攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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どこまでいっても人間でしかない化物

 運命の出会い──そう言えるものがこの世にあるのならば、アレクサンドラにとっては神谷さんとの出会いがまさしくそうだったのだろう。

 委員会から受けた任務を果たすため、ある意味予定調和として果たした接触でも。彼女はたしかに、神谷さんとの出会いによって人生の転機を迎えたのだから。

 

『忘れもしません。それこそ永遠に生きることになっても、あの日のことだけは絶対に忘れない。神谷先生と初めてお会いした、あの日のことだけは』

『……私も、今も克明に覚えています。ダンジョン聖教の教会を視察した時に、突然弟子入りを志願してきたあなたのことを』

『いきなりのことで、その場にいたウォーレン司祭が激怒していましたね? 彼含め周囲からは元々、父親を知らず母も亡くした孤児ということで散々に嫌がらせを受けていましたが、その時にもこっぴどく言われました。"賤しい出自の下民風情"とかね』

 

 懐かしさに目を細める二人。今やすっかり変わり果てた関係だけれど、過去の出会いだけは今も、彼女達のなかで美しい思い出として残っているのだろうか。

 ……同時に、ダンジョン聖教内においてアレクサンドラがどのように扱われていたのかも知る。生まれ育ちによって迫害に近い目に遭わされてきたらしい、遠い昔の彼女のことも。

 

 皮肉げに語るアレクサンドラには、たしかにそのときを思い返しての憎悪と怒りが覗いて見える。

 数十年経った今もなお、軽んじられ蔑まれ不当に扱われた当時の境遇に対してずっと憎しみを抱えているんだろう。

 

 けれど同時に、そこでの神谷さんの行いをも振り返り、強い尊敬の眼差しを彼女に向ける。

 アレクサンドラ……本質的にはプライドが高く他者を見下しがちな女が、たった一人、地獄に落ちてもなお敬愛するその人のその行い。

 それは、他ならぬアレクサンドラのための義憤と叱責だった。

 

『私への言葉に、先生は即座に激怒してウォーレンを叱りつけていました。今から思えば信じられないことです……五代目聖女としていつも微笑みを絶やさなかった印象のあるあなたが、あの程度のことであそこまでキレたなんて』

『怒って当然です、激憤して当たり前です。生まれ育ちなど関係なく、すべての人は互いに互いを尊重し慈しみ合うべきなのですから。それをあのような無惨な言葉で踏み躙った者を諌めない選択肢は、たとえ聖女であろうがなかろうが私にはあり得ません』

『うふふふっ! 先生、神谷先生。私はずっと、あなたのそういうところを尊敬して愛しています。結局のところ私には決してないもので、理解できないものでもありますが……手を差し伸べてもらえた者として、その尊さと偉大さは分かっているつもりです』

『アレクサンドラ……それなのに、どうして……』

 

 直情的な神谷さんは、即座にその司祭さんを叱りつけたという。そしてアレクサンドラはその時たしかに、神谷さんを心の底から敬愛したんだ。

 明確に敬意を、愛情を示す。反面、その性質が自身にはあり得ないものだとも溢しながらも、彼女は師匠であり先代の聖女をまっすぐに見据える。

 

 悪に落ちても、元から悪でも。それでも善なる者の光の眩しさに、彼女は大きな影響を受けた。

 ……受けてもなお、変われなかった。初めて聞くのだろう弟子の心境に、嘆く神谷さんがどうにも悲しいよ。涙すら零しながらつぶやく姿に、アレクサンドラは微笑み返した。

 

『仕方ないですよ。私は結局、あの日にはもうすでに化物だったんですから。こんな、下らないお涙頂戴のエピソードなんてなんのことはない。ただの言いわけです』

『違いますっ! アレクサンドラ、あなたは──』

『化物ですよ。父に捨てられ母に呪われ、そして会ったこともないエリス・モリガナやソフィア・チェーホワを憎み、恨んだ。でもね、それらさえもつまるところ、私自身の"永遠に生きる"夢を叶えるための建前に過ぎないんです』

 

 自虐めいた言葉。

 なのに否定する神谷さんへと言葉を返すアレクサンドラは、あまりにも穏やかで当たり前のような表情をしている。

 受け入れている、のか? 自分のことを化物だと。

 

 父や母、そして恨み辛みのすべてをも建前にして夢を求める己をそう定めている彼女自身、自らを化物と認識していた、のだろうか。

 神谷さんの言葉さえ置き去りにして、続けられる言葉。

 

『あんなやつらなんて本当のところはどうでもよくてただ、私は私の永遠のために委員会に属してあなたに接触した。そして今もなお、そのことを間違いだと思えていない。こんな人間がいるわけないと、他ならぬ私自身が思いますもの』

『アレクサンドラ……』

『化物なんです、私は。きっと生まれた時点でもう、他者のことなど何一つ考えないココロのカタチをしていたんです。だからここまで来たんです。ああ、あるいは父親の血ですかね? アレも大概、人間じゃない輩でしたし。腐った血と魂の父娘というわけなんでしょう、つくづく生まれるべきでなかった生命ですとも。うふふふ』

 

 最後にだけジョークめいた口調で語る、アレクサンドラの本音に神谷さんももう、黙るしかない。

 どんな精神性をしていようが人間は人間だ。それだけは否定しようがない。けれど……アレクサンドラ自身は、実のところ自分のことを人間だと思えていなかったんだな。

 

 そう思うところさえ、やはり人間らしさの発露だろうに。

 自己認識さえ矛盾して歪んでしまっているこの女は、だからこそ俺には、どうしようもなく人間でしかないと思えていた。




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