攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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風さえ吹かない荒野を行くよ

 セーフモード。

 スマートフォンやPCなんかだと、何かしらのトラブルが起きた時、診断用に起動されるモードを言うそうだが……システムさんが発動したそれは、まさしく安全地帯作成とでもいうべき機能を有していた。

 

「邪悪なる思念と三界機構、そしてモンスターを強制的にこの世界からシャットアウト。同時に侵食を阻止し、わずか残った2割の正常なる世界を保持。セーフモードは、まさしく一時の安寧をもたらしました。苦渋に満ちた一時しのぎですけど、ね」

「それは……それでも、ひとまず安全になったのは、良いことじゃないのか?」

 

 悲しげなリーベの顔が、どうにも引っかかる。

 一時でも、目の前の滅びを回避できたならそれは、喜ぶとまではいかなくても安心に値することだと思うんだけど。

 安直な考えなんだろうか……リーベは微笑み、俺に頭を振った。

 

「……いずれ再び、邪悪なる思念が再接続してくることは分かりきっていましたから。セーフモードを発動した時点でもう、この世界はやつを滅ぼすかやつに食われるかするまで、身動きが取れなくなりました。先に進むことも、滅ぶことすらもできなくなってしまったんです」

「本来あるべき時間の流れも、歴史の流れも移り変わりも。セーフモード発動から今に至るまでのすべてが、やつを滅ぼすための時代に変換されてきた。これからもそうだろう」

「ワールドプロセッサの体力的に、あと1000年は現状を維持できますが……それは同時に、無為な時間を重ねることに他ならない。公平さん。この大ダンジョン時代は荒野なんです。何一つ前へと進むことのない、風さえ吹かない荒野なんですよ」

 

 その言葉は、俺が初めて手に入れたスキルの文言そのものだ。

 《風さえ吹かない荒野を行くよ》って何だそりゃ、と思ってきたけど。そんな重苦しい由来だとは思いもしなかった。

 風が吹かない……時代が、動かない。滅びの一歩手前をどうにか立ち止まっているだけの、まさしく凍結して停止された世界。

 なるほど、荒野と言うにふさわしいものなのかもしれない。

 

「実際、100年前にやつは再び、この世界に接続を果たした。モンスターもだ……500年前や150年前と比べればあまりに弱々しいものだが、すでに侵略行為は再開されている」

「やつの再接続と同時に、ワールドプロセッサは順次、人間たちにスキルを配布してダンジョンへ向かわせました。オペレータ制度の導入。そう、大ダンジョン時代の幕開けです」

 

 150年前の敗戦、からのセーフモード発動。そして100年前に邪悪なる思念が再び現れてからの、大ダンジョン時代成立。

 怒涛というよりは、苦しみと痛みの連続のように聞いていて思う。システムさんもリーベもヴァールもソフィアさんも、その時代を生きた人たちはみんな、途方も無い戦いを続けてきたんだな。

 俺たちは次いで、リーベたちの話に耳を傾けた。

 

「先ほども言いましたが、邪悪なる思念の再接続に関しては、こちらとしても予測できていました。ですからセーフモード発動からの50年、あれこれと手を講じたんですよー」

「ソフィアとワタシについてもその一環だ。死んだソフィアの魂をワタシの身体に宿し、ワールドプロセッサは盟約を持ちかけてきた」

「盟約?」

「来たるべき時に備え、アドミニストレータに代わる者たち、つまりオペレータのための組織を立ち上げてその活動を支援せよ。これはソフィアに向けてだな」

 

 それ、WSOのことか。あるいは全探組のことまで含まれているのかもしれない。

 先代アドミニストレータが統括理事なんてやってる時点で、まあ何かしらシステム側と関係があるとは察していたけど……ズブズブじゃねーか。完全にシステムさんの思惑によって、WSOが発足されている。

 

「対してワタシには、対三界機構のための特殊スキルの一つを、継承するに値する者を見出せと。たとえ何年、何十年、何百年かけても、と。そういう盟約だ」

「……シェン、一族?」

「そういうことになる。いや、カーンを見出したのは全くの偶然ではあるが。その果てにお前へと辿り着いたのだから、ワタシの眼力も中々のようだな」

 

 そう言って、ヴァールは微笑んだ。リンちゃんも釣られて、笑顔を見せる。

 試練を終えたあと、彼女はどこかやり遂げた、爽やかな顔をしていたけれど納得できたよ。システムさんと交わした盟約を、これでようやく果たせたんだものな。

 と、リーベが面白くなさそうに唇を尖らせた。

 

「……その盟約について、ワールドプロセッサからは何も聞かされていませんでした。リーベが知らないということは、他の精霊知能も知らないってことですー。完全にあの方とソフィアとヴァールの間だけで、ことを進めていたんですねー」

「ワールドプロセッサの言うには、アドミニストレータを間接的にサポートするプランとのことだが。お前に伝えなかった、あれの秘密主義はワタシにもよく分からん」

「まったく……」

 

 ソフィアさんのこともあり、この辺のことに関してはずっと怒ってるな〜、リーベ。

 ていうか、ヴァールまでシステムさんの秘密主義には匙を投げてるのか。どんだけだよ。

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