攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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シャルロット、出陣

「参りましょう、山形さん。今こそ《聖女》の称号を我がダンジョン聖教が聖女の下に取り戻すべき時です」

 

 モニターのアレクサンドラが抱き、首を傾げ続ける一つの疑問。"なぜシャルロットさんは精神崩壊しながらもなお、自身に反逆できたのか"。

 まったく不可解、心底から理解不能だと言うかつての師匠を前に、当のシャルロットさん本人がついに立ち上がり俺に声をかけてきた。彼女を見上げる。

 

 《聖女》称号の回収。これ自体は最初からアレクサンドラの事情聴取に組み込まれていた予定であり、俺のスキルによって称号担当の精霊知能を喚び出し、あの女から強制的に称号を剥奪、シャルロットさんへと返還するのだ。

 なので提案自体に驚きはなかったが、そのタイミングには少しばかり目を丸くする。この人、アレクサンドラと直接対面して先の疑問に答えるつもりなのか?

 

「シャルロットさん。良いんですか、このタイミングで……アレクサンドラの問いに、答えるつもりで?」

「いえ、そこは別に。言っても理解できないでしょうし、言ってやる義理もありはしませんので。単純にそろそろ取り調べが終わりそうだからですのでそこは悪しからず」

「……念のため言っておくがシャルロット、アレクサンドラに直接的な手出しは許されんぞ。神谷もそうだが、そうした行為はどんな場合であろうと制止されなければならないものだ」

「無論、分かっております統括理事。そもそも今や、アレクサンドラは手出しするにも値せぬ者。動かぬ身体に罪だけを背負い、見合った罰を受けることを私はただ期待しております」

 

 俺の質問、ヴァールの牽制を眉一つ動かさず否定する。それでいて穏やかな表情を浮かべるシャルロットさんは、やはりどこまでも透き通るような空気を放っている。

 正直俺としては、ここに至ってこの人がアレクサンドラに直接危害を加えるとは思えない。明らかに精神的な壁をいくつも越えたこの人にとって、あの女は結局もはや過去のものとなっているように思われるからね。

 

 立派に師を超え、聖女としてのある種の超然ささえ纏った今のシャルロットさんだからこそ、どうあっても冷静かつ聡明に動かれるだろうと信じられるんだ。

 それはヴァールも同様で、軽く口元に笑みを浮かべて満足げに微笑んだ。一応釘を差したってだけで、この子もこの人のことはしっかり認め、評価しているからね。

 

 そうしたやり取りを経て、だったらと俺も立ち上がった。今回の騒動における最後のやり残しとも言えよう、《聖女》の回収を行うのだ。

 シャルロットさんと並んで部屋を出る。取調室はここに来るまでに場所を教えてもらっているので問題なく辿れる。そもそも探査者の気配を感知できるからね、俺は。

 迷いなく進む俺の後ろ、シャルロットさんが静かにぽつりとつぶやいた。

 

「…………聖女になるのですね、私が」

「シャルロットさん……?」

「いえ、すみません。何やら感慨深いと言いますか、不思議な感じなんです。私は、アレクサンドラの言うようにストレス発散と傀儡化のための人形でしたから。そんなのが今まで分不相応にも暫定的に聖女として動いてきましたが、これからついに本当の意味で就任するのかと思ってしまいまして。こんな出来損ないが、とうとう」

 

 自嘲めいた口振りで心情を語る彼女の、複雑な想いが多少なりとも伝わってくる。そりゃそうだよ、思うところなんて10や20じゃきかないくらいあるだろうな。

 悲惨な半生。家族を失い差し伸べられた手にさえ虐げられて、余命幾ばくもない身体で使命と復讐にすべてを捧げようとした壮絶さや悲壮さは、俺にはとてもじゃないけど想像することもできない。

 

 そうしたこれまでを踏まえ、今こうして凛と立つ彼女は本当に立派な人間だ。立場や役職、権威権勢や実力などに由来しない、真に強い魂の持ち主だと尊敬するよ。

 彼女が、やはり抱える不安や悩み。俺は足を止めて振り向き、シャルロットさんをまっすぐに見据えた。

 

「何度でも言います、シャルロットさん。あなたは出来損ないなんかじゃない。立派な人で、探査者で、七代目聖女です」

「…………山形さん」

「称号の有無に依らず、あなたは聖女たらんとして聖女として行動し続けた。誰にでもできることじゃありません。立派です、尊敬します……だから、どうか胸を張ってください。胸を張って、目を開いて、周りを見て。そして、あなたの周囲にいる温かな人達にどうか、気付いて。みんな、あなたの味方です」

「は、はい。あなたのように素敵な人達が、私の周囲にいてくれることは、もちろん理解したいと思っています」

 

 その小さな肩を優しく掴み、目を見つめて想い伝わるように語りかける。あなたは素敵で、だから周囲の人達もそんなあなたを愛し、見守ってくれているんだよと心を込めて。

 そんな祈りがどれほど伝わったかは分からないけど、シャルロットさんは薄っすら頬を染めて、常の無表情でなく明確に微笑み返してくれた。

 

 うん、良い笑顔。これならきっと大丈夫。

 今のシャルロットさんならアレクサンドラにもきちんと向き合える。訣別していける。最後の壁を、乗り越えていける。

 そう確信して、俺達は取調室へと向かった。




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