうとしている。

 それを見て、俺も改めてやつらに向き直った。

  

 異形の化物、そもそもこいつらはモンスターなのか?

 それらしい気配はしない。だが、伝わってくるものがある──絶望。嘆き。苦しみ。

 なぜか目の前の、邪悪なはずの三つの化物たちから伝わってくる。

 

「三界機構ってね。僕がこれまで食ってきたものを、それぞれ分けて形にしている。僕の本体に無限の力を与えてくれるかわいいペットたちで、代わりに僕の本体はこいつらに無限の命を与えてあげているのさ」

「三界機構……!?」

 

 得意げに語る端末は、まるで子どもがオモチャを自慢するようだ。

 だけど、三界機構? たしか、決戦スキル関連の称号の解説に、何かそんなのがあったな。

 リーベ、何か知ってるのか、こいつら。

 

『……三界機構は、これまでに邪悪なる思念が食らってきた、三つの世界を下僕としたモノ。やつが、何をおいても滅ぼさねばならないモノであることを、何より証明するモノたちです……!』

 

 ……は? 三つの世界? え、何? どういうこと?

 

 いきなりぶっ込まれてきたワードに、理解がてんで追いつかない。何なら香苗さんとかベナウィさんなんて、本気で話について来れてないもんだからとりあえずいつでも仕掛けられるように殺気立っている。怖い。

 戸惑う俺に、構わず端末は続けて言った。

 

「それぞれ魔天、断獄、災海。元々の姿をイメージしたネーミングと姿、イカしてるでしょ」

『イカれてる、の間違いですよー……!!』

「襲われ、食われ、そして今では玩具同然か……憐れだ、な」

 

 激怒するリーベに、ヴァールまで何やら言っている。憐れんでいるのか、その、三界機構に。

 鼻で笑う端末が、憐れみを嘲る。

 

「僕が食ったものだ、僕がどうしたって構わないだろ? それに憐れみなんて、ふふ……」

「……何が、おかしい」

「おかしいさ。だってもうじき、君らもこうなるのに。あははは! いずれ成るものを憐れむなんてね、虚しい話じゃないか!」

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