攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
エリスさんのお話を聞きながらもお寿司を食べてたら、すっかりお腹も満腹寸前だ。結構食べたなー、30皿超えちゃった。
他の方も大体似たようなものだけど、一応俺ちゃんが一番皿数が多いよ。やったぜ、食事量ではトップランカーだぞ。
「さすがに公平は食べ盛りの年頃って感じねー。良いことよ、若いんだからもっと食べなさいな!」
「ハッハッハー、アンジェさんもぜんぜんお若いじゃないのさー。でもま、若さゆえの健啖さってのはあるよね。知り合いも年追うごとに、久々に会う度に食事量が見るからに減っていったなんてこともあるし、こればかりはねえ。ちなみに聞きたい? マリーの前の特別理事さんのお話なんだけど」
「はっはっはー! 師匠のそのへんの話はこう、いろいろしょんぼりしそうな気がしなくもないのでまたの機会に!」
「怖ぁ……」
花丸笑顔で俺の食いっぷりを賞賛してくださるアンジェさんだけど、この人もなんやかや20皿近くは食べている。
しかし若いんだからって、エリスさんの言うようにアンジェさんもまだまだお若い20歳ちょっとだろうに。それこそマリーさんあたりが聞いたらまたからかわれそうだよ、その発言。
そしてエリスさんや葵さんはちょっと控えめで15皿前後か。でもどちらも今はスイーツを頬張ってるし、甘いものは別腹って感じで良いね、俺も注文しちゃお。
何やら思い出話の気配も漂わせていたけどそこは葵さんがさすがに阻止している。会う度に食事量が減っていったってのはどうあれ不穏というか、食事中に聞くと反応に困りそうな予感もするから仕方ないね。
なんならエリスさんなんて、昔日のお話の合間にお寿司を食べていたわけだけど……例によって例のごとくブツブツ小声でレビューしてたからね。
やれ酢飯の加減が良いとか、ネタの鮮度も素晴らしいとかなんとか。この人出会った時からなんだけどこういうところがあって、食事になると割と自分の世界に埋没して料理と一人向き合うタイプの人だったりするんだね。
「て、ていうかエリスさん、お寿司食べてる時ずっとぶ、ブツブツ言ってましたね……な、なんかトランスしてました?」
「あっ、いつものことなんで気にしないであげてくださいランレイさん、はっはっはー! この人基本的に食事は一人であちこち巡る習性がありまして、なんか小声でレビューつぶやくのが癖になってるんですよ」
「ハッハッハー、一人でいる時間が長すぎたねー。大勢の人の前ではあがり症になったりもするし、78年前の私が今のエリスさんを見たらドン引きすると思うよ」
「エリスさんに限らず、人前で目立つと緊張するのは誰でも同じですよ。気にしなくても良いと思いますが……」
当然、それを近くで見ていたランレイさんがちょっと不安げに尋ねれば、そこもやはり理解の深い葵さんがフォローし倒す。当の本人も顔を赤らめつつも誤魔化し笑いしているよ。
こういうところで即座に師匠を支えて補助するってのは、葵さんが持つ美徳の一つだと思う。というか、こういうふうに人をフォローできる性格だからさっきの探査でも魅せた新境地に辿り着けたのかもね。
ついでに人前だと緊張する、的なことも言ってるけどまあそこはね。別に不老ゆえとか孤独な旅だったがゆえとか関係なしに緊張する時は緊張するし。
たぶん夏にあった御堂邸訪問の際、御堂一族のみなさんの前で名乗った際にテンパったのを指して言ってるんだろう。香苗さんも言うとおり、ああいうのはそもそも場数の問題だしね。かく言う俺だって緊張してたもの、あの場面。
「いやはやお恥ずかしい……まったくこれから大丈夫かな、私も。ソフィアさん付きの護衛となったらほぼ完全に楽隠居タイムに突入なわけだけど、染み付いた孤独仕草を一々からかわれそうな気がするよ」
「統括理事と二人、いえ三人で引退後はこのへんに住み着いて隠居生活。正直、まだ実感は湧いてませんけど……そうですよね、数年後には統括理事、引退されますもんね」
「今からもうてんやわんやらしいよ、WSOも国連関係機関も各国首脳部も。こないだニュースでもやってたけど、臨時総会とか開いたりするんだってさ。永遠の探査者少女も大変だよね、100年頑張ってきて最後にこんな大仕事だなんて」
「怖ぁ……え、ちなみにエリスさんは葵さんと離れてからは、もう彼女のほうに?」
「うん。頼まれてるしね本人やマリーからも。まあ万に一つもない話だけど、ソフィアさんの身に何かあったらいけないからって私も今後あちこち世界を飛び回る形だよ」
肩をすくめるエリスさん。これから先の話、葵さんがアンジェさんやランレイさんとトリオを組んだ後の身の振り方は、やはりソフィアさんの護衛として過ごすみたいだ。
まあ仕方ない、こればかりは……あの人の引退発表からこちら、国際社会は激動というか戸惑いに満ちているみたいだからね。
何しろ永遠の探査者少女、100年君臨してきた大ダンジョン時代そのものの象徴みたいな人の引退だ。その余波や後継問題も含め、今から決めなきゃいけない話は山ほどあるだろう。
ゆえにもうすでに彼女は仕事に追われていて、マリーさんも特別理事として奔走しているって聞くよ。ニュースでも、どこぞの国で総会開いて話し合いとかって言ってるし。
だからこそ、エリスさんという最強の探査者も護衛たるならば、ともについて回らなきゃいけないんだろう。
苦笑いしつつもどこか、楽しそうに彼女は語った。
「ま、どうあれ委員会の件が片付くまではこの近辺にいることも多いし……ぶっちゃけソフィアさんもさっさと時期を前倒してでも公平さんの近所に移住するつもりしてるし。そうそう戻ってこないなんてこともないからそこはよろしくね!」
ウインク一つして、お茶目に笑うエリスさん。
この人にはこの人で、これから先もまだまだやることがある。気楽な隠居まではもうちょいだけ、頑張ることになるみたいだった。
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