攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

2016 / 2045
断獄─ありとあらゆる闘争を祝いだ世界─

 せっかくこうして面と向かって、かつてワールドプロセッサとしてそれぞれの世界を構築運営していた三界機構と話す機会を得られたんだ。

 後学のため、彼らの世界について詳しいところを尋ねてみる。ファンタジー要素マシマシなことをすでに語ってくれた魔天はもちろんのこと、断獄と災海も快くうなずいてくれたよ。

 

『おう、今となっちゃクソガキに喰われて無くなっちまった世界だが……せめてこちらの世界のためになるんなら話す意味や値打ちはあるわな! いいぜ話してやる、俺の愛すべき闘争世界についてをな!』

『素晴らしい機会をありがとうコマプロ。であれば我も語らずにはいられんよ、めくるめく狂気と正気と希望と絶望と生と死と破滅と創造。光と闇の入り混じりたる、まさしく淫靡にして混沌の世界についてを……』

「ほ、ほどほどでよろしく。特に災海」

『断獄も大概だけど災海は本当に反応に困るからほどほどにしときなさいよー』

『むう』

 

 語ってくれるのは良いんだけど、断獄の闘争世界とやらも災海の混沌世界とやらもなんだかおっかない予感しかしなくて震える。

 魔天までもがペチペチと二体の頭を叩いてツッコんでるほどなのでよっぽどなんだろうね。怖ぁ……特に災海世界は本当にヤバそうだ、アルマですらドン引きしてたし。

 

 とはいえ断獄の言うように、すでに失われた世界についてを知り、語り継ぐことができるのもこの世界だからこそできること。ひいては彼らの在った証、その存在がたしかに尊ばれるべきものだったことを覚えておけるのもこの世界だけだ。

 であれば、たとえ断片であってもそれを覚えておくのも、生き延びたこの世界のワールドプロセッサとコマンドプロンプトにできることだろう。

 

 精霊知能達も興味深げに耳を傾けるなか、断獄がそして語り始めた。

 闘争世界──スーパーパワー・レベルの概念を導入していたかの世界においては、すべてが闘争に満ち満ちていたという。

 

『俺の世界はとにかく戦いの世界だった。あらゆる生命にレベルがあって、それを高めていくなかで己の心身魂を磨き抜いていつかの巣立ちに向かって鍛えていく、そんなシステムだったのさ』

「戦い……殺し合いってこと、ですかー?」

『まあ概ねはな。だがそれだけじゃもちろんねえ。少なくともあの世界において巣立ち候補だった現世生命体達は、文化や文明もそれなりに発展させようとしていた。概念存在達も闘争を主としつつもそれを言祝いでいたぜ、なんせそれさえ次なる闘いを呼ぶからな。この世界もそんなところはあるがよ、生きるために行うすべてのことは、万物にとって等しく闘争と言えるだろう?』

「まあ、そこはなあ」

 

 なかなか過激な世界のようにも聞いていて思うけど、生きること自体が闘いだと言うならそれは俺達の世界だってそうだろう。

 闘争とは反発、あるいは抵抗への選択だ。敵意の有無ではなく、抗おうとする意志そのものがすでに戦いと言える……眠たいけど起きるとか、辛いけど頑張るとか。ほら、日常のなかにも意識していないだけで戦いはいっぱいあるでしょ?

 

 断獄世界はそんな、ありとあらゆる選択とそこに至る決断、決意。それらを踏まえた営為そのものを闘争と見立てていたんだろう。

 ……その代表たる行為、殺し合いを至上としてだ。断獄は嬉々として語る。

 

『レベル概念こそが俺の世界でのスーパーパワーだった。万人が持つ魂の力の強度を数値化したもの、他者を倒すことで経験を積むことで増していくもの。特に殺しなんかは最適解だ、ダイレクトに相手の命、レベルを奪う行為に他ならんからな』

「こちらの世界でも実のところ、そうした行為でレベルが上がる機能は健在だな……もっともモンスター以外でのそれをさせないよう、大ダンジョン時代社会の秩序が防いでいるが」

『法と無法、理性と野性のせめぎ合いもまた闘争だ。大いに素晴らしいぜ精霊知能ヴァール。もっと言うならお前さんの100年間にわたる現世での活動そのものが、俺の視座からすれば最高に近い評価だ』

「反応に困る話だな……なんとも」

「褒められてはいるんだろォし、素直に受け取っとけェ」

 

 こういうとアレだけど、意外にもヴァールの行い、つまり大ダンジョン時代社会という法秩序の形成を高く評価している様子の断獄。

 これだけ殺し合いを最上位に据えた価値観の世界だったと自身を語る割に、その言葉にはたしかな敬意と優しさを感じるのが不思議といえば不思議だ。

 

 とはいえ、そもそもシステム領域に本来意志はなく、あったとて善悪の基準が現世のソレとは大きく異なる。

 今の俺でさえ、コマンドプロンプトに引っ張られて3割ほどは人間の感性をしていない自覚はあるんだ。それだと現世での生活においてまずいから、残り7割の人間性を大切にしたい意識もあるってだけで。

 精霊知能達も似たようなもんだろう。現世ブームでずいぶん染まったから価値観はそれなりに合わせているけど、本質的にはやはり、システム側の物差しだしね。

 

 つまり断獄の語り口にも、私達の視点からすると過激ではあるけどまあレベルシステムを中心に見ると合理的だなあとなる程度なわけ。

 とりわけ人間社会に染まってるヴァールが困っているのと、それを執り成すシャーリヒッタの態度の差が分かりやすいかもね、そのへん。

 

『……あー、ここまでの話で俺達の世界を快楽殺人世界と誤認したかもしれんが、そいつは違う。本当に違う。闘争ならなんでも良いんだ、本当に』

「は、はあ」

『そのなかでも一等分かりやすいのが殺しってだけで、文化や文明内における競争や比較なんかも俺達にとっては同等に価値が在った。分かれよ? 生死の絡みなぞ問題じゃないのさ』

「ある意味一貫しているのですね。戦い、闘争。ソレであるなら種類は問わないと」

『そういうことだ、この世界のワールドプロセッサ。だからこそ言うぜ、お前達の世界は俺のとは異なる意味で素晴らしいってな……日々、より高みを目指して成熟していく文化文明のなかで、多種多様な形で闘争を日夜繰り広げる現世。ああ、そいつぁ、夢のある話だよ』

 

 遠く、懐かしむように悼むように。断獄は静かにそう締め括った。

 

 俺達の世界とは明らかに異なる尺度、理で生きた闘争世界──断獄世界。けれどその本質は俺達ともなんら変わりない。

 どこまでも成長し、成熟していくことを夢見た世界だったということなんだ。




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