攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

2020 / 2045
変わる時はなんであれ一気に変わる。ふしぎ!

 ワールドプロセッサの居城たるデジタル空間を出て、来た道を戻ってまた元のビルにまで戻る。

 三界機構の三体はすでにミュトスの内部に戻ったよ。元より彼らはシステム領域内でのみ顕現できる存在ゆえ、だったらもうちょい残っていたら? と言ったんだけどね。

 どうもずいぶん話して満足したってことで、ひとまず戻るわーって気楽なノリで還っていったよ。

 

 そんなわけで戻ってきたビル内、精霊知能達も休憩とか雑談用に使っているらしいオフィス内のリクライニングスペースにて少しばかりひと休みする。

 何体か精霊知能達がいるけど、みんな俺を見るなり恐縮したみたいに会釈してきて逆に気まずいんよね怖ぁ……これが現世だったら温かいコーヒーの一杯も奢って労いたいくらいだよ、こっちが。

 

「いやはや、しかし本当に貴重な話を聞きまくった……俺があの場にいても良かったのかなって若干、考えちまったくらいに」

『むしろ千尋こそいなきゃいけなかったよ、間違いなく。特に聖剣の出身世界たる災海についての話は、絶対に聞いておいて良かったから』

「そうだな、ステラの言うとおりだ神奈川。どうも聞く限り相当におぞましい経緯で製造された節のある聖剣だが、だからこそソレを引き継ぎ担い手となった君は知っておくべきだったろう」

 

 軽く手を振って精霊知能達に笑いかけていると、神奈川さんがどこか気まずそうにポツリとつぶやいた。

 まあ、そう思うだろうねって感想だ。システム領域に初めて来ただけでも大変だろうに、とんでもない数の先輩精霊知能達に出迎えられた挙句、ワールドプロセッサと謁見して三界機構からかつての異世界についての話さえ聞かされたのだ。

 普通にパンクしちゃうよ。むしろよくついてきてくれたと感心するよね正直。

 

 ただ、ステラやヴァールの言うように彼だからこそ聞いておいて欲しかった話なのも事実だ。特に災海世界についてはある意味、神奈川さんもダイレクトに関わっている話なんだから。

 聖剣……災海世界における現世人類が、暴虐に狂った概念存在を相手取るべくすべてを擲って造った兵器。災海の口振りからするとどうにもグロテスクなやり方で拵えたらしいんだけれど、それでもたしかにソレは今、この世界に漂流した末に神奈川さんの手に渡った。

 

 であるからこそ、神奈川さんは自身が使う聖剣の出処を、そこに込められた想いを知るべきだったんだ。たとえ関係のない世界のことでも、もう今はどこにもない世界のことであっても。

 そこにあったことは絶対に失われない。なかったことにはならないしできない、してはいけない。それを、他ならぬ聖剣の継承者となった彼は実感するべきだからね。

 

「ミュトスちゃんもお疲れ様でしたー……また今度、魔天世界についてリーベちゃん達に教えてくださいねー、少しずつでも」

「おう、そうだぜミュトス。お前さんは今や精霊知能としてこの世界の一員だけどよォ、それと同時に魔天世界出身の水の女神だったんだぜ。そいつァオレらも尊重してェんだ」

「リーベさん、シャーリヒッタさん……」

「だから聞かせてくれよ、いつでも聞くからよ。お前さんの故郷、今はもうなくても、たしかに意味も価値もあった世界についてをな!」

 

 一方で、ミュトスに優しく声かけしているリーベとシャーリヒッタ。今回はあまり語られることのなかった魔天世界について、少しずつでも良いから語ってほしいんだね。

 ミュトスもまた、魔天世界からの漂流者という極めて特異的な存在だ。あるいはたった一人の孤独……本人はあっけらかんと明るいノリだけど、さすがにこの話になると多少は物思いしがちだからね。

 

 先ほど魔天本人が言っていたように、ミュトスからも時折語ってくれれば良い。俺達に、少しずつでも良いから。

 かつてあった自身の世界のことを、良いことも悪いこともね。まあ、明らかにトラウマになってるっぽい例のブラック最高神については避けてもらって良いけども。古傷を抉るつもりはないからね。

 

「ふむ……リーベもシャーリヒッタもずいぶんと現世に馴染んだようですな、コマンドプロンプト。今の気遣いは精霊知能としてのものでもありましょうが、それにもまして人間らしい情緒的なものに思えましたが」

「うん? あー、まあ数ヶ月いれば影響は受けるだろうさ。どんな生命もそうだけど、変わる時は一気に変わるものだからね」

「変化の面白いところですな。長い目で見ればゆっくりと見えますが、細かく見ていけば変わるタイミングには劇的に変わる。その積み重ねと繰り返しで、我々も少しずつでも変わっていけるのですなあ」

「精霊知能も今や、こうした都市社会を構築しているからさ。現世に暮らすのとではペースは違うだろうけど、誰もが前に進んでいるのはアフツスト達も同じだろうね」

 

 しみじみと語るアフツスト。現世に受肉して過ごすなかで、多少なりとも変化していく精霊知能達に感銘を受けているんだね。

 俺としては、システム領域にこうして現世を模した社会や都市を構築している精霊知能達も……まったく同じでないにしろ、やはり変化していってると思うよ。




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