攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

2059 / 2059
何があっても忘れない。あの日の光景、差し出された手を

 昔日を語るエリスさんに一同、耳を傾けつつもお寿司を食べまくる。ダンジョン探査の後だからみなさんってばまあよく食べること、食べること。

 かく言う俺ちゃんももう10皿は食べてて、それでもまだまだ行けちゃうんだけどね。お、ぶりだもーらい!

 

 

『醤油追加、わさびも多めでいけよ公平! 最近この手の調味料の味わい深さにも気づいてきたんだよ僕、やっぱりスパイスってのは大切な要素だね! 言ってる間にレーンの向こうから今度はいくらが来たぞ、僕はあれもたまらないんだ10皿くらい一気にもらってしまえ!』

 

 

 他所様の迷惑になるだろうが馬鹿野郎、そもそもそんなにいくらばっかり食べてられるか! ……と、脳内でお寿司パレードに大はしゃぎなアルマさんに反論する。

 自分で言ってるように最近こいつ、舌がいよいよ肥えてきたのか細かい味つけとかトッピングにまで言及してきていよいよグルメさん気取りなんだよね。別に構いはしないんだけど、そのうちオーバーリアクションに脳内でずっと騒ぎ倒すんじゃないかと若干不安な俺ちゃんだ。

 

 さておき、エリスさんの話もそろそろ一区切りだ。

 第五次モンスターハザードにおいて初顔合わせした光太郎さんとの思い出。そしてそこから、半世紀に亘っての早瀬家との縁について、締めくくろうとしていた。

 

「光太郎くんとはその後、第七次でも共闘したなあ。その頃にはもう彼もすっかり65歳でね、これが終わったら引退して隠居するって前もって豪語していて、事実そのとおりにしたんだ」

「25年前……こないだの事件が第八次って扱いになるわけで、つまりそれ以前の大ダンジョン時代における最後のハザードでしたね。ロナルド・エミールさんが大活躍された、北米の」

「そうそうそれそれ。あ、ちなみにさっきも言ったけどロナルドくんって何を隠そう、エリスさんが第二次の時に世話になった先輩探査者さんのお孫さんなんだよ。シモーネさんって言ってね、すごく優しくてカッコよかった、お姉さんのような人だったよ」

「……れ、歴史の生き字引で、ですねエリスさん、ほ、本当に……」

 

 先日の件が起きるまでは最後のモンスターハザードだった、第七次の事件。それは25年前に北米全土を舞台に起きたそうなんだけども、あのロナルドさんが中心的英雄となって大活躍された騒動でもある。

 そんでもって俺もこないだ知ったことではあるけれど、そのロナルドさんが実はエリスさんのかつての仲間の子孫らしいんだよね。シモーネ・エミールさんっていう、もうずいぶん昔に亡くなられた探査者の方だったそうだけど。

 

 これにはアンジェさんもランレイさんも思わず息を呑んでいる。シンプルにエリスさんの人生において関わってきた探査者達に、数奇な縁が多いから圧倒されてるんだろう。

 ロナルドさんとシモーネさんだけでなく光太郎さんと葵さんもそうだし、マリーさんとアンジェさん、ラウエンさんとランレイさん、リンちゃんもそうと言える。

 

 つまりは永く生きてひたすら各地で戦い続けただけに、遠い昔に関わった人の子孫とこうして関わってることがやたら多いんだね。

 これについては当のエリスさんも苦笑いするやら大喜びやらって感じみたいで、照れくさそうに、けれど懐かしそうに面々を見ていた。

 

「そういう縁は今、ここにいる君達三人を見てると殊更強く感じるんだよね、ハッハッハー。マリーさんの孫、ラウエンさんの子孫、そして光太郎くんの孫……決してそれをもって君達を蔑ろにしたり、過去の幻影を見ることはないけれど、それでも時折想いを馳せずにはいられないんだよ。なんか、ごめんね」

「いや、さすがに思うところはあるでしょう、こんなシチュエーション……私だってエリスさんのこと、おばあちゃんの先輩として見てるところもありますし」

「ふむ。そう言うとランレイさんにとっては先祖の戦友、葵さんにとっては祖父の友人という見方もできますね。ちなみにまさか、私の曾祖父である御堂将太とも何かつながりがあったりはしましたか? 第三次や第五次の頃、来日された際にとか」

「ハッハッハー、そこまではさすがにないねー。ソフィアさんやヴァールさんは香苗さんのお家と縁深かったみたいだけど……まあそこ言い出すと、結局すべてあの人に帰結するからね。私の人間関係とかも、やっぱり根本はあの雪の日の出会いだ」

 

 瞳を閉じる。エリスさんは静かに、楚々とした微笑みとともに佇んでいる。息を呑むほどに美しい所作だ。

 78年、この人はさすらい続けた。不老を抱えて自分だけは何一つ変わらない身体で、ただひたすらに人々を、世界を護り続ける旅を続けてきた正真正銘の聖女、聖人。

 

 そんな彼女の根本にあるのは、誰あろうソフィアさんとヴァール──とりわけヴァールだ。

 一番最初の出会い、すべてがそこから始まり今に至っているわけだからね。良いことも悪いことも、エリス・モリガナに降りかかった禍福のすべては遠い昔、ヴァールに命を助けられたその日に始まった。

 

「死ぬまで忘れない、死んだって忘れない。あの日、あの時、あの瞬間……ヴァールさんが差し伸べてくれた手を、掴んだことで私はたしかに運命が変わったんだ。本当ならあそこで死んでるはずだったのが、世のため人のために生きる猶予を与えてもらえた」

「エリスさん……」

「ま、それがどうしたことかずいぶん長いロスタイムだけどね? これはこれで悪くないって今なら思えるさ、ハッハッハー! ……誇りに思える弟子を、こうして見送ることもできたしね」

 

 そして目を開け、葵さんに笑いかける。その微笑みと瞳の、なんて綺麗で透明なことだろう。

 葵さんは無論、俺や他のみんなも。しばしの間、エリスさんのそんな笑顔と言葉に感じ入っていた。




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