攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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なぜシャルロットはアレクサンドラの支配から解き放たれたのか

 地獄絵図めいた修羅場から一転、しんと静まり返る取調室の、痛々しいまでの静寂がモニターからでも確認できる。

 嘆き、怒り、最後には悲しみの涙に暮れてしまった神谷さん。そんな彼女に力なく微笑み、けれどどうしたって反省の色だけは見せないアレクサンドラ。

 

 深い断絶だ。俺が見てきたいかなる師弟関係にあっても、もはやここまで相互理解が不可能な状況の二人はいなかった。

 もしかしたら香苗さんと青樹さんが、話の成り行きによってはこう成り果てていたかもしれないかな? ってくらいの破綻ぶりだ……

 少なくとも神谷さんからアレクサンドラに対しての信頼と信用は、もはや一欠片でさえも残っていないのだろう。

 

 けれど。それでも師匠として。神谷さんはアレクサンドラに寄り添うつもりでいるみたいだ。

 そこだけは変えられないんだろう。導こうとして導けなかった、それどころか真実に気づくこともできなかった身の上として、自身にはその義務と責任があると思っているのかもしれない。

 

『アレクサンドラ。罪を認めて償ってください。私は、何があってもあなたの側であなたの贖罪と更生を祈り、願い続けますから』

『昔から少しも変わらないですね、その強情で頑なな姿勢……先生らしくてやっぱり、そういうところも大好きですよ。うふふ、こんな化物を弟子にしてしまったこと、後悔していますか?』

『…………あえて本音で言いましょう。はい。あなたの本質を見抜けなかったこと、寄り添うことができなかったこと、そして道を糺すことをしなかったことまで含めて。あなたは、私の手には負えない人間です。弟子にしてあまつさえ聖女にさえ引き立ててしまったことは、お互いにとって不幸なことでした』

『うふふふふふ! ああもう、本当に正直でまっすぐな人なんですもの! ……これじゃあ恨もうにも恨めないし、憎もうにも憎みようがありませんよ。先生。私の先生……それでも私は、あなたの弟子になれて幸せですよ』

『っ』

 

 やはり神谷さん相手にだけは素直な、偽らざる敬意と感謝を込めて笑いかける姿が、今は神谷さんを追い詰めるだけの凶器にしかならない。

 アレクサンドラの言葉に傷ついた表情を見せて神谷さんは、そのまま項垂れてしまった。弟子に取ったことそのものを後悔し、アレクサンドラとの時間すべてを否定したも同然なのに……それでもなお慕ってくるのだから、やりきれなさがどうしてもあるんだろう。

 

 彼女とは旧知の仲であるマリーさんが、サン・スーンさんと並んで厳しい表情でそんな光景を映すモニターを見つめて言った。

 怒りと言うよりは苛立ちか。珍しくも温厚な印象の強いお二人が、ここに来て不愉快そうに鼻を鳴らしていたのだ。

 

「弟子はもちろん大概な輩だが、師匠も師匠で仕方ないね、まったく。自分自身の積み重ねさえ否定しちまうことはないだろうによ、ねえサン・スーン」

「不出来な弟子もここまで来れば、言いたくなるのも分かる話ですがね。しかし自らをも否定してしまっては、それこそ寄り添うどころか共倒れではないですか。これは後ほど、神谷司教にはよく言い聞かせなければなりませんな……弟子がどうあれ自分は自分、そこは切り分けて考えろと」

「今回の騒動でもそうだけど、昔からちっとも変わらなさすぎるんだよ神谷は。一本筋が通ってると言えば聞こえは良いが、要は不器用すぎるだけさね。こりゃ、アーデルハイドにも一報入れて叱らせるかね。私らよりかつての相棒の言葉のがよく効くだろうさ」

 

 揃って不満に思う内容は、神谷さんが真っ直ぐすぎて御自身をさえ傷つけてしまっているってところか。

 アレクサンドラとの日々を完全否定して、そこにたしかにあった自分自身の意志や希望、望みや祈りさえ否定しまっている。

 

 弟子と完全に訣別するつもりでのそうした発言ならまだ良いんだけど、神谷さんの場合はアレクサンドラに最期まで寄り添うつもりみたいだからなあ。

 そうなると神谷さんはこれから先、かつての自分自身さえ否定し続けながら生きることになる。そんなのはさすがに見ていられないよ。マリーさんとサン・スーンさんが不安に思うのも無理からぬ話だ。

 

 神谷さんのメンタル面のフォローは後程、こちらのお二方からもしっかりやっていただくべきだろうね。

 そう思いながらもモニターを見る。シャルロットさんを甚振る生活の先にあったものを、アレクサンドラはいよいよ供述していた。

 

『ま、どうあれそんなふうに甚振ったシャルロットには、実のところ合理的な理由もあって心身ともに極限まで痛めつけたんですけれどね。私に絶対服従する人形に仕立て上げて、その上で聖女にして裏から私がダンジョン聖教を掌握するという目的のためでもあったんですよ』

『……それが、けれど他ならぬシャルロット様御自身のお力によって頓挫した』

『まったくもって解せない話です。私の見立てではハッキリとあの娘の精神は崩壊していたのに。だのにどうして私に逆らい、あまつさえ復讐心を抱くに至ったのか……そんな余力が一体、あの小娘のどこにあったというのか? そればかりは私にも分かりかねますねえ』

 

 心底から理解できないとアレクサンドラが言う、シャルロットさんの瀬戸際での反逆。

 精神を、崩壊させるほどにまで追い詰められていた彼女がそれでも復讐を選べた、その理由について。他ならぬアレクサンドラ自身が誰よりも、そこに理解がいっていないのだ。

 

 このへんについては俺もよく分からない。精神崩壊とまで言うほどになってしまっていたシャルロットさんが、どうしてそこから多少なりとも自我を取り戻せたのか。

 あるいは今回の騒動、第八次モンスターハザードにおける本当の幕開けとも言えるだろう反逆。そこについてはそのうち、シャルロットさんからお聞きする機会もあるかもしれないね。




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