【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー/天鐸龍
さてさてカラオケに来ている俺たち、一年13組の一部グループなんだが。これがまた、意外と予想以上に楽しい時間になっていた。
俺も含めて男子4人、女子5人。まるで合コンよろしく男女分かれて座っては歌ったり飯食ったりしている。ちょっとテンション上がってきた。
ご趣味は? とか聞いてみようか。いや、さすがにその瞬間クラスのはみだし者確定になりそうだし止めとこう。
「うぇーい! 次誰歌う?」
「私、私! ねえ山形くん、デュエットする?」
「……あ、えっ!? え、あ、はい」
「あはは! もしかしてデュエット初めてっ? ウケる~!」
「はは、あはは」
ちょっとキャピってるギャルにグイグイ来られて陰キャの俺が盛大に悲鳴を上げている。嬉しいんだけど恥ずかしさとか照れくささとかで何言ったら良いかわかんねえ!
そもそも女の子相手にどういう態度が正解なんだ? 敬語? タメ口はまずい気がする。でも同学年の同い年だもんな、御堂さん相手じゃあるまいし、よそよそしく思われそうでそれはそれでなんだかなあ~。
「おいおい山形、焦り過ぎかよ」
「松田くん」
「せっかく探査者なんてすげえやつなのにさ、もっとどっしりしなよって。モテないぜー、それじゃあ」
「ウッ……」
隣の席の松田くんが肩を組んでそんなことを言ってくる。俺の心に大ダメージ! そうだよ、探査者なんてモテモテのはずなのに、このキョドりっぷりではモテる以前に人が近寄ってこない。
せめて友だちが欲しいよなあ〜。男友達はもちろん、女友達なんて憧れるよなあ〜。
だけど現実には俺は陰キャ、何なら女子に喋りかけられるとキョドりだす始末だ。御堂さんくらい年が離れてたりするとどうともないんだけどね。同い年だとなんかね。
一念発起。俺はデュエットを持ちかけてくれたギャル系女子、佐山さんに答えた。
「よ、よーし歌っちゃうぞー」
「おっしゃそう来なくちゃね! ホラホラ、こっちこっち!」
腕を引っ張られる。さすがはギャルだ、グイグイ来るぜぇ……
佐山さんは金髪にメイクもバッチリと非常に今時! って感じの子なんだが、不思議とそういう派手派手しい見た目が下品でない形に纏まっている。
つまりはどこか、品の良い美少女さんだったりするのだ。何ならスタイルも抜群で、今だって腕がどことは言わないが当たってて、俺は目を逸らさずにはいられない。
「ちょーちょー、何明後日向いてんの山形くーん。可愛い梨沙ちゃんったらコッチだぜー?」
「ん、んんっ?! か、顔ぉっ!?」
「あっはは! 山形くん面白!」
唐突に顔を両手で挟まれて覗き込まれたら、普通の男の子ならみんな面白くなるわい!
けたけた笑う佐山さん。やっぱりどこか上品な仕草だからか、関口くんみたいな嘲笑の気配を一切感じない、心底から純粋に面白がっているのが伝わってくるから不思議だ。
他のクラスメイトたちも、あまりに挙動不審な俺の様子に爆笑している。ウケは取れたのが嬉しいけど、反面恥ずかしさもあって顔が赤くなってきた。
ええいもうヤケだ、精一杯歌ったらぁ!
佐山さんと腕組みしてみんなの前、声を合わせて歌う。
前にも言ったが俺は音痴だ、音程なんてあったもんじゃない。
でも、それでも不思議と楽しい。佐山さんが俺に合わせて、ハモるように自分の音程を調整してくれているみたいで、一応は聞ける代物になっているんだ。
あまつさえ歌の節々でこっちを見てニッコリ、笑ってくれる。音痴と歌って迷惑だろうに、それでも楽しげに朗らかでいる。
おいおい天使かよこの子ぉ……見た目もノリも派手なギャルだからって、俺は色眼鏡を掛けて彼女を見ていたんだな。
認める他ない。佐山梨沙さんはとてつもなくいい子だ、いい子の中のいい子だ。
歌い終わる。みんなテンションが高いゆえか、大いなる盛り上がり。
俺もテンションが高くなり、嬉しくなる。佐山さんを見ると、彼女もニコニコ笑顔で俺に向け、手を上げている。
流石に俺もこれは分かるよ。手と手を合わせてハイタッチ!
「いえーい!」
「いえーい! 山形くん、ノッてきたね〜!」
パシーン! と景気よく音を立てて、俺たちは笑い合った。
何か……いいなあ、青春だなあ。
こういうのだよこういうの。友達とこんな感じで盛り上がって、楽しくてさ。
ちなみにその後、ソロで歌った俺が、ものの見事に音痴を晒してボエ〜な感じだったものの。みんな笑ってネタにしてくれたからそれはそれで良かったと思う。
松田くんとか、同じく男子クラスメイトの片岡くんとか。佐山さんの友達の木下さんや遠野さんとも打ち解けられたし。
俺も、探査者として経験したことを、話せる範囲で話したりして、それなりにみんなの気も引けたし。
気が付けば距離の縮まった、まさしく友人たちと呼べる間柄になっていたように思う。
本当に楽しい時間を過ごしたなあ。
掛け値なし、日常生活を楽しめた、そんな放課後だった。