攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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ファンタジーあるある:精神世界がやけに壮大

 世界の構造を端的にいうと、上から順にシステム領域、データ領域、時間領域、空間領域、概念領域、現世領域となる。

 このうちデータ、時間、空間の三領域は基本、現世領域や概念領域のモノ達には直接的に関係している部分ではないので事実上はシステム、概念、現世の三つになるかな。

 

 ただ、それ以外にも特殊な領域が実のところ、いくつかあって……仮想領域とはそのうちの一つになるのだ。

 戦闘から戻ってきたエリスさんをも含めた一同に、本当に簡単ながらそのへんを軽く説明してみる。

 

「現世領域のなかに、システム領域に依らず自然発生する力場。知的生命体の想念や無意識が寄り集まって彼ら自身の内側に形成される、共通の領域……実存しないけれど存在すると仮定してそこに在るモノ。それが仮想領域っていうんですけどね。エリスさんの魂はそことダイレクトにつながっているんです」

「ハッハッハー、SFとかで見かける精神宇宙とか内面宇宙的なアレ? ほら、アカシックなんちゃらとかインナーなんとかとか」

「概ねそういう感じですね。仮想というだけあって実際の世界構造においてはあまり影響力を持たない領域ですが、人々の内面に自ずとある領域です。ああ、マクロコスモスに対応してミクロコスモスとも言えますか」

 

 さすがマニアの側面もあるエリスさん、理解が非常に早い。

 言うなればまさしく内面宇宙ともいえるもの、精神世界とも言えるものだろうね。人間だけでなく現世領域におけるあらゆる魂の持つ意志の、無意識が少しずつ創り出したのが仮想領域の正体だ。

 

 それはシステム領域以下、実際に存在している世界とは当然異なり現世領域の、極めて限定的な条件下でのみ適用される力場だ。だって仮想だもの。

 一応、巣立ちにおいてはいくらか関与してくるものの、世界にとって特筆すべき箇所なんて本当にそれくらいだ。基本、仮想領域は仮想領域だけで成立していて外側に何かの干渉をしてくることは極端に少ない。

 

 強いて言えば星の端末機構と呼ばれる、星そのものが生み出す星側の精霊知能みたいな連中がいくらかってくらいか。この星、地球にもそういうのはいるね。

 150年前のセーフモードで世界の進行度が一時停止したことで、彼らもまた動きを見せている可能性はあるけど……委員会とも何か絡んでたりするのかね? まあそこは余談か。

 

 ともかくエリスさんはエネルギーブレードを使い続けた結果、魂が引き出せる限度を超えて力を引き出そうとした。そうしてマイナスオーバーフローを起こし、魂が仮想領域にアクセスしてしまったのだ。

 そしてその身に、無限エネルギーとも言うべき膨大な力を宿した。バグスキル《不老》は、その名残と言えるものだった。

 

「アクセスした時点で、エリスさんは半ば現世領域から仮想領域のモノへと移行したと言っていい。もちろん人間であることには変わりありませんが、ある種架空の、空想上の存在にもなったんです。そしてそうなったことで、死という概念をも失った」

「…………死のない空想存在になったから、師匠は不老不死になったってことなんですか? それをシステム領域がどうにかして、不老にまで抑え込んだと」

「そうなります。そのままだとやがて、死なないだけの仮想生命体として永遠に現世を彷徨うナニカに成り果てかねなかったでしょうしね」

「ゾッとするようなこと平然というわね、アンタ……」

「ゆ、幽霊……? あ、で、でも幽霊は死んだ後だし、ちょっと違うかな……」

 

 淡々と、78年前のエリスさんに起きた事態を語る俺に葵さんやアンジェさん、ランレイさんがいかにも得体の知れないモノを見る目を向けてくる。仕方ないよね、こればかりは。

 エリス・モリガナはある意味、幻想の存在になりかけていた。概念存在ですら成し得ない本当の不死を獲得し、仮想領域でのみ成立する生命体になりかけたんだ。

 ……当然そんな事象はバグも良いところだ。ヌツェンも相当焦っただろうし、フィックスのために全霊を注いでくれたことだろう。

 

 果たしてバグフィックスは成功した。成功したがしかし、不老だけは残った。おそらくどうしようもなかったんだろうな。

 仮想領域はその出自ゆえ、システム領域であっても触るべきでない部分が多い。現世の魂それぞれに宿る無意識の集合領域なんて、いかな私達であっても触れ得ざる場所だからだ。

 

「担当の精霊知能、ヌツェンはできれば不老も消したかったでしょうけどそれはできなかった。いろいろ省いた言い方をしますが、そこまですると現世のほうに大きな支障が起きてしまうためですね。だから、エリスさんには《不老》が付与されたということになります」

「はぇー……78年目の真実ってやつだね。いや、まあ、当時の私の無理無茶無謀が一歩間違えればとんでもないことになりかけたって話だし、そこは申しわけないけれど」

「そんなことはありません。むしろこちらが謝るべきことです……ごめんなさい。システム領域が手を尽くしてなお、結局あなたは永らくその姿のまま生きることを余儀なくされました。不老とは、楽しいことばかりでは決してなかったというのは俺にも分かることです」

「ハッハッハー! それこそ野暮だよ、言いっこなしだって公平さん。そりゃ楽しいばかりじゃない旅路だったけどさ、今の私はこの体質を、何もかもを背負って生きていけるこの身体をどんなものより優しいと信じてるから。オバケみたいなナニカになるのを防いでくれただけありがたい話だよ、ハッハッハー」

 

 システム領域の不手際も多大に影響した結果の不老体質。それがエリスさんの人生を大きく歪めたことを考えると、謝罪しないわけにいくはずもない。

 そうして頭を下げる俺に、あっけらかんと笑ってエリスさんは許しを与えてくれた。むしろ感謝していると、不老の自分はどんなものより優しく在れると……そう、言ってくださったのだ。

 

 そんな心境に達するまでに、どれほどの道程があったんだろうね。

 本当に尊敬するよ。この人をこそ聖人と呼ぶにふさわしいだろう。そう思う俺であった。




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