攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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師匠と弟子と─罪には罰を。けれど咎人には寄り添いを─

 この部屋から取り調べ室まで、そう距離は遠くない。それゆえにすぐ、モニターの向こうに神谷さんの姿が確認できた。

 あるいは俺からすると初めての、師弟が落ち着いて対面した瞬間だ……今や師弟でありつつも敵味方という間柄、それゆえに緊張を孕んだ神谷さんの入室だった。

 

『! ……神谷先生』

『…………アレク、サンドラ』

 

 互いの名を呼ぶその姿に親しみはない。アレクサンドラは驚きとばつの悪さ、神谷さんは哀れみと後悔を滲ませた、それぞれ距離感の遠い表情を浮かべている。

 やるせない再会だった。きっと、事件が起きてアレクサンドラが動き出すまでは決してこんな関係ではなかったんだろうにな、この二人も。

 

 おまわりさんの隣に椅子が設けられ、そこに座る神谷さん。必然的にアレクサンドラとは面と向かい合う形になる。

 机一つを挟んだ距離。けれどそこには海より深く空より広い溝があるのを俺はたしかに感じ取った。道を違えた者と、それに気づけなかった者との間にある、絶望的なまでの断絶を見たんだ。

 口火を切ったのは、アレクサンドラだった。

 

『お久しぶりですね、先生。特にお変わりないようで何よりです』

『……ええ。あなたは、ずいぶん変わってしまったようですが』

『そうですか? まあそうでしょうね。今やどうしたことかステータスは封印され、身体もこの通り。上半身はまだしも下肢が、不思議とはっきり分かるほどに絶望的です。どうやったのやらシャイニング山形も、雑にウーロゴスから引き剥がしてくれたもので』

 

 挨拶。そこから始まるやり取りに常に含まれているのは、やはり皮肉と嫌味だ。特にアレクサンドラは世のすべてを呪い嘲るかのような笑みを浮かべ、その場にいない俺をも嗤っている。

 まあ、実質的に引き剥がしたのは俺じゃなくてワールドプロセッサなんだけども、彼女からしてみればそんなこと知るわけもないか。

 

 度々、ウーロゴスを引き剥がせるし引き剥がす的な発言をしていたこともあり、すっかり彼女のなかでは俺が身体を"こう"した犯人だと思っているみたいだった。

 その上でなおも、アレクサンドラは皮肉っぽく続ける。

 

『まったく、とんでもないイレギュラーでしたよあの子供は……ミュトスなる謎の女もそうでしたが、プレーローマ・アンドヴァリの力をもってしてなお及ばない力だなどと。アレでは倶楽部の連中も成す術なく敗れ去るわけです。甘く見ていた私は、ええ、認めるのも癪ですが敗れて当然でしたねえ』

『改めて聞くが、倶楽部の幹部ともつながっていたのだな』

『火野と鬼島の二人だけですがね。つまりは委員会からの出向者とだけです。ま、火野は個人的にもつながりのある輩でしたし鬼島は概念存在でしたので。火野の玩具だった青樹とかいう女や、なんとかって頭の悪い転移スキル持ちについては話をしたこともありませんよ』

 

 おまわりさんの質問にも素直に答える。そりゃあるよね倶楽部とのつながり、主に委員会からやって来ていた火野と鬼島だけみたいだけれど。

 反面、青樹さんとなんとかさん……翠川のことだろうな。についてはまったくノータッチだったようで、そこは俺にとっては少しばかりホッとする話だ。

 

 香苗さんの師匠である青樹さんを襲った悲劇に、アレクサンドラまで絡んでいたなんて考えたくもなかったからね。

 まったく興味なくつまらなさそうに語っている姿は、少なくとも俺と香苗さんにとってはいくばくかの救いだろう。

 

 ──しかし、火野か。

 軽く語ったなかでもやはり、格段に想いの篭っているだろうその名その存在に、モニター越しの神谷さんは反応していた。

 火野源一。エリスさんを目当てに80年暗躍しつづけた本物の怪人にして、アレクサンドラの実父。そして実母を狂わせ、アレクサンドラ自身の人生をも狂わせたと言えるすべての元凶。

 

『アレクサンドラ……教えてください。あなたと委員会、そして火野源一とのつながりやこれまでについて。私と出会うまで、出会ってからの一切を』

『先生。今さらすぎますよ、それ』

『分かっています。結局私は、あなたのことを何も理解せずに上っ面だけ手を差し伸べていました。そしてもう、今さら何をしようとすべては手遅れです。ですが……それでも』

 

 声を震わせて、アレクサンドラにこれまでのすべてを問いかける神谷さん。

 それはきっと、ここに至るまでのいくつかのタイミングで聞けたかもしれないことだったんだろう。けれどアレクサンドラの優秀さにかまけて問いかけることをしてこなかったというのは、他ならぬ神谷さん自身がこの間言っていたことだし後悔されていたことでもある。

 

 今さら。アレクサンドラが言うのも無理からぬことだ。

 けれど。それでも神谷さんは、背筋を伸ばして彼女へと、力強く告げた。

 

『それでもっ……もう何もかもが遅くても、私はあなたについて知りたい。あなたを導けなかったけれど、せめて今からでもっ』

『知ってどうすると言うんです、先生? 自分が最初から騙されていたことを知って、さらに私を嫌うんでしょう。私を憎むんでしょう。それか、私を憐れむんでしょう?』

『……そうですね。嫌い、憎み、憐れみ。その上でやはり、寄り添おうと努力します。今度こそ。あなたの贖罪を、一人きりではさせません』

『────うふふふ。優しい、とってもお優しい神谷先生! こんな私にまだ慈悲を向ける先生! …………ああまったく、あなたがあなたでなければどんなにか、まったく!』

 

 罪を憎み、悪を嫌い、アレクサンドラを憐れみ。そしてその上で寄り添う──神谷さんの誓い。今度こそ彼女は、師匠としての務めを果たそうとされているんだ。

 そんな想いが伝わったのか、そうでないのかは判然としないが。アレクサンドラはひとしきり哄笑して、どこか嘆くように天井を仰ぎ見ていた。




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