攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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七代目の覚悟─受け止め、そして乗り越えて行け─

『神谷先生に頼み込む形で弟子にしてもらった私は、それから聖女候補として数年間をダンジョン聖教総本山、モリガニアにて暮らしましたね。信仰と修行の生活を、そこで過ごしました』

『当時のことはよく覚えています。あなたは、本当によくできた子でした。実力もあり勤勉でかつ清らかで、人望も厚く何より敬虔で──』

『言いわけめいていて、こんなこというのも嫌ですが。正直、信者としての生活は私にとっても本当に幸せなものでしたよ。委員会の使命や火野やモリガナへの想いがなければ、一生ああして暮らしていたかったほどに』

 

 ひとしきり自虐を済ませて、落ち着いたトーンでそれから先の話を語るアレクサンドラ。

 自らの心を人間のそれではない、火野源一と同じだと言ったその口から、しかしダンジョン聖教信者としての日々が語られていく。

 

 素直なまでに、信者としての生活が心地よかったと話している。嘘偽りなどないのだろう、神谷さんへの想い同様にダンジョン聖教での暮らしは彼女にとって救いとなり得た。

 けれどそこでもやはり、委員会としての自分や火野への愛憎、エリスさんへの憎悪……何より永遠に生きるという野望が彼女を支配していたんだな。

 穏やかで幸せな日々も、彼女を止めることはできなかった。

 

 それさえなければあるいは踏み止まれたものを、けれどそれがあればこそ、彼女はそこに辿り着けたのだ。

 つくづく残酷な巡り合わせと言うべきか。どうにも、やるせない話が続くよ。

 

「本当に言いわけばかり……見苦しいにもほどがありますね、アレクサンドラ」

 

 ふん、と近くで鼻を鳴らして声が聞こえた。シャルロットさんだ。これまで見えてこなかった怨敵のバックボーンを見聞きし、その上で見下げる目をモニターに向けて鼻で笑っている。

 当然の反応だ。シャルロットさんこそ、道を過ったアレクサンドラに半生を使い潰され、余命宣告まで食らうほどの地獄を見せられたのだから。

 そこまでやられた張本人の話など、何一つ響かないのも無理がない。

 

 この事実があるからこそ──無論、他の罪も含めてだけど──俺はアレクサンドラの境遇に心痛めることはあっても、決して彼女を赦すことはしないし手心を加えたりを願ったりもしない。

 どんなに悲しく苦しいことがあっても、それを土台に彼女はシャルロットさんにしてはいけないことをし続けた。命と尊厳を、踏み躙り続けた。

 

 その罪償いをしないことには、とてもじゃないけど同情するのは躊躇われるのが俺個人としての感覚だった。

 むしろ延々とこうした来歴を聞いている、シャルロットさんへ気を遣う。

 

「シャルロットさん……あなたにとって面白くない、不快な話がやはり続いているように思います。少し席を離すのも、あなたの心にとって大切ですよ」

「山形さんの言うとおりだ、シャルロット。加害者の事情など、被害者である君が聞いたところで腹立たしいだけだろう。後で要点だけ掻い摘んで話すから、今はその心身を優先するべきだ」

「お二方……いえ。お気遣いいただきありがたく思いますが、しかし」

 

 愛知さんも同様にシャルロットさんを心配していて、俺の提案に続けて言ってくる。

 どうしたことか彼女に対して極端に過保護な面を持つこの人からすると、アレクサンドラの事情などどうしたところで言いわけくらいでしかないのだろう。

 

 実際、アレクサンドラ自身ですら言いわけめいていると感じているのかちょくちょく、自虐混じりに供述しているしね。

 そこさえ含め、俺としてはどうしても思うところがあるわけだけど……シャルロットさんの立場を思えば、それは口に出すべき感覚でないのは間違いなかった。

 

 ともあれ、こうした俺達の言葉にも気丈にシャルロットさんは応えた。首を左右に振り、ここに留まる意志を示したのだ。

 周囲が気遣わしげな視線を向けるなか、彼女は凛とした声と表情のまま、モニターを見つめて言う。

 

「正直なところ、今の話を聞いていて怒りと憎しみで吐き気がするほどです。何を被害者面をしているのか、己を化物と定義づけていればそれで許されるとでも思っているのか、と」

「そうだね、シャルくん。それで良いんだ、君は……」

「やっぱちょっと一時退室して、休憩してきたら良いんじゃないの? シャル……」

「いいえ。だからこそ、ソレを理由に向き合うべきものから逃げることはしません。かつて一応にでも私を拾い上げ、師匠として振る舞いつつも私を甚振り続けたこの女を、正しく憎むためにも。そしてやはり《聖女》称号を取り戻し、仮預かりにでも聖女たらんとするためにも。私は、アレクサンドラのこれまでをもこの目この耳で受け止めます。受け止めた上で、否定します」

 

 力強い断言。エリスさんやアンジェさんに答える形で示したその意志は、恨み骨髄に達していながらもダンジョン聖教七代目聖女としての矜持と使命感に満ちている。

 すごい精神力だ……心の底から感服する。シャルロットさんはアレクサンドラのこれまでのすべてを受け止めて、その上で彼女に対する正しい形での裁きを望んでいるんだ。

 

 認定式の頃には間違いなく見られなかった姿勢だ。あの時点のこの人は余命のこともあり、アレクサンドラと刺し違えてでも復讐を果たすくらいの勢いだったからね。

 それが、法の下での裁きを望むに至ったのは、怪我が癒やされ余命も取り戻したことで聖女としての使命感、責任感をより一層重視するようになったからだろう。

 

 どこまでも心が強い人だ。

 仮預かりというあたりどうしても御自身を正当な聖女として認められない節があるかも知れないけど、俺にとってはこの人は誰よりも聖女たる資格のある人だと思う。

 七代目聖女シャルロット・モリガナ……鳥籠を壊して自由の空へ舞い上がった少女の、覚悟の深さと強さがよく分かったよ。




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