攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

2004 / 2045
天国への階段(お客様専用通路)

 ワールドプロセッサの引きこもりにも相応の経緯と理由があるんだよね、というお話をしつつも件のビルの最上階へ。

 見かけは至って普通ながら、実は中身はワームホールになっているエレベーターに乗ると一瞬で相当な高さの階層まで辿り着く。都市設計担当の精霊知能による力作だね。

 

 そんでもってエレベーターを出た先、さらに通路を進んでいくといわゆるオフィスめいた空気からガラリと変わり、黒だけが広がる空間に白いラインが走る、無機質で静謐な、どこか怖気の走る薄暗いエリアに到着した。

 歩いていく先に見えてきた果ての見えない階段が一つ、ぽつねんとあるばかり。これこそが目的地へと至る道、真実そのものへと到達するための決定的な扉なのだ。

 

 すなわちワールドプロセッサの座す、システム領域内においても最奥にして最後の場所。

 紛れもなくこの世界の中心核。そんな場所へと続く階段なのだった。

 

「す……すごいな、こいつは。人間のままだったら耐えられなかったかもしれねえ。鳥肌が止まらない、これは、一体」

「本能的に、魂的に感じ取っているのだろうな。この先にいる方の存在そのものを……コマンドプロンプトとともにこの世界を創り上げた真なる造物主。真なる無限存在の威をな」

「実際怖いですよねえ、私も御方に助けられてから精霊知能になるまでの間、それはそういうものだと理解しつつも常時圧倒されっぱなしでしたもん。まあ三界機構さん的には"コレわざとやってるよここのワールドプロセッサ"とかって今も仰ってますけども」

「えぇ……?」

 

 階段の先にいるワールドプロセッサの存在の大きさ、力の圧。それに初めて触れる神奈川さんが、汗を噴き出して圧倒されるのを見る。

 まあ、こうなっちゃうよな普通に。さすがに、あまりにも格が違いすぎる。純正の精霊知能でさえ初見や新人さんならこうなるだろう、むしろ耐えているだけ神奈川さんはすごいよ。

 

 もっとも、ミュトスがしっかりばらしちゃってるあたりせっかくの威厳も台無しなんだけども。さすがに三界機構、かつてワールドプロセッサだっただけのことはあり意図をあっさり見抜いてくるか。

 そう。この圧はワールドプロセッサ流の挨拶というか、アイツなりの威厳の示し方だろう。やろうと思えば圧くらい抑えられるはずなのを、あえてそのままにしているのは初対面の神奈川さんに自分がどういったモノなのかを端的に示しているわけだね。

 

 やってることが不良漫画のヤンキーさんみたいなものなんだけど、それだけに効果は絶大だ。神奈川さんもこれから会う存在が冗談やシャレで済まないモノだと、心と魂でもって理解したみたいだし。

 ま、これもそのうち慣れるだろう。前来た時もしれっとこんな圧はあったものの、慣れきった連中ばかりだからてんで気にもしてなかったしね。

 というわけで階段を登ろう。相変わらず手すりがなくて若干頼りない、黒に白いラインが入って輪郭が分かるだけのそれを登っていく。えっほ、えっほ。 

 

「それにしても相変わらずしみったれたというか、無愛想な空間だなぁ……どこの都市でもこうなの、アフツスト? アイツに会いに行くのに毎回、こんな空間のこんな階段を登る必要がある感じ?」

「そうですな。現状領域内に1083の都市が構築されておりますが、そのすべてにこうしたワールドプロセッサへの直通ルートは設けられております。まあ、なんというやらお察しのとおり、一律にこのようなデザインですが……」

「センス以前にやる気がねえぜェ」

「あからさまですよねー。職員専用通路なんだから装飾とか遊び心は不要、みたいなー」

「言いたいことを言うな、お前達……とはいえじきに"お客様専用"の空間に着くぞ。そら、言ってる間だ」

 

 延々無機質な階段を果てしなく登る作業に、前もあったことだけどさすがにもうちょいなんか色気出せよ、と思わなくもない俺ちゃん。

 思わずアフツストに聞いてみると、なんと1000を超える都市群すべてでこの有様の空間が一つあるらしいのだから逆に感心するよ。

 

 こればかりはシャーリヒッタやリーベの物言いを責められない。明らかやる気ないやんコレ。どうせ精霊知能しか通らないしそれも滅多なことではないからって、いくらなんでも何一つ取り繕うつもりないのはすごいわ。

 まあ、アフツストの言うようにそれもそのうち明けてくるけどね……やがて見えてきた光。いつの間にやら通り抜けていたワームホールが、空気の質や雰囲気の変化を如実に伝えてくる。

 

 そして見えてくる黄金の光。

 まるで西洋絵画に出てくる神の国とかみたいな、まばゆい空とさらに続く純白の階段の光景が俺達の眼前に広がってきたのだ。

 

「こ……これは!? これは、ステラ、天国ってやつなのか、これが……」

『違うけど、モチーフにはしてそうだね私の千尋。でも私も初めてここに来たよ……ワールドプロセッサ様の居城へと続く空間。外部からやって来た精霊知能以外の存在が訪れる、場所』

「現世にいくつかある、システム領域へのアクセス方法を使っての正規ルートでやって来た者用の空間だな。精霊知能でもない限り、システム領域に来た者は必ずここに姿を現すことになる」

 

 今度こそ完全に圧倒された神奈川さんが、思わず己の半身たるステラに尋ねている。さすがに元が人間だから、嫌でも天国を想起するよねこの光景。

 しかして当然ここは天国ではない。現世からシステム領域に正規の手段で訪問した人が最初に見るのがこの空間なのだ。つまりワールドプロセッサに謁見する前の、ある種演出的な空間なわけだね。

 

 今じゃもう、手段そのものがほとんど失われてしまっているはずだけど……愛知さんのスキル《アストラルセンス》みたいに鍵の一つとなるスキルやらアイテムやらは現存しているはずだ。

 それらを一つに集め、いつか誰かがこの領域に訪れるかもしれない。そんな人を出迎えるようにデザインしたのが、この空間の正体だった。




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