【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー/天鐸龍
「あらあら。師弟揃って仲良しなのですね、マリアベール様」
マリーさんとベナウィさんの、ある種の師弟漫才が繰り広げられる中で割って入ってきたのが、WSO統括理事のソフィアさんだ。
相変わらず金色の髪が波のようにうねり美しく煌めく、おっとりした感じのお姉様だ。これで精神年齢、実に150歳ってんだからビックリだね。
「ソフィアさん……いつも言ってますが、様は止めてくださいな。こいつは孫弟子です、サウダーデの弟子ですよ」
「ふふ、あらそうかしら? マリーちゃん。どちらにせよ貴女の系譜でしょう? お久しぶりです、山形様。それにリーベ様、御堂様も」
「ええ、お久しぶりです」
挨拶しつつ、しかし内心で驚く。マリーさん、ソフィアさんに敬語使うんだ。
まあ、考えてみれば何もおかしい話じゃない。ソフィアさんは大ダンジョン時代が始まる50年も前に生まれた人で、マリーさんの倍近くも生きているし。何より立場的に、WSO統括理事と特別理事だ。
見た目こそ、それこそ祖母と孫娘って感じだけど実際は逆なんだものなぁ。
「ベナウィさんも、あまりお茶目は良くないですよ?」
「はははは、面目ない」
「もっと言ってやってください。ったくこいつは……」
「マリーちゃん、カリカリしちゃダメよ?」
さしものマリーさんもベナウィさんも、ソフィアさんには頭が上がらないみたいだ。
ヴァールに対してもそうなのかな? と思いながら、俺の方も話しかける。
「今日のところはこのまま自由時間で、明日もでしたっけ」
「基本的にはそうですね。今回は関係者全員、こちらの宿に部屋を取っていますので、どなたかの部屋ででも明日の朝、決戦に向けての打ち合わせくらいはしたいと思いますが」
「打ち合わせ?」
「いくら三界機構と天地開闢結界を、どうにかできる算段が付いたにせよ……まったくノープランで全員突撃はありえませんもの」
なるほど、それはそうだ。そもそもその二つをどうにかしたところで、恐らくは邪悪なる思念そのものがとんでもなく強いわけだし。
無計画に無頓着に突っ込んでいったって、普通に返り討ちに合って終わりだろう。150年前の悲劇は間違っても再現しちゃいけない。
改めて強く、今回の戦いの意義を確認して頷く。かつて苦い敗北を喫し、その身を引き換えに大切な者を守り抜いた偉大なる先代アドミニストレータは、そんな俺の頭を、優しく撫でてくれた。
「大丈夫ですよ、山形様。あなた様ならば必ずや、かの者を打倒してくださると信じています。ヴァールもきっと、そうでしょう。変わりますね────」
「え。ソフィアさん?」
「────む、う。久しぶりだな、山形公平」
いきなり変わる、彼女の表情。顔立ちはそのままに顔つきがまるで異なるもんだから、まるで別人みたいにすら思えてくる。
ソフィアさんと表裏一体の人格である、ヴァールだ。先代の精霊知能であり、リーベにとってはいわば先輩だね。
どこか無機質ながら柔らかな感じの顔で、俺を見ている。
「いよいよ、というべきか。ワタシにとっては待ち侘びた展開だが、あなたにとっては降って湧いたような話の連続なのだろうな、この三ヶ月は。その内心は察するに余りある」
「あ、あー。ヴァール、久しぶり。元気してた?」
「それなりにな。明後日の決戦にはまあ、役に立てなくはないと言ったところか」
そう言って彼女は、キョロキョロとあたりを見回した。ソフィアさんが表に出ている時には意識がないようだから、現状把握をしているのだろう。
ふむ、ふむとリンちゃんやベナウィさんを見て、マリーさんを見る。特にマリーさんとはやはり、ソフィアさんと身体を共有しているからか存知らしく親しげに話し出している。
「マリアベール、久しいな。ようやくお前のファースト・スキルにも、使う場面が出てきたわけだな」
「ファファファ! どうも、ヴァールさん。ソフィアさんもそうですがね、決戦スキルについてご存知でしたら教えてほしかったもんですよ。おかげで私ゃ、こんな老いぼれるまでひたすら謎を追う羽目になっちまった」
「悪いとは思っている。だが、ことがことなのでな。この局面に至るまで、極力情報は漏らさずにいたのだ……すまんな」
どこか伏し目がちに謝るヴァール。
そうか、そうだよな。マリーさんは初めて探査者になってから70年、ずっと、詳細不明のスキルを抱えて、その謎を追うことを続けてきたんだよな。
そしたらなんと、知人っていうか近しい人が答えを知ってるときた。そりゃあ、文句の一つも出るよね。
少しばかり口を尖らせていたマリーさんだったものの。
すぐに気を取り直したのか、また、優しいおばあちゃんの顔で笑ってくれた。
「ファファファ。ま、仕方ありますまい。結局のところ公平ちゃんに出会わなきゃ、《ディヴァイン・ディサイシヴ》も開放されなかった。それならなんと説明されようが、心底からの納得なんぞしなかったでしょうしねえ」
「特に目上の言うことなど、お前は昔から聞かなかったからな。何かにつけ噛みつきおって、まったく懐かしい話だよ、ジャジャ馬マリー」
「…………ファファファ!」
懐かしむヴァールの言葉に、珍しくマリーさんが誤魔化し笑いを浮かべる。
……もしかしてベナウィさんのちょっとアレな一面って、源流はこの人なんじゃないか?