攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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未来予知の弱点

 総じて探査者として、オペレータとしての枠組みを明確に超えていると言えるだろうエリスさんの、実力はもはや疑いようがなく現時点における人類最強だ。

 他のS級探査者も、俺が良く知る人達も知らない人達も、驚くべき強さなのはもちろんだけどそれでも彼女を凌ぐことはないだろう。

 

 ただ……とはいえ、弱点がないわけでもないのはエリスさん自身が自覚しているみたいだった。

 やはり次の部屋へと向かう道中、雑談に花を咲かせるくらいのノリで自分の短所を語るんだものね。

 

「自分で言うのもなんだけど、攻撃、防御、支援すべてをそれなりにまとまった水準でこなせちゃうのがこのエリスさんだと思うんだけどね? ただ、未来予知についてだけは明確に弱点もあるんだよねこれが、ハッハッハー」

「弱点……ですか。事実上の未来改変能力、であればある種の無敵に近いもののように思われるのですが」

「とんでもない、とんでもない! むしろ能力者犯罪捜査官やってたら割と、アレ由来で窮地に立たされることがあるくらいなだ。先だっての翠川戦なんかは典型だねー」

「翠川。あー、倶楽部幹部のやつでしたっけ。なんか瞬間移動能力だか持ってたっていう」

 

 そうだねー、とうなずくエリスさん。香苗さんやアンジェさんの不思議そうな顔にも、やはり朗らかな笑みで応えている。

 そう。スペック上は割とやりたい放題な彼女だけれど、俺が知る範囲でも一度だけ、明確に危機に陥った場面がある。

 

 それが倶楽部幹部、翠川均との初戦。

 彼のスキル《振動》によって威力を水増しされた銃弾によって、腹部を撃ち抜かれた時だった。

 あの場に俺がいたから因果改変で事なきを得たけど、あれはそのままだと失血死あるいはショック死していてもおかしくないダメージだったんだ。

 

「あの時、私はすぐ近くにいたダンジョン聖教騎士のウィリアムズくんを咄嗟に庇ってやつの銃弾を喰らったわけだけど……それ自体が未来予知の結果なんだよね。"庇わなかった5秒先"を事前に見て、その結果を踏まえてエリスさんてば彼女を庇うことにしたわけ」

「…………そうしないと、いけない未来が見えたんですね。師匠」

「レベル1700付近の私の防御さえぶち抜いて重傷負わせてくるイカれた威力だよ、ウィリアムズくんじゃ即死だったんだ。だから庇う以外の選択肢はなかった。つまり、未来を予知したことで逆に行動が縛られたんだ。私はこれを、明確な弱点と見るよ」

「未来予知の結果、最悪を回避するためにリスクある選択肢を提示されることもあり得る。その結果、命を落としかねないことさえある、と。能力者犯罪捜査官としての仕事中、それこそ護衛任務とかだと容易に起きかねない状況ねえ」

 

 エリスさんの未来予知の弱点、それはある意味、強みと表裏一体のものだ。

 未来を見てから行動し、未来を変えることができる。それは逆説的に、変えたほうが良い未来を見た場合にはほぼ確定で行動しなければならないという状況が発生することを意味する。

 見た未来に、現在が束縛されかねないんだ。

 

 無論、実際にそれをするかしないかの決定権はやはりエリスさんにある。あるけど、行動しないと確定で最悪の結果を招くことになると分かりきってる時、そのまま行動しない人なんてまあいないだろう。

 まして5秒という、ごく短い先の未来のことならばなおのことだ……それを見てから取れる行動も限られているしね。

 翠川とウィリアムズさんの時はまさにそうした理由から、エリスさんは身を挺して凶弾を受けるしかなかったんだな。

 

「何しろさっきも言ったとおり5秒だけの未来だもの。見た後に取れる行動なんて一回こっきり、しかも咄嗟のことでしかない。ああいう詰みみたいな状況を作られると、どうしようもなくなるんだよねーハッハッハー」

「せ、戦闘時における……こ、攻防の補助にはこれ以上ないけど。防御側として使う時には、その、後手に回らざるを得ないんですね。未来予知って……」

「そういうことー。もちろん、直近での最悪を回避できるってのは魅力的だけどね? そもそもそんな状況に持ち込まれた時点で、未来予知ったってできることは高が知れちゃってるんだよ」

 

 動かなければ人が死ぬ。けれど咄嗟に動くには、自分が代わりに瀕死になる選択肢しか取れない。事実上の二者択一、そして事実上の詰み。

 最悪を回避するために、少しだけマシな最悪を選ばなければならないかも知れない能力。なるほど未来予知の明確なデメリットだな、これは。

 

 思うに、受け手に回りがちな護衛とかボディガードとかだとこの能力はあまり有効に活かせないと思う。上記のとおり詰みが発生しかねないからね。

 いや護衛対象より自分の命じゃろって言われたらまあそらそうではある──職業倫理やプロとしての矜持を除けばね──んだけど、5秒先に死ぬのが分かりきってる人だって見ちゃうとそれも難しいだろう、実際。

 

 エリスさんの未来予知とは、ある意味5秒先の未来に対して選択権とその行使の責任、義務を負うものと言えるのかもしれない。

 見た時点で知らぬ存ぜぬが通じなくなるんだもの。そしてそうなれば彼女ほどに高潔な人が、何もしないなんてことを選べるわけがないんだ。

 

 そんな人だからこそ得た能力なんだろうけど、ある意味残酷な能力だよ。

 使いようによっては自分や他者の運命を握ってしまえるなんて。エリスさんはそんなこと、欠片だって望んじゃいないだろうにね。




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