攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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ソフィア曰く巣立てよ人類

『多くのことがなされ、その積み重ねの果てに至ったこの大ダンジョン時代100年の折。私、ソフィア・チェーホワはそれまでの歩みを踏まえて、やはり一つ考えることがあります』

 

 この100年を、ありとあらゆる人々の賜物であり積み重ねの結果とするソフィアさん。凛とした眼差しはやはり人々を惹きつけ、澄んだ声が心を揺さぶるのはこれこそ本当のカリスマのなせる業だろう。

 思えばこの半年でずいぶんいろんなカリスマを、敵であれ味方であれ見てきたけれど……とりわけこの人は本当に別格だ、佇む姿ひとつとっても何か超然的な、圧倒される空気を感じる。

 

 そんな彼女が次いで厳かに告げる。大ダンジョン時代100年を迎えて、彼女の胸に去来するもの。

 それは端的に言って、自らの役目に関する思いの丈だった。

 

『ここに至るまで不肖ながら私が主導的に時代を、世界を牽引してきましたが……それもそろそろ、一つの区切りをつける意味でもピリオドを打つべきではないかと想い始めたのです。100年という節目にあたって、新たな世代も台頭してきて──ソフィア・チェーホワというWSO統括理事は、今あるこの社会を信じて後に続く皆さまへと託すべき。そんな段階に来ているのではないかと考えています』

「…………は?」

「嘘……え? 何を、言ってるのあの人? え?」

「ば、馬鹿な……!! それはまるで、い、引退するかのような……!!」

 

 先ほどとは別種の、より深刻でより戸惑いの色濃いどよめき。はっきりと今、ソフィアさんは自らの進退について仄めかせる発言をした。

 このタイミングで、こんなところで切り出すのか。引退する意向自体は仲間内にはすでに明かしているから、俺達には特に驚きはないものの。それをよりによって高校の文化祭のスピーチで言うってのは考えもしていなかった。

 

 唯一、この場にて撮影機材を持ち込んでいるうちの県のローカルテレビ局のカメラマンが、呆然としつつもカメラを回している。写真も相当に取っているけど、その表情は決してスクープを目の当たりにした時にありそうな興奮したものではない。

 青ざめていた──大ダンジョン時代を牽引してきたグレート・マザー、ソフィア・チェーホワが表舞台から去ろうと言うのだ。どんな立場の者であれこうなるよな、それは。

 

「引退ってこと……!? 嘘でしょ待って無理無理無理無理、統括理事辞めるとか、世界どうなんのマジで」

「大ダンジョン時代って要はチェーホワさんの歩みそのものなのに、そ、それを辞めるってのか。想像もつかない……今ある世のなかの、根底にいる人だぞ!」

「なんでそんな……いや、でも100年だもんな……い、いい加減うんざりもするのかな。いろいろちょっとしたことで、難癖つけられたりもしてるしな」

 

 聴衆のざわめきから、ソフィア・チェーホワという存在がどれだけ大ダンジョン時代の大本に根差しているのか、そしてそれを多くの人が理解しているのかが伺えるだろう。

 まさしくこの100年は、ソフィアさんがいてくれた100年だ。そのものと言っても差し支えないほどに彼女はこの世界のこの社会のこの時代に寄り添い、身を粉にして尽くし続けてくれている。

 もちろん裏人格のヴァールまで含めてだ。彼女らは二人で一人の統括理事だからね。

 

 ゆえに、そんな彼女がいない大ダンジョン時代を誰も見たことがないし想像さえできないんだ。

 先ほどにも御本人が述べられた通り、多くの人々の永年の積み重ねこそが今ある世の中だけど……その土台を担い続けてくれていたのが、誰あろう彼女だったんだ。

 

『無論、今ここでパッと言ってすぐに辞めるような話でもありません。しかしこれは、いつか必ずどこかで為さねばならないものでもあったのです。私という存在のない、新たな次の時代と社会へ移ろうというのは……それこそが本来、この世界にあるべき姿のはずでしょう。この世はソフィア・チェーホワの私物などでは断じてないのですから』

「そ、そんな……!」

『ある日突然発生したダンジョン、そこに巣食うモンスター。そしてそれらに対抗すべく我々に与えられたスーパーパワー・ステータス。これらを正しく使える世にするため、私は微力なりとて己が持てるすべてを懸けて取り組んできました。ですがこれから先はきっと、みなさま自身のなかから自然と生まれ出る意志と選択によって運営されていくべき時なのです。言うなればそう、"巣立ち"の時は近い』

 

 あえて、"巣立ち"というワードを使うソフィアさん。視線をこちらに向けているあたり、ある種の含意がある発言だな。

 

 システム領域、そしてワールドプロセッサとコマンドプロンプトが定めるところの世界の目的。知的生命体の最終目標。それこそが"巣立ち"だ。

 この世界のなかで生まれたもの達が、長い時をかけての進化と成長の末にいつか、現世も概念領域もシステム領域さえも超えていくためのプロセス。

 

 そんな最終的な目標を達成するために、現世の知的生命体には多くの試練が与えられる。概念存在もその一つだ。

 彼らは彼らを生み出すものに対してすべてをかけて干渉し、挑み、そして乗り越えられていく。そうして超えていった彼らを寿ぎ、祝い、そして見送る。

 

 ────ソフィアさんはその関係性を、そのものでないにしても自らと大ダンジョン時代に見たのだな。

 それはすなわちいつか置いていかれるものであり見送らなければならないもの。幼年期の終わりとともに、静かに去っていくべきもの。

 グレート・マザー。100年をかけて時代の象徴にも成り果てた彼女は、そうなってしまった世界を今一度人々の手に返すべく、ついに自立を促し始めたんだ。

 他ならぬ、人間達の未来のために。




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