攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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昔の日本人探査者はヤバかった(一部地域限定)

 ほどよく醤油とわさびをつけて、頬張る新鮮魚介と酢飯のマリアージュ。舌の上でほどけるようにシャリがバラけながらも、ネタの旨味と醤油の塩気、わさびの刺激が織りなす味わいの深さは素晴らしい。

 これですよこれ、お寿司ってのはやっぱり美味しいですねえ!

 

「んーデリシャス! やっぱ本場日本の寿司は格別よね。それにこういうところのは値段も安いから、安心していくらでも食べれちゃうわけだし」

「そ、そうだねアンジェちゃん……えへへ、能力者犯罪捜査官になって一番よかったのは、こうやってい、いろんな国のいろんな食べ物を味わえることかなって。えへ、えへえへ」

「ハッハッハー、分かるよランレイさんその気持ち! エリスさんもなんだかんだと不老生活のなか、いろんな土地で食べ物をいただくのはしばらくの間、ほとんど唯一の楽しみだったよー」

「師匠の事情だけ突き抜けて重いんですよね、はっはっはー! いやー反応に困りますって」

 

 同じように寿司をパクつくアンジェさんが舌鼓を打てば、ランレイさんやエリスさんがそれぞれ食への傾倒ぶりを明かしてくれる。

 片や山奥のシェンの里出身、片やフィンランドの田舎出身らしいからね。どちらの土地もそれぞれ素晴らしい場所だろうけど、それはそれとして食の多様性に触れるってことは比較的なさそうだから、世界を股にかける旅のなかでさまざまな味を体験するのは一つの喜びだったんだろう。

 

 まあ、エリスさんのほうは事情が事情すぎて葵さんが仰るとおり反応しがたいところはあるんだけどね。

 不老に陥り故郷に帰ることもできず放浪を続けた、そんななかで見出した唯一の楽しみなんてのはね……しばらくの間ってのも相当長い年月だったろうし。

 

 とはいえそこまで気にしても、逆にお互い気まずかろうしひとまず俺も寿司を食べる。

 香苗さんも上品にお吸い物とか挟みつつ食べてる姿はがさすがに良いところのお嬢様だよ、とても伝道師とは思えない。

 

 そうしているうちにお茶をひと啜りして、エリスさんが朗らかに笑って話し始めるのを俺達は耳を傾けた。

 第三次モンスターハザード……葵さんの祖父、光太郎さんが活躍された戦いについて、エリスさん視点からのお話だ。

 

「えーそろそろさっきの話の続きしよっかな? まあ食べながらの雑談の種くらいに聞いておくれよハッハッハー。第三次モンスターハザードの時の話だっけ? いやー参ったよねあの時は、中部地方があんなことになるなんてさしものエリスさんも予想外だったし」

「そういえばエリスさん、第三次にも参戦してたんですよね? こないだヴァールから軽く聞きましたよ。あの頃のこと、あの子は相当感謝してました」

「ん……そっか。それなら良かったハッハッハー。あの人のお役に立ててたんなら、あの頃の小娘エリスさんのやったことも値打ちはあったってことだしね。何しろまだ、今の葵と同年代くらいでいろいろ粗雑な動きしてたからさ。こっ恥ずかしいったら」

「二十歳前後でモンハザ2回も体験してるの、地味にとんでもないわねー……」

 

 かねてよりヴァールからも、第三次においてエリスさんが陰ながら助力していたみたいな話は聞いていた。しみじみと心からの感謝を述べていたあたり、あの子にとって相当にありがたかったんだろう。

 それを教えるとエリスさんも淡く微笑み、遠く昔日を想うように遠くを見つめていた。当たり前だけれどこの人とソフィアさんとヴァールはお互い、明確に特別視してる節はあるよねー。

 

 にしても第三次当時、エリスさんはちょうど葵さんくらいの年齢だったか。たしか今96歳で75年前の話だから、21歳頃だね。

 さらにその3年前には第二次があったわけで、畢竟18歳と21歳の時に北欧と日本で世界を護る戦いに身を投じたことになるんだ。控えめに言うけど英雄すぎるよ……主人公かな?

 

「ハッハッハー、まあ成り行き成り行き。ともかく第三次だよ、えーっと75年前か。日本は中部地方ではその頃、やっぱりスタンピードが頻発しててね。第二次における北欧戦線の前触れかと、早々にソフィアさんやヴァールさんが現地を訪れるくらいの状況にあったんだ」

「……当時の日本は歴史的に見て、能力者大戦後の混乱を抜けて高度経済成長を迎えようとしていた頃合いでしたか。そんな折にスタンピード騒ぎがあり、WSOの即時介入があったと。第二次から間もないこともあり、相当迅速な動きですね」

「だね。あの人としては速攻でケリをつけたい思いがあったみたいだけど、逆に1年以上もかかっちゃった。むしろ第二次の数倍の期間をかけて長期間、日本に滞在してことにあたらざるを得なくなっちゃったんだね。これについては葵もいくらか聞いてるかもだけどね、光太郎くんから」

 

 歴史の教科書でも載ってるような昔の時代。戦後を抜けて、この国がいよいよ高度成長を遂げようって頃の時期に起きた、連続スタンピード。

 当時のWSO統括理事ソフィア・チェーホワはそれを受けてモンスターハザードの発生を懸念、本人が来日して事件解決に向けて乗り出した、と。

 

 もうこの時点で相当な状況だけど、それでもソフィアさん的には短期決戦を目論んでいたみたいだ。まあ、そりゃお仕事もあるしね。いくらモンハザっても長々居座っていられないだろう。

 ……だけどそんな思惑も叶わず、結果として第三次モンスターハザード終結には一年以上もかけざるを得なくなったらしい。

 話を向けられた葵さんが、どこか苦笑いめいた微笑みを浮かべつつうなずいた。祖父の光太郎さんからも聞いているらしい長期化の原因とは、一体?

 

「はっはっはー、まあ身内の恥だって本人は頭掻いてましたけどねー……当時の中部地方の探査者達があまりに質が低かったから、指導と教育も含めて日本探査者界のテコ入れをも図ったんです、統括理事は。それもあって長引いたんですね」

「質が……低い?」

「人の話を聞かない、何かあれば暴力で片付ける、何より誰一人として仲間を持たずソロでモンスターと戦う。その実力もないのに。おじいちゃん曰く、能力者大戦からの伝統と風習だったそうです。スタンピードでもモンスター討伐より先に探査者同士で喧嘩してたとか」

「えぇ……?」

 

 怖ぁ……予想の斜め上じゃん、何そのワンマンアーミーの群れ。モンスター倒すより先に同業に殴りかかるのシンプルに意味不明でドン引きなんですけど。

 明かされた75年前の探査者事情。俺はおろか香苗さんやアンジェさん、ランレイさんさえも絶句して葵さんをじっと見つめていた。




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