攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

2040 / 2041
在りし日。初代聖女の覚悟と献身

「78年前。まだ当時は見た目相応の中身だったエリスさんはいろいろあってヴァールさんに助けられて、そこから能力者解放戦線との戦いに参加したんだ。18歳の頃だね」

「ヴァールとの出会いが起点だったんですね」

「うん、間違いなく。今でも思い出せるよ、あの雪のなかでの出会い。あれだけはきっと、どれだけ時間が経ってもずっと忘れることはない」

 

 スキル《不老》による不老体質。およびごく限定的ながら未来改変能力と言っても良い性能を誇る未来予知。

 これらをエリスさんが獲得したのは、結局第二次モンスターハザードでの戦いのなかだった。詳しいところをついに話し始めてくださった彼女の言葉を、道すがら聴く俺達。

 

 途中、当然部屋に出てモンスターを相手取るわけだけど……そこもエリスさんが宣言通り一人で受け持った。

 とんでもないよ実際。《念動力》で操作した数本のナイフを縦横無尽に飛び交わせてモンスターを瞬殺していってるんだから。

 

「ぐぉげげげげぎぎゃぎゃぎゃぎゃああああっ!?」

「当時のエリスさんはこんな、ナイフだけ飛ばして攻撃なんて器用なことできなくってね。いや《念動力》の本来の使い方はむしろこっちなんだってのは旅のなかで教えてもらったんだけどさ。私は能力者となった最初の時点から、自然とエネルギーブレードのほうで戦ってたよ──伸びて切り裂け」

「ぅぼぼぼぼぼぼぁぁぁっ!?」

「っエネルギーブレードが伸びた……! 飛び道具としても使えるんだ、その技!」

「ハッハッハー、仲間の人に鍛えてもらって身につけたものだねー。便利なもんだよハッハッハー」

 

 挙句の果てにはのんびり語りつつも、ナイフから伸ばしたエネルギーブレードをさらに10m以上も伸ばしてモンスターを遠距離攻撃している。威力も据え置きで、A級モンスターでさえ即座に光の粒子に返していく超威力だ。

 これには刀を扱うアンジェさんも目を見開いている。近接戦闘が主なスタイルの探査者として、遠距離攻撃の手段が豊富にあるエリスさんはこの時点で規格外にも映るだろう。

 

 いやまあ、エリスさんも第二次の旅のなかで知ったようにそもそも《念動力》なんてのは遠距離攻撃のスキルだ。サイコキネシスだからね、物を動かして敵にぶつけるのが基本の使い方なんだ。

 それを初手からエネルギーブレードとして、想定にない使い方をしていたってのは……おそらくだけどエリスさん自身の適性からのことだろう。

 モンスターを片付けた後の部屋で、推察したところを俺は述べる。

 

「たぶん、エリスさんの魂と《念動力》の相性が極端に良かったんでしょうね。過剰と言っていいほどに。だからエネルギーブレードのような本来、想定されているわけでない使い方ができたんでしょう……そしてその分、その技の威力と負担は相応に大きかったはずです」

「マジで見抜いてくるねー、さすが! まさしく公平さんの言うとおりで、戦いのなかでエネルギーブレードを使用し続けた私は、知らずと衰弱していった。気づいた頃にはもう、手遅れだったほどに」

「手遅れ……って、そ、それって」

「死ぬってこと。能力者解放戦線との戦いが終わる頃には衰弱死するだろうなって確信が、次第に私のなかに生まれていたんだよ。使っちゃいけない部分の力まで引き出していた感覚は、常日頃からあったからねえ」

 

 極稀にでもあり得る事象。オペレータの魂とスキルの相性が良過ぎるため、ある種のオーバードライブを引き起こしてしまう現象は、スキルを利用し始めた頃のシステム領域においては理論上のことだけで懸念されていたはずの話だ。

 エリスさんのエネルギーブレードは、彼女の魂の力を引き出してはならないレベルでまで引き出している。だからこそ78年前の彼女を、気づけば余命わずかってところにまで追い込んでしまったんだな。

 

 気づいた時点で《念動力》の使用をやめ、直ちに戦線から離脱するという選択肢もあったはずだ。

 今ここにエリスさんがいるのは信じがたい偶然の発露の結果に過ぎず、通常考える限りではそうしておけばせめて、故郷に帰り安らかな眠りにつくという選択肢もあり得たと思う。

 

 けれど彼女はそうしなかった。最後の最期まで戦うことを選んだ。たとえ魂を全損したとて、人々を護り続けることを選んだんだ。

 すべては過ぎ去りしこと。それでも当時を語るエリスさんの表情には、まなざしには──凄絶なまでの正義の信念が宿っていたよ。

 

「気づいた時点で詰んでいた、ならば私は戦いのなかで終わる結末を望んだんだ。誰に言われたわけでなく、誰に請われたわけでもない。私が望み、私が選んだ」

「師匠……どうして、そんなことを」

「どのみち終わる命なら、せめて人々の役に立ちたい。当時すでに妹分として同行していたラウラを、身寄りのないあの娘を平和になった私の故郷に送るためでもあったし、何よりソフィアさんとヴァールさんのお役にも立ちたかった」

「…………」

「……そう、あの人達の役に立ちたかった。あの人達に救われた命、だったらあの人達が望む世界のために少しでも頑張ってから死のうってね。それが私にとっての第二次モンスターハザードだったし、能力者解放戦線と戦い続ける意味であり私自身の存在理由だったんだよ。ハッハッハー、なんか重いね!」

 

 朗らかに笑う、その姿とは裏腹の壮絶な覚悟。

 どんなにか怖かったろう、潰える間近の生命を抱えて。どんなにか辛かったろう、もう帰ることのない故郷を想って。

 ……それでもこの人は安寧のなかに終わるのではなく、戦いのなかで未来を護ることを選んだんだな。

 

 すべては人々の、家族の、そして恩人の未来ために。

 たとえ御自身が見ることはもうない世界であっても、この人はそのために78年前、第二次モンスターハザードの戦いを文字通り決死の覚悟で戦い抜いたんだ。




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